戦闘訓練
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『じゃあ、好きな武器を選んで貰おうか。』
モーリスの言葉を聞きつつ、俺は訓練場の端に目をやる。
訓練場の端に設置されていたのは、訓練に使用する武装を取り出す端末だ。この端末にアクセスして、使いたい武装を格納庫から引っ張り出すのである。
「そうだな……」
悩みつつ、俺はアサルトライフルの項目を選択する。
Q-65に搭乗した時にも使っていた武装のカテゴリだし、選ぶ起点には丁度いいだろう。
アサルトライフルのカテゴリには、現在4つの銃種が表示されていた。
一つ目は『ストーナー63』。レイダーとの初戦闘で使用したアレだ。アナライザーの武装としては古い世代らしいが、古参の兵士からは人気が高いようだ。使用弾薬は5.56✕45mm<B>弾で、弾道の癖が無く使いやすい。
二つ目は『AKM』。ソ連製のアサルトライフルで、信頼性が非常に高い事で知られる。反動が強く、命中精度が少し低いという欠点はあるものの、劣悪な環境下で正常に動作するという堅牢さは、戦場に降り立つ兵士達に大いなる安心感を与えた。使用弾薬は7.62✕39mm<B>弾で、非常に優秀なストッピングパワーを持つ弾薬である。
三つ目は『FAL』。ベルギー製のライフルで、アサルトライフルというよりはバトルライフルと呼ばれる自動小銃である。火薬の量を減らした弱装弾でなく、ボルトアクションライフルでも用いられるフルサイズのライフル弾を用いる高火力のライフルだ。使用弾薬は7.62✕51mm<B>NATO弾で、表示される4丁のアサルトライフルの中で最も強力な弾薬だがその分反動が強烈なものとなり、フルオート射撃での命中精度はあまり期待出来ない。
四つ目は『FA-MAS』。フランス製のアサルトライフルで、4丁の中で唯一、プルパップ式を採用しているアサルトライフルである。マガジンがグリップよりも後ろ側に付いている為閉所での戦闘に向いているが、リロードの方法が異なる点や長距離射撃時の命中精度の低さが問題となっている。使用弾薬するは5.56✕45mm<B>NATO弾で、一つ目のストーナー63と同じ弾薬を用いる。
どれも優秀なライフルだが、俺はその中からソ連製アサルトライフルである『AKM』を選んだ。
端末を操作すると、端末の横にある輸送用エレベーターの中から一丁のアサルトライフルがせり上がってきた。
木製のハンドガードとストックで構成され、東側系列の特徴的な機関部を備えたソ連の傑作ライフルを大型化したものが、そこにはあった。
右手でAKMを掴み、左手で一緒に上がってきたマガジン3つを掴み取る。機体の腰に備え付けられているマガジンラックにマガジンを収納し、射撃レーンの方へと歩みを進める。
『お、AKMを選んだか!いいねぇ、大口径弾薬の破壊力は抜群だからな!!それじゃあソイツを撃ってみろ!!』
モーリスに急かされ、俺はAKMを構えた。
アナライザーに乗っての射撃は、実際に手で撃つときと違ってスコープを覗き込む必要は無い。そのかわりとして、アナライザーのカメラアイに搭載された射撃演算装置がコックピットに搭載された遠隔スコープにレティクルを表示し、射撃の補助を行うシステムとなっている。
俺は遠隔スコープをコックピットの壁面から展開して覗き込み、ダイヤルを操作して倍率を上げた。
倍率を上げた事によりズームされ、的となるブルズアイが鮮明に見えるようになった。
レティクルをブルズアイの中央に合わせ、AKMの引き金を引く。
強めの反動を感じると共に、マズルフラッシュが銃口から迸る。セミオート射撃により放たれた一発の弾丸が勢いを保ったままブルズアイ目掛けて飛んで行き、中央部を抉り取る様に穿つ。
『ほう……ど真ん中に命中させるか…その荒々しい反動を制御するとは、中々やるじゃねぇか。』
どうやらお眼鏡には叶ったようだ。
