アルファ隊
商業区から戻り隊員宿舎に入ると、先程案内をしてくれたヘンリクの他に、6名の隊員達がリビングで寛いでいた。
「おかえり、メルト君」
そう言うヘンリクに「どうも」と告げ、俺もリビングへと足を踏み入れる。
「おぉ〜!!君が噂のメルト君!?」
……随分とテンションが高い。
「落ち着き給え、アンジェ。……さて、メルト君も戻って来た事だし、隊員達の紹介をしようか。」
ヘンリクはそう言うと咳払いを挟み、紹介を始めた。
「では私から。来た時にも軽く紹介したが、私は『ヘンリク=ニコルソン』。このアルファ隊の隊長をしている者だ。次にそこのデスクに座っているのが副隊長の『ヴィンセント=ランドルフ』。彼は私の同期でね、分からない事があれば彼に聞くといい。そして壁際に寄り掛かっている奴、彼が『モーリス=ベルグマン』だ。デカくて暑苦しい奴だが、悪い奴じゃあ無い。だがまあ、鬱陶しければ私かヴィンセントに言うといい、間に入ってやろう。そして先程、君に話し掛けたのが『アンジェ=ランドルフ』だ。先程紹介したヴィンセントの妹でね、少々ヤンチャだが、仲良くするといい。というか、ストッパーになってくれると尚良いな。」
「ちょっとヘンリク!?それは流石に失礼じゃない!?ねー!!ねー!!」
横でアンジェが騒ぐが、ヘンリクは気にも留めていない。いつもの事の様だ。
「……次に、キッチンの方でグラスを磨いてるあの男、あいつが『ジャック=レイフトフ』。彼の作るカクテルは美味いぞ、後で飲んでみるといい。…と、君はまだ未成年か、なら珈琲か紅茶だな。まあいい、次だ。そこのパソコンデスクに座ってる彼女、彼女が『ヴァネッサ=ベルベット』、この隊の会計責任者兼事務長だ。何か入用なら、彼女に相談してみると良い。そして最後、本棚の近くの椅子に座っているのが、この隊のオペレーターを務める『トリシャ=ベルベット』。ヴァネッサの妹だな。彼女はヴァネッサと違って穏やかだからな、話し掛け易いと思うぞ。」
「ヘンリク、あんた減給するわよ?」
そう言いつつ、ヴァネッサがヘンリクの頭をシバいている。仲良いなコイツら。
「それだけは勘弁だな……さて、此方の紹介も終わった事だし、君も自己紹介をして貰おうか。」
「あ、はい。では……この度、アルファ隊に配属されました、メルトです。分からない事が多く迷惑を掛けるとは思いますが、どうぞ宜しくお願いします。」
ヘンリクはともかく、他の隊員とは初対面だからな。念の為きっちり挨拶をしておく。
「丁寧にありがとう、メルト君。私が先程紹介された副隊長のヴィンセントだ。分からない事は、いつでも聞いてくれて構わないよ。」
良い人だな、この人。感覚的にそう思った。
「聞いた話じゃ、初めて乗るアナライザーでレイダーをブチのめしたんだって!?有望な新人だな!!ガッハッハッ!!!」
……声デッカ。
声の主はモーリス。確かに熱血タイプだな…つーかデケェ……185?いや、190に届くんじゃねぇか?
「ククッ、賑やかなのはイイコトだ。なぁ、ヴァネッサ?」
グラスを磨きつつ、ジャックが笑っている。
何時まで磨くんだあのグラス。もうピカピカだろうに。
「ハッ、まあね。静かすぎるよか、幾分かマシさね。」
「賑やかなのはいい事ですよ、ヴァネッサ姉様?」
姉御肌なヴァネッサとは対象に、トリシャはおとなしい性格の様だ。ほんとに姉妹か?
