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朧火の意志  作者: 布都御魂
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前線待機


俺の愛機『デュランダル』にライフルや大剣といった各種兵装が搭載されていく。


ガレージの中は忙しなく整備スタッフが奔走しており、各所の調整や整備を入念に行ってくれている。正直この大攻勢は、彼らが居たからこそ行う事ができると言っても過言ではない。


普通ならば何ヶ月、下手すりゃ何年と掛かる製造・改修を短期間で終わらせ、大攻勢に投入出来る状態までもっていった彼等は、世界一の技術者達と呼ばれるべき熟練者達だ。彼らの為にも、この大攻勢は成功させなければならない。


勝利して、彼らに恩返しをしなければ。


「コネクション」


【メインシステム─起動─接続開始─接続完了─ユーザー認証──メルト─認証完了──ビジョンシステム─起動─FCS─起動──全システム─オールグリーン】


システムが立ち上がり、各種計器やディスプレイが明るく光り始める。ディスプレイに外の景色が映し出されたのを確認した後、ガレージの外へと歩みを進める。


外で待っている大型輸送機『WEC-1-B』へと乗り込み、固定装置を起動して機体が倒れない様に固定する。後は現地入りするのみだ。


先に乗っていたアンジェの機体も同様に固定されており、輸送機の離陸を待っている状態だ。俺も搭乗した事だし、間もなく出発となるだろう。


そんな事を考えているとほんの少しの浮遊感と共に輸送機が離陸を始める。他の輸送機と比べやたら離陸速度が早いのがこの『WEC-1-B』の特徴なんだが、迅速に出発出来るのは離脱を容易にするというメリットを持っている為素晴らしい性能だと思う。


──さっきまでいた地面が数秒後にはだいぶ下の方にあるのはちょっと怖いけどな。


輸送機が加速し、作戦地点に向かって移動を開始する。念の為、今回の兵装の再チェックをしておこう。


メインウェポンはいつも通りのAKᎷ。最悪コイツさえあれば戦闘が出来る程度には身体に馴染んでいるので、コイツは外せない。AKさえあれば何でも出来るとか豪語する人もいるが、実際そうな気もするのであながち嘘じゃないのだろう。そのうち癌にも効くようになる……多分な。


また今回は2つ目のメインウェポンとして、対戦車擲弾発射器を採用する事にした。そう、皆大好き『RPG-7』である。しかもアナライザーでの運用を想定した大型モデルの『RPG-7』弾薬であり、コイツを使用した際の破壊力はそんじょそこらの兵器とは比べ物にならない威力となるだろう。


予備弾薬は2発程アナライザーに搭載している為、合計3発の擲弾をぶっ放す事が出来るのだが、継続的にこの大火力を運用したいのもあって、今回はサポートドローンの『INABA』に予備弾薬を搭載する事にした。


『INABA』はアメリカの同盟国である日本が製造している高性能自立型ドローンで、大量の物資を運搬する事に特化した輸送特化型のドローンとなっている。元は工事現場などで使われていた輸送ドローンを改修したものであるらしいのだが、流石に戦場で使われるのは元の輸送ドローンからすれば想定外も良いところである。


しかしながら流石安心と安全の日本製なのもあって、戦場でも安定した活躍を見せたのがこの『INABA』である。大量の物資を輸送を積載し、それでいてドローンの強みである高機動を活かして輸送を行った事で、世界中にこの『INABA』の素晴らしさが知れ渡る事となったのは同盟国では有名な話だ。


そんな『INABA』に『RPG-7』の予備弾薬を搭載し、余ったスペースに予備の銃火器やマガジンを搭載しておく事にした。搭載した銃はソ連製分隊支援火器である『RPD』である。7.62✕39mm<B>弾を使用する第二次世界大戦の最中に作られたこの機関銃は、100発もの弾薬を専用のドラムマガジンからベルトリンクで給弾しつつ射撃する優秀な機関銃だったにも関わらず、ベルトリンク方式を取った為に前線で他の兵士達に迅速な弾薬共有が行えないという事が発覚した為、後続の『RPK』という機関銃に取って変わられた悲しい運命を背負った機関銃なのである。


だが、ことアナライザーで運用する上で弾薬共有の不便さなどなんの障害にもならない──というかそもそも弾薬共有をしないからだ。


弾薬は必要な分機体に搭載出来るし、大量に必要ならば今回みたくサポートドローンにでも搭載すればいい。むしろ100発という装弾数を誇りながらも取り回しが良いこの機関銃は、アナライザーで使用するのにはうってつけなのである。


また改造を加えてハンドガードの下にピカティニー・レールとフォアグリップを取り付けておいたので、少しは反動を制御しやすくなっている筈だ。


『RPD』用のマガジンも幾つか追加で搭載しておいた為か結構な重量となってしまったが、流石は日本が誇るサポートドローン、重さなんぞ意に介さず縦横無尽に飛び回る事に成功していた……すげぇな。


あとの装備はサイドアームのMP-443と専用大剣の『エターナル』くらいだ。あまり搭載し過ぎると折角の機動力が台無しになるからな……まぁ十分重武装だが。


そんな事を考えていると、輸送機のシステムからアナウンスが入る。


『作戦領域上空ニ到達──総員、降下準備──』


──時間だな。


『それじゃあ行こっか!メルトっ!』


相変わらず元気だな、アンジェは。


「──あぁ、行くとしよう!」


『───降下地点上空ニ到達──降下開始─』


輸送機のハッチが開き、遥か遠くの地面があらわになる。これからこの大地へと降り立つのだ……腹を括るしかない。


「──"レイピア1"、降下する。」


意を決して輸送機から飛び降り、姿勢を維持しつつ広大な戦場へと降下して行く。先程の発言通り、今回の俺のコールサインは"レイピア1"だ。この場合共に行動するアンジェが"レイピア2"となるのだが、どう考えてもコールサインが逆だろうとは俺も思う。


