幕間 異世界に召喚されて②
斗真たちを、この世界に召喚した王女が花が咲いたかと見紛う笑顔を浮かべ、斗真を見ていた。
王女は軽装に加え、右手に木剣ではなく、木槍を持っていた。
「これをどうぞ」
王女は左手に持った物を斗真に渡す。
それは濡れた布だった。
「あ、ありがとうございます」
斗真はお礼を言って、布で汗を拭く。
濡れているので、気持ち良かった。
王女は斗真の隣に座り込む。
フワリ…と、花の香りが斗真の鼻腔に入り込む。
「今日も剣術の訓練、お疲れ様です」
王女が労いの言葉を掛ける。
「何かお悩みの事でもありますか?」
「え?」
王女が顔をこちらに寄せて聞いてきた。
良い匂いが益々漂う。
「先程、顔色が優れないようでしたので」
王女が悩みが何のかと聞いてきた。
どうやら、自分が抱えていた不安から、眉根を寄せている様子を見られていたようだ。
「余り剣術が上手くならなくて。こんなんで本当に強くなれるのか、魔族と戦えるのか、不安に思ってしまって。歴代の勇者はいつも魔族を倒しているらしいのですが、どうしても自信が湧かなくて」
斗真は渋々打ち明ける。
斗真が言ったように、今回の勇者召喚は初めてではない。
勇者召喚と言うのは、2、300年かの数百年間隔で、オーロラ王国の王族によって行われているのだ。
魔族たちは、勇者によって倒されたとしても、何故かいつかは数を増やし、復活する。
その度に、オーロラ王国の王族から魔力量が多く、魔法適正の高い王族が生まれ、また勇者を召喚する。
そして、召喚された勇者はまた魔族たちを倒し、元の世界に帰る。
この循環であるのだ。
「俺のスキルである〈万能眼は、戦闘用の物ではありません。だから、せめて最低限自分の身を守れるようにしないといけないのに。本当に自分が必要な存在なのかどうかも、疑ってしまって」
斗真も話している内に、どんどんネガティブな思考になっていく。
「なるほど。お悩みは分かりました」
しかし、そんな斗真の悩みを王女は真剣な顔で聞いてくれた。
「一つ言っておきますと、斗真様のスキルが戦いに関する物ではなくとも、気にする必要はありません。過去の勇者様に関する書物は、古くて解読できない箇所が多々ありますが、歴代の勇者様たちのスキルには、必ず仁様のような戦闘に直結するスキルもあれば、斗真様みたいなスキルの所有者もおりました」
王女は努めて、斗真を励ます。
「それに…………誰かが斗真様を守ればいいのです」
「はい?」
斗真は聞き返したが、そんな斗真に構わず王女は立ち上がり、斗真に先程まで剣の手解きをしていた騎士に近づく。
「二人の剣の様子は、どうですか?」
王女は斗真や仁に聞こえない程の声で、騎士に尋ねる。
どうやら王女は、斗真と仁の剣術の上達具合を知りたいみたいである。
騎士は姿勢を正し、小声で進捗報告をする。
「仁様に関しては、剣術の伸びが著しい成長を見せております。元々、あちらの世界では、ケンドウ…………という武道をやっていたらしく、剣術の基礎もしっかりしており、すでに我々と同等以上の力量を習得しています。既に何人かの騎士に、仁様は模擬戦で勝っています」
「それ良い事です」
満足そうに頷く王女。
そして、王女はチラリと斗真を見る。
「仁様は分かりました。では、斗真様は?」
斗真の事も聞く。
これに対して、騎士は気を使ってか、さらに小声で言う。
「斗真様に関しては、基礎作りの最中です。筋は悪くは無いのですが、技術に置いては、まだ修練が必要です。魔物討伐に行かせるのは、まだ早いかと」
「そうですか」
騎士の端的な説明に、王女も端的に頷き、何かを考え込む。
ここで、騎士が言った魔物討伐と言うのは、数日後に行われるゴブリン討伐のことだ。
王都から少し離れた森には、魔力を持ったモンスター…魔物が生息している。
二か月で培った技術を生かすためと、実戦による経験を得るために、その森にいる魔物の中でも、最弱の魔物であるゴブリンを斗真たちに倒せるのである。