その後も、俺はマガジンに装填された弾薬を撃ち続け、アナライザー越しの射撃を身体に叩き込んだ。
ストーナー63の時とは違う、荒々しくも力強いマズルジャンプは、新型であるSB-1の反動制御機構によって限りなく抑えられている。
それを身に沁みて経験した後、俺は射撃訓練を終了した。
『よぉし、お疲れさん!!そんだけ撃てりゃあ十分だ!そんじゃ次は、機体そのものを動かす訓練でもするか!!』
ついて来い、とアナライザーでハンドサインをしたモーリスの後を追って、おれもアナライザーを移動させる。
『んじゃ今から立体機動の訓練を開始する!!訓練内容は至ってシンプル!可能な限りスムーズに、立体地形ルートの最奥を目指す事だ。機体制御が上達すればする程、地の利を活かした戦闘に移行しやすくなる。気張っていけよ!!』
「分かった……よし、行くぞ。」
3秒数え、俺はアナライザーで勢い良く駆け出した。
簡易的ではあるものの、実戦を想定するべくAKMを保持したまま駆けていく。せり出した壁を足場として踏み切り、地形を立体的に駆け抜ける。途中の行く手を阻む壁を難無く乗り越え、その先の地面へと着地する。
そのまま駆け出し、疎らに設置された柱を掻い潜った後、速度を維持しつつブースターを起動、左右から振り子の様に襲い来るポールハンマーを回避しながらゴールを目指す。
最終エリアに到達し、設置された投射機より発射されたボールを回避するべくブースターを連続噴射する。全てのボールを回避し終えた頃には、既に機体はゴールラインを越えた後であった。
『おみごと!!いやぁ、良く一発で行けたな!!特に最後の回避とか見事なもんだったぞ!!』
モーリスからの賞賛に少しばかりの心地よさを覚えつつ、通路を通ってモーリスの元へと戻る。
「なんとかなったな。」
『なんとかっつーか、余裕そうに見えたけどな?まあ、何はともあれお疲れさん!!』
本音を言うと少しばかり焦った箇所もあったが、余裕そうに見えたのであれば言う必要は無いだろう。
『さてと……こっからどうする?このまま訓練を終了しても良いが……模擬戦でもすっか?』
模擬戦か……戦闘に慣れるにはうってつけだろう。
「なら模擬戦にし『面白そうな話をしてるじゃないか、ルーキー。』よう…この声は……」
『うぉっ!?ヴァネッサ!?いつから聞いてやがった!!??』
ヴァネッサ。確か、会計責任者でもある姉御肌の隊員だった筈だ。
『いやね、訓練場でブイブイ言わせてるのが窓から見えたもんでさ。気になって回線にアクセスしてみりゃ、模擬戦だのなんだの言ってるじゃないか!会計責任者のアタシに一言もないたぁ、良い度胸だねぇモーリス?』
『うつ……ま、まぁ、ちょっとした模擬戦のつもりだったし?機体の破損もしないようにす『想定外の破損が起こったり、訓練場が壊れる様な事になりゃ、責任とんのはアンタだよ?』る……ハイ。』
『ルーキー!!アンタに教えておいてやる。射撃訓練だったり、立体機動訓練なんかに関しては別に好きにやってくれて構わないよ。最初から訓練諸費として万が一の破損にも対応出来るようにしてある。でも、申請外でも模擬戦は別だ。模擬戦なんてものをやりゃあ、機体はほぼ確実に破損する。それを申請外でやった日には、万が一破損しても保障が受けられないのさ。諸々の費用を全て実費、または給料から天引きされる事になっちまう。言いたい事は…分かるな?』
「つまり模擬戦をする前に、ヴァネッサに申請をすれば良いって事だな?」
ヴァネッサを怒らせるのはやめておこう…怖いし。
『そう言う事さね、ルーキー!良く分かってるじゃないか!!……それに比べてコイツときたら…ルーキー、模擬戦に誘われる事があっても申請外でやるんじゃないよ?通信でもメールでも、最悪肉声でも一言、伝えておくれ。』
「分かった、肝に命じる。」
『素直でよろしい!!さてと、模擬戦もいいけど、一旦帰っておいで!結構時間経ってるよ。』
モニターに映る時刻表示を見ると、訓練を開始してからもう3時間が経過していた。
