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『退魔鬼譚』 ~妖怪学校一の美少女と異世界帰りの勇者は怪異退治が任務である~  作者: 保志真佐
第二章 口裂け女と猫又

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012妖狐




 斗真が隠し通路に入ったのと同時に、隠し通路の入り口が閉じる。


 三人が隠し通路を進んでいくと、すぐに少し広い部屋に辿り着く。


 その部屋は、隅にたくさんの蝋燭が灯されており、壁のあちこちに何かの文字が書かれたお札が張ってあった。


 さらに、部屋の奥には台のようなものが置かれており、台の上には、かなりの魔力を持った大きな丸い鏡があった。


 あたかも何かの儀式をやるような、若干の不気味さを感じさせる部屋。


 「いらっしゃい、楓」


 そこで、部屋の中から、女性の声が聞こえた。


 「琴葉さん、こんにちわ」


 楓は部屋に向かって、こんにちわ…と言う。


 斗真は部屋の中を見る。


 そこには、声の主である一人の女性………………ではなく、人ではない別のものがいた。


 三角耳とふんわりした尻尾の生き物。


 「…………狐?」


 斗真は目を見張る。


 そう…一匹の狐がいたのだ。


 金色の体毛に覆われた狐だが、その実…多くの魔力を感じた。


 そして、狐が次の瞬間…口を開く。


 「その子が話に聞いていた、斗真って子ね」


 狐が喋ったのだ。


 先程、部屋から聞こえた女性の声で。


 魔力を発し、人の言葉を使うことから間違いなく、この狐は妖怪だ。


 斗真の妖怪知識の中には、これに該当するものがいる。


 それは、


 「妖狐」

 「ふふ…その通りよ」


 狐……妖狐は不敵に笑う。


 妖狐…それは読んで字のごとく、狐の妖怪。


 化け狐とも呼ばれ、昔から人を誑かしたり、人に化けたりする妖怪である。


 狐の銅像がある神社には、油揚げを供えしたりすることが多いが、それは妖狐の大の好物が油揚げだからだ。


 他にも不思議な術を使ったりと、妖怪の中では、かなりポピュラーな方ではないだろうか。


 徐に、妖狐は近くにある台の鏡のそばにある簪を咥える。


 すると、見る見るうちに妖狐の姿が変わる。


 数秒後には、妖狐の姿から、年齢が二十代後半程の赤い線がある黄土色の着物を着た美しい女性の姿に変わる。


 平均的な成人女性の背丈に、豊かな胸元。

 色気を感じさせる白い肌に、桜色の唇。


 秋に黄色で咲く銀杏のような金髪が、三つ折りに結ばれており、妖狐の時に口に咥えていた簪が髪に刺してあった。


 「「姿化かし」ですか」

 「そうよ。こっちの方が話しやすいでしょ」


 恐らくあの簪も「姿化かし」なのだろう。


 「妖怪の時の私の姿が見えているという事は、貴方も妖気を持っているのね」


 女性の姿になった妖狐は、艶めかしく笑う。


 斗真は頭を下げ、自己紹介をした。


 「星原斗真です。よろしくお願いします」


 対する琴葉も自己紹介をする。


 「ええ、よろしく。私は月影琴葉(つきかげことは)。ここの『退魔士協会・隗隗街支部』の支部長を務めているわ」

 「因みに、僕が副支部長」


 琴葉は自身が退魔士協会・隗隗街支部の支部長であり、墨岡は副支部長と言う。


 ここで、知らない単語が出てくる。


 「退魔士協会?」

 「全国にいる退魔士をまとめる組織のことだよ。斗真には、まだ教えてなかったね」


 斗真の疑問に、楓が回答する。


 「本部は京都に会って、この役所が全国中にある退魔士協会の支部の一つである隗隗街支部。この支部から退魔士へ任務の連絡が来るの。………とは言っても、この街の退魔士は以前言ったように私一人だけだけど」