異世界に来てから、勇者である斗真たちの初の実戦となる。
だが、騎士は斗真の剣の技量は拙いところがあるので、ゴブリン討伐に連れて行くのは反対のようだ。
「報告ありがとうございます」
考え事が済んだのか、そう言って、王女は騎士から離れる。
そして、王女が向かった先は素振りをしている仁だった。
「仁様、宜しいでしょうか?」
「王女様?どうされました?」
仁は素振りの手を止め、木槍を持った王女に首を傾げる。
「はい。仁様に、一手ご指南願いたく」
そう言って、コンコン…と、王女は木槍の石突の部分で地面を少し叩く。
どうやら、王女は仁と模擬戦がしたいようだ。
「お、俺は構いません!」
仁は慌てながらも、木剣を構える。
対する王女も、仁から少し距離を取り、木槍を構える。
「「…………」」
お互いが無言の状態が続く。
開始の合図は無かった。
代わりと言っては何だが、王女と仁との間に風に乗って飛んできた花びらが落ちる。
「しっ!」
王女が仁に向かって掛ける。
女性とは思えない速度だ。
王女はそのまま右で構えた木槍を突き出す。
遠目で見ていた斗真でも、見逃すほどの鋭い突き。
斗真なら、この一撃で終わっていただろう。
だが、そこは仁である。
「く?!」
木剣を左に立て、王女の突きを流す。
流しつつ、木剣による横薙ぎを王女に振るう。
カン!
それを木槍の柄で受け止める。
そして、王女は時計回りに体を回転させ、薙ぎ払いを放つ。
それを一歩引いて、仁は躱す。
一歩引いて、また一歩詰めて、仁は突きを放つ。
それを王女は木槍の柄で撃ち落とす。
王女と仁の模擬戦は一進一退の攻防を繰り広げていた。
いつの間にか、斗真だけでなく、周りの騎士たちも遠巻きに眺めていた。
どちらも譲らない中、数十合打ち合う。
けれど、互角に思われていた模擬戦も終わりを迎える。
「うっ?!」
カン!
仁の木剣が、王女の払い上げで弾き飛ばされる。
地面に落ちる仁の木剣。
刹那、周りから騎士たちからの歓声が起こる。
斗真も拍手を送った。
「す、凄いです!王女様!」
仁も一瞬惚けたが、直ぐに笑みを浮かべ、王女を称賛する。
「いえ、紙一重の戦いでした。運が良かっただけです」
「ご謙遜を」
先程の仁と騎士との模擬戦の結果とは、逆の光景になっていた。
それにしても、王女様があそこまで強いとは。
王都を守る騎士に勝つほどの仁よりも強い。
斗真は内心驚く。
歴代の王族の中でも、王女は勇者に引けを取らない魔力量を持ち合わせ、生まれた。
魔力量の多さは、肉体強化や魔法の威力に、そのまま直結する。
だが、さっきの模擬戦は王女も仁も魔力は使用していなかった。
つまり、素の身体能力と槍術で、王女は仁に勝ったのだ。
王女は確か、斗真や仁よりも三つ年上であるが、そこまで離れてはいない。
同年代に近い王女は、元の世界では剣道の大将である仁を倒したのだ。
賞賛された王女は、また斗真を指導してた騎士の元に向かう。
「魔物討伐の件ですが、斗真様も連れていきます。勇者のスキルを成長させるには、魔物の討伐が最も効果的です」
王女は斗真を魔物討伐に連れて行くと言う。
勇者が持っているスキルは、強力なものばかり。
だが、初期の段階だと、まだ使える能力は限られてくる。
スキルは成長することで、使える能力を増やす。
最も手っ取り速いのが、王女の言った通り魔物の討伐である。
「……お言葉ですが、危険ではありませんか?」
「それは問題ありません」
騎士が難色を示したことに、王女は微笑み、大丈夫だと言う。
そして、右手に持っていた槍を回す。
「斗真様は私が守ります」
そう言った王女は、今度は斗真の方に行き、こう言った。
「斗真様、私と一緒にバディを組みませんか?」
「バディ?」
斗真はキョトンとする。
そんな彼に、王女は意思の籠った目で告げる。
「はい。私が斗真様のバディとして、貴方をお守りします」
これが斗真と王女がバディを組む始まりであった。




