38. 場違いな高級店
家族で休日を過ごしていたのに思わぬ人の登場で台無しにされてしまった。
私は義理兄に手を引かれ施設を出て帰る事になった。
「何か騒ぎになってごめんね義理兄さん」
「お前が謝るコトじゃない」
少し車を走らせ窓を見ていると自宅とは別の方向に走っているのに気づいた。
「何処に行くの?」
「折角外に出たんだ、少し早いけど夕飯は外食しようと思って店を予約したんだ」
店を予約?
これも一ノ瀬さんに聞いたのかな?
「お店って?」
着いたら分かるさと一言だけ言って後は何も言わず運転を続けた。
辺りは日が落ち夕焼け色になった。目的の場所に着いたのか義理兄は慣れた様に誘導員の指示に従い地下への入り口へ入って行った。
地下駐車場の様だが私が知っている駐車場とは規模が大きい。駐車場の広さだけで小さな飲食店なら幾つか出来そうだ。
先に車から降りた義理兄が助っ席のドアを開けた。
「ここ、何処なの?」
「外食するって言っただろ」
え? じゃあここって飲食店なの?
こんなバカ広い駐車場があるお店って・・・・・・、頭に"超"が付く高級店以外あり得ない!!
ほら行くぞと手を引かれ歩いていると、人がいた。
「いらっしゃいませ、お名前をお伺いします」
お店の従業員なのかタキシードを着た男性が業務作業を行っていた。受付けする場所なのか綺麗で大きい。
「・・・・・・」
いやちょっと待て! 私、場違いな所にいるんじゃないの?
何か受付けしている従業員もチラチラ見てるし、ちょっとお洒落した格好で来る様な所じゃないよね絶対、こういう場所ってドレスコードっていうのが必要なんじゃないの?!
行くぞとまた声を掛け義理兄は私の手を引いた。
エレベーターに乗り込み着いた処には、また従業員がいた。
「「いらっしゃいませ」」
男女二人が出迎えた。
「こちらへどうぞ」
男性従業員が義理兄を誘導した。
え? な、何? 何なの?
女性従業員が近づき声を掛けた。
「では、こちらにどうぞ」
といって通されたのは沢山の衣装が置かれた広い衣装室だった。
なんじゃコレーーーっ!!
「あのぉ~、コレって?」
先程案内してくれた女性従業員に恐る恐る声を掛けた。
「こちらは貸し出し衣装試着室になっており好きな衣装をお選び後、飲食エリアに向かうコトが出来ます」
貸し出し出来る衣装って言われても、どの衣装も高級そうな衣装ばかりじゃん! 迂闊に汚せないよ。
どれにしようか迷っていると一人の女性従業員が声を掛けて来た。
「コレなんてどうですか?」
え?
女性従業員が手にしている衣装は真っ赤な深紅のドレス、装飾に薔薇の花が付いていてシンプルだけど綺麗な一着の衣装を私に薦めて来た。
いやいやいや! ソレも高いヤツでしょ、無理です着れません!!
青ざめる私に女性従業員は、さぁさぁと強引に試着させられた。試着が終わり飲食エリアに繋がっている通路を歩いていた。
ドレスなんて普段着ないから恥ずかしいし、足元スースーするし、ヒールめっちゃ歩きにくいし足が痛い。義理兄さん何で説明してくれなかったのよ。
慣れないヒールで通路を歩いていると広い場所に出た。通路より下の方では大きく開けた場所に沢山の人の姿があった。
「こんなに人が・・・・・・」
頭上にはシャンデリア、バイキング形式でクラシックなBGMが流れる中、各々好きな物を取り円卓の様なテーブルで飲食を楽しんでいた。
「お一人ですかお嬢さん?」
呆気に取られていると一人の男性に声を掛けられた。体格と声で男性だというのは分かったが顔は仮面を着けているので分からなかった。
「宜しければ私とご一緒にーーー」
「いえ、あのぉ~~~」
場所が場所なだけに、この男性ぶっ飛ばして逃げたら絶対マズイよね。
後退りしていると後から大きな手が伸び私の身体を包み込んだ。
「私の連れに何か?」
それは義理兄だった。
仮面を着けた男性は無言で佇んでいる。
義理兄に、行くぞと手を引かれ歩いた。
「そのまま連れて行かれたらどうする、危ないだろ!」
この店予約したのはアンタだろうと言ってやりたかったが我慢して呑み込んだ。
「ここ、高いお店なんじゃないの?!!」
「会員制の店だ」
高級店じゃねーか!!
せめて入る前に事前に説明してくれ!
何で、こんな店選んだんだよ!
「だ、大丈夫・・・・・・なの?」
料金とか心配で恐る恐る聞いてみた。
「・・・・・・何回か来たコトはある」
しれっと義理兄が言ったが私は冷や汗が止まらない。車といい、この店といい義理兄とは金銭感覚が大分違うコトを思い知った。
さっきの開けた場所とは違い義理兄に連れられて来た処とはまた別のエリアに着いた。
コッチは会員制専用エリアだと義理兄は言った。従業員が空いていた一室に案内してくれた。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さい」
頭を下げていなくなった。
メニュー表を見たが全部英語表記で読めなかった。流石高級店、こんなコトなら学校の授業サボるんじゃなかったと自分を責めた。
「何にする?」
「・・・・・・何でも良いよ」
英語読めないし、食べられる物なら何でも良い。
義理兄は従業員を呼び二人分の注文をした。注文した物が来る迄、義理兄が話しを振った。
「いきなりだが、学校の方はどうだ?」
本当にいきなりだ。
「まぁ、行ってるよ」
友達は、授業はと聞いて来るので答えた。
「友達は・・・・・・いるよ、授業は一ノ瀬さんに教えて貰っていた時の方が良かった」
学校の先生が教える方より一ノ瀬さんの方が教え方が上手だって意味で言ったのだが義理兄には別の意味で伝わった様だ。
「そんなに・・・・・・一ノ瀬のヤツが好きなのか?」
何か引きつった表情しているけど?
好きも何も面倒をよく見てくれた人だし、好意を持っているのは嘘じゃない。話しを振っておいて一ノ瀬さんの名前聞いて落ち込むのは何なの?
「色々お世話になった人だけど別に好きとかじゃあ~・・・・・・」
「じゃあ他に好きなヤツとかーーー」
何なのさっきから?
「か、ーーー、 とかーーー」
義理兄が何か言い欠けた瞬間、部屋の外からする騒音で義理兄の言葉が遮られた。
「え?」
私が目を点にしていると外の騒音が大きくなっていった。
「・・・・・・」
ちょっとすまんと言って義理兄は部屋の扉を開けると女性客とお店の従業員が騒いでいた。
「だーかーらぁー、早く案内してよ、コッチはお腹ペコペコなのよ!!」
「申し訳ありませんが、ご予約されていないので、部屋へのご案内は出来ません」
頭を何度も下げる従業員にお構い無しの女性客との押し問答が続いていた。騒音の原因はその女性客の様だ。
「私は誰もが知る人気トップ歌手シリウス・ライトよ!」
胸を張って上から目線でドヤ顔をする女性客、彼女は世界でも人気歌手シリウス・ライト本人だった。
「何だ一体?」
扉を開けると騒いでいたシリウス・ライトと目があった。
「あっ!」
「・・・・・・むー様?」
マズイと思った時には遅かった。
「キャーーーッ、むー様ぁぁーーーっ!!」
甲高い悲鳴を上げシリウス・ライトは喜び、武藤 仁の身体に抱き付いた。