「よし、全員の紹介も終わったな。それじゃそろそろ、仕事の説明といこうか。」
ヘンリクはそう言いつつ手元のタブレット端末を操作すると、俺の座る正面の机の中央にある天板がスライドし、レンズがせり出てきた。
レンズが光を放つと、空間に立体的な映像が映し出された。こういう技術は、アザーライトが採掘され始めてからかなり進歩している。立体的な映像をスムーズに映す技術は、現代技術の中でも外せない発展的技術の一つなのだ。
映し出された映像は、俺がエリア021の採掘プラントで乗ったアナライザーだった。
「さて、君も多少は聞いていると思うが、我々アルファ隊の任務は、大きく分けて2種類ある。一つは生身での哨戒任務や暴動鎮圧、もう一つはアナライザーに乗っての哨戒及びレイダーの迎撃だ。」
ここまではゴルドーからの説明通りだな。
俺も映像に写し出されているアナライザーに乗っての出撃となるのだろう。
「そしてこの任務に、君にも参加して貰う訳だが……」
な、何か問題があるのだろうか…
「君のアナライザー、あれはかなりの旧型だ。あのままレイダーを迎撃するのは、正直言ってかなり危険だ。」
確かに……俺が採掘プラントでつかったアナライザー『Q-65』はアナライザーの中でもかなりの古い型だ。
火器を扱う頭脳的な役割のFCSや推進力を生むブースター、燃料を動力に変える変換効率といったあらゆる面で、現行のアナライザーに劣る性能となっている。
旧型だし、仕方ないのだが……確かに問題だな。
「そこで、だ。これを見てくれ。」
ヘンリクはそう言うと、映像を切り替える。
そこに映るのはQ-65とは違う別のアナライザー。
「これは…?」
「アルファ隊が贔屓にしてるメーカーの試作アナライザー『SB-1』。私達の使う同社の『SA-36』をベースとした試作機だ。」
画面に別のアナライザーが横並びで映し出される。
片方がアルファ隊に採用されている『SA-36』。バイザー付きの頭部に角ばっているもののスラリとしたボディを持っていて、機体色はモスグリーンで塗装されている。
対して隣に映る試作機『SB-1』はSA-36と比べると少しばかりガッチリしていて、両肩の部分に小型のショルダーシールドが付いていた。機体色はネイビーとなっており、機体のフォルムと相まって中々にカッコいい。
「これを造るメーカーである『サクセス・コーポレーション』から、試作機の試験運用を頼まれていてね……誰がこの機体を使うか競技していた所に……君が来た。」
なるほど、確かに機体を変えて戦力を下げるより、アナライザーを扱える且つ使用機体の決まっていない俺は、確かに好都合だろう。
「君にはこの試作機に乗って貰いたい。もちろん、嫌なら私達と同じ機体を用意するが……」
「いや、試作機に乗るよ。試験運用も出来るし、都合が良いだろ?」
見ず知らずの俺を隊に加えてくれた人達だ、貢献出来るなら、試作機だろうと乗ってやるさ。
「そうか……ありがたい。トリシャ、機体登録を。」
「はい、分かりました!」
タブレットを受けとったトリシャが、ヴァネッサの座るパソコンデスクへと駆けていく。
「よし、機体も決まった所だし、ガレージに行くとするか。自分の扱う機体を見ておきたいだろう。」
「分かった。」
そういえば……
「Q-65はどうするんだ?」
俺の乗っていた旧型機。試作機に乗る事になった故に不要となった機体だが、どうなるのか気になっていた。
「む…?あぁ、それなら心配は要らない。あの機体は元あった採掘プラントに返却予定だ。旧型とはいえ、使い道はあるからな。」
安心した。一時とはいえ、共に戦った機体だからな、スクラップになったらどうしようかと思った…。
「ヘンリク、ガレージに行くのも良いけど、あんた前回の任務の報告書書いたの?まだ提出されてないんだけど?」
ヴァネッサがヘンリクに問い掛けると、ヘンリクは汗を垂らしながら、
「む……すまん、忘れていた。」
隊長が報告書忘れんなよ……
実はおっちょこちょいなのか?コイツ…。
「ガレージには代わりに…モーリス、あんたが行ってやんな。」
「おう!任せとけ!!!よっしゃメルト!!ガレージ行くぞぉ!!!」
「お、おう。」
出ていくモーリスを追いかけ、俺もリビングから退出した。
「……やれやれ、落ち着きがないですね、彼。」
「いつもの事だねーー?」
「まあ、モーリスさんですから。」
呟くヴィンセントに、皆、同意見の様だった。
「まぁ、賑やかなのはいい「ヘンリク、報告書。」事…アッ、ハイ。」
ヴァネッサに急かされ、ヘンリクは報告書を書きに自室のパソコンに猛ダッシュするのだった。
「会計責任者兼事務長の威圧感は半端ない」
後にその場にいた隊員はそう語っている。
どこの世界でも、管理職は恐ろしいのだ。
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