モーリスとも話しながらだったからな……時間が経つのは早いものだ。
「了解した、一度帰投する。」
『モーリス!!アンタもだよ!』
『お、おう、分かった。んじゃまあ、帰るか。』
こうして俺はモーリスと共にガレージへと戻り、機体を元の場所へと格納した。
先程まで出払っていた整備スタッフが戻って来ていた様で、ガレージ上部にある整備用の足場には整備スタッフ達が待ち構えていた。
「よぉ!!お前さんが噂の新人って奴か!!俺らは整備を担当する者だ!今後とも、宜しくたのむぜ!!バッチリ、整備してやるから、安心して乗るんだな!」
整備スタッフ達も、気さくな人達のようだ。
整備スタッフに礼を言いつつ、ガレージを後にする。
宿舎に戻ると、隊のメンバーが勢揃いしていた。どうやらこれから夕飯の様で、リビングにはいい匂いが立ち込めている。
「あ、戻ったー?座って座って!!ご飯にするよー!!」
アンジェが料理を皿に盛りつつ、声を掛けてくれる。その奥ではジャックが物凄い手捌きで料理を作りあげている。
……なんで鉄鍋片手で振りつつもう一方の手で野菜切ってんだ?器用とかのレベルじゃねぇな、アレ。
しかも切られた勢いのまま野菜が綺麗に皿に盛られてやがる。どーなってんだ、アレ。
うん、考えるのやめよう。
アンジェに急かされ、席につく。テーブルには香ばしく焼かれた肉や野菜の煮浸し、キノコのソテーやサラダが並べられている。
そこに新たに並べられたのは、先程までジャックが作っていたであろう炒飯だ。
どれも食欲を唆るいい匂いを放っている。
「待たせたな、飯にするとしようか。」
ジャックが座り、全員が揃った所で食事が始まる。
料理はどれも美味しく、腹を満たすには十分すぎるものだった。
「時にメルト君、実際に機体を動かしてみてどうだったかね?」
ヘンリクが食後の珈琲を飲みながら問いかけてくる。
ちなみに隊員の殆どは珈琲派らしく、電気ポットの横にはかなりの数のインスタント珈琲が陳列されている。かく言う俺も珈琲派なので、表情にありがたい。
「旧型に比べても格段に処理が早くて扱い易い感じだったな。……少しばかり足回りに癖があるが。」
俺の使用する機体であるSB-1はSA-36の改良型というのもあって性能は抜群に良い。だが、機動性の高さ故にその速度に応じた足運びをせねばならず、旧型機の感覚のままでは動きにもたつきが出る可能性もあった。
俺自身は現状、旧型機のQ-65しか乗った事が無いということもあり慣れるのは早かったが、実戦でSA-36を運用している他の隊員達は、機体の癖に慣れる必要性があるだろう。
「なるほど……訓練で馴染ませるまでは、運用は見送るべきか…。ふむ、貴重な情報ありがとう、メルト君。」
実戦において、慣れていない武器ほど運用しづらく、かつ安心出来ない物は無い。新しい物が出たからと言って早急に更新を行ったとしても、前の武器の癖が、新規採用した武器に対しての枷となる事がままある。
「横で見てる感じじゃあ、俺らの使ってる機体と極端な違いは見受けられなかったけどな。まあなんにせよ、データが足りねぇな。」
俺の横に座っているモーリスが仇を組みながらそう述べる。まあ、データが足りない試用品だから試作機なんだしな、そりゃそうか。
「メルト君、君には引き続き試作機に搭乗してもらい、日々の業務をこなすと同時にデータ収集にも協力してもらいたい。…頼めるかね?」
「分かった、引き受けるよ。データ収集、って事は何か特別なアクションをする必要性はあるか?」
「いや、現時点においては全体的なデータが乏しい。普段通りアナライザーを使って貰い、そのデータを収集する方針で行きたい。」
「了解だ。」
こうして今後の方針をまとめつつ、夕食後の団欒は続いていくのだった。
お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m
作者は東側兵器好きです。
でも西側兵器も好きです。
そして架空兵器なんかも好きです。