 隗隗街と言うのは、斗真が通う隗隗高校がある街の名前だ。

 やっぱり思うが、もう少しマシな町の名前は無かったのか。


 それにしても、本部が京都か。


 京都は日本で最も多く寺や神社を抱える場所であり、妖怪の聖地を言われるところだ。


 しかも、京都と言って思い出すのは、仁の在住場所。


 数日前に、自身が無事に元の世界に帰ってきた有無を手紙に書いて、京都へ送った。

 今頃、仁は手紙を読んでくれているかな。


 斗真がそんなことを考えていると、妖狐である琴葉は数歩詰めて、斗真の頬を温かい両手が包み込む。


 「ふぇ?」


 疑問に駆られる斗をよそに、琴葉は斗真の顔をじっと見る。


 「ふ~ん…素直そうな顔をしているわね。楓がバディを見つけたと言った時は、どういう子なのか気になったけど。良い子そうで安心したわ。でも………」


 満足げに頷いた後、斗真の顔を離す。


 琴葉は首を傾げつつ、斗真の全身を見る。


 「妖人(あやかしびと)とは、聞いているけど…一見すると、貴方からは妖気を全く感じられないのよね」

 「ああ…それですか」


 斗真は深呼吸した後、自身の内側に"押さえ込んでいた"魔力を一気に解放する。


 「まぁ」


 琴葉は口に手を当て、驚く様子を見せる。


 「俺はこの通り、普段は自分の魔力………妖気を抑えています」


 肉体を強化したり、魔法を使用に欠かせない魔力を抑え込むのは、咄嗟の魔力の出力が下がり、メリットが無いように思える。


 しかし、隠密や索敵となると、大きな意味を持つ。


 強力な魔物や、特に魔族たちは、周囲の魔力を感知するのに長けているのだ。

 少しでも魔力が体から洩れていると、居場所がバレてしまう。


 だからこそ、自身のスキルである〈万能眼(オール・アイ)〉が索敵向きという事を考慮して、斗真は常日頃から魔力を体内に押さえ込む癖を付けているのだ。


 「なるほど。楓が仲間にしたがる訳ね。ここまで妖気を操作できるなんて」

 「はい。斗真とは二回しか共闘はしていませんが、見立てでは、すでに斗真は私を上回る妖気操作技術を持っています」


 琴葉は感心する。


 楓も、それに追従する。


 実際、この魔力を体内に押さえ込んで、魔力の放出を無くす技術は地味だが、習得に異世界で二年掛かった


 例えるなら自分の心臓の鼓動を、自分の意志で自在に操れると言えば、習得の困難さが分かるだろう。


 「うんうん!これなら、さっさと斗真を退魔士にした方が良いわね」


 琴葉は手を叩いて、そう言った。

 斗真は首を傾げる。


 「あれ…試験はしないんですか?」

 「勿論、試験はするわ。まぁ…試験と言っても、決まったルールや形式は無いのよね。あくまで最低限、退魔士としての実力があるか否かを、確認するための試験だから」


 それは意外だった。

 試験と言うからには、厳格なものを想像していたが。


 「少し退魔士について、説明しましょう」


 琴葉はコホンと一つ咳払いをする。


 「退魔士の主な任務は、発生した妖獣の退治、妖怪や妖人によって発生した問題の解決。退魔士自体は全国中にいるけど、猫の手が欲しいほど、どこも人材不足」


 琴葉はヤレヤレと言った風だ。


 「しかも、退魔士の殆どが妖怪。中には、貴方みたいな妖人もいるらしいけど、極少数。妖怪は「姿化かし」を使わないと、普通の人から見られることも無い。だから退魔士なんて、所詮は非公式の業界なの。適切なマニュアルや規制がある訳でもない」


 ピシッと、琴葉が斗真に人差し指を向ける。


 「だから、貴方みたいな実力のある人は、早急に退魔士になって、任務に着いてほしいのが本音なのよ」

 「そう言う事でしたか」


 斗真は理解する。


 「それじゃあ、時間も勿体ないし、パパっと試験を始めましょう」


 こうして、琴葉による試験が開始されるのだった。




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