これは出発前にヴィンセントから「アンジェにリーダーを任せるのは不安だからメルト君が仕切ってくれ……すまんな…。」となんとも申し訳なさそうな顔で言われたからだ。自分よりも後に入ってきた俺が仕切るというのは、普通であれば苦言の一つでも呈される筈なのだが、当のアンジェは「アタシそういうの苦手!」と思いっきり放棄していたので結局俺がリーダーをやる事になった。


……それで良いのかという思考は一旦置いておこう。今から行く場所は血と鉄の飛び交う戦場なのだから。


ある程度降下した後、ブースターを点火して減速しつつ大地に降り立つ。付近の警戒を密にしつつ岩山の陰に一度身を隠し、マップ情報を再確認する。


降下した地点は待機地点である放棄された前哨基地から少し離れた岩山地帯だ。ここから前哨基地に移動後に一度待機し、海上部隊の合流と共に革命派の主力部隊含む大規模戦力が駐留する敵の本部へと一斉攻撃を仕掛けるという流れとなっている。


「レイピア1よりレイピア2、移動開始だ。」


アンジェに合図しつつ移動を開始する。


「レイピア2、オッケー。」


後ろからアンジェが付いてきているのを確認しつつ岩山地帯を一定速度で移動する。俺の機体は高機動型というのもあり、通常スピードがかなり早いのだが、アンジェの機体は難なくこのスピードに付いてきている。


彼女の機体は新たに新造された専用機で、赤いフレームに水色の装甲や装飾が取り付けられたなんというか……凄く目立つ機体である。全身が白と銀のヘンリクとは別ベクトルで目立つ機体だが、この機体の最大の特徴は『圧倒的な機動力』にある。


スラリとしたフレームだけで無く、他の機体には無い流線状の軽量装甲が取り付けられたこの機体は、強靭な耐久性能でなく回避行動に重きを置いた所謂『機動戦仕様』の機体となっている。その為他の専用機と比べると圧倒的に装甲が薄く、その分軽量かつ高機動となっている。


とはいえ装甲が薄いと言っても俺やヘンリクの耐久性能で強引に突破するタイプの機体と比べた場合の話なので、通常のアナライザーと比べると装甲の材質も含めて非常に高耐久な代物となっている。


尚取り付けられた流線状の装甲は受け流しを前提に取り付けられており、マチェットやサーベルといった近接攻撃を受け流したり、銃弾を曲面的な装甲を活かして跳弾させたりといった機動戦を阻害しないような設計が為されている。


また左腕には俺の『デュランダル』にも搭載されている拡張式複合装甲盾『アテナ』を搭載している為、実際には耐久性能はそこまで気にする必要がないとアンジェが自慢気に語っていた。まぁそもそもの機体構想はアンジェが要望を出して設計されている為、回避を主体とするこの機体にとって『アテナ』は取り回しが良い装備と言えるだろう。


そんな彼女の特徴的な専用機の名は『ジョワユーズ』。かの有名なシャルルマーニュ伝説に登場する皇帝シャルルマーニュが有していたとされる剣であり、『陽気』という意味を持つアンジェによく似合う名であると言えるだろう。


ちなみに彼女は機体名を『ジョワユーズ』にした理由として、「名前の響きがかわいいから」と言っていた。かわいい……のか…?聖剣だぞ…?


まぁともかく、彼女の駆る専用機『ジョワユーズ』は持ち前の軽量さを活かす高機動機であり、元の戦術スタイルも反映させたのもあって武装もかなり軽装となっている。


メインウェポンはスウェーデン製のPDWである『CBJ-MS』で、専用のドラムマガジンによって100発もの装弾数を誇る高性能なPDWである。本来ならば弾薬に6.5✕25mmCBJ弾を用いるのだが、弾薬確保の容易さも相まって9✕9mmパラベラム弾へと弾種が変更されている。


銃口にはフラッシュハイダーを装着する事でマズルフラッシュを軽減し、さらには魔改造によりフォアグリップの予備マガジン保持機能を撤廃、フォアグリップから銃口側に向けて伸びる刀身を取り付ける事により俗に言う『ガンブレード』を模して設計されているなんともロマン溢れる銃器となっている。


ガンブレード……良いなぁ…。


彼女はそれを2丁持ち、戦場を駆け回るように銃弾をばら撒く戦闘スタイルだ。これは『SA-36』時代から変わっておらず、寧ろガンブレードを装備した事でその戦闘スタイルにより磨きが掛かっている。また本格的な近接戦闘の際には腰に下げた2本のサーベルを使用して敵を斬り裂いて行く為、近接戦において無類の強さを誇っている。


それ以外にはアメリカ製拳銃の『スプリングフィールドXD』やコンバットナイフが、彼女の基本兵装となっている。


そしてその結果欠点が生じており、遠距離用の兵装が近〜中距離用のPDWと近距離用の自動拳銃しかない為、遠距離戦にめっぽう不向きという欠点がある。


その為彼女は必ず誰かとチームを組んでおり、そのもう一人がその遠距離戦をカバーする形をとっている。──今回の場合は俺だな。


俺が遠距離戦で使うとすればAKMかRPDになるが……どちらも微妙に遠距離戦に向いてない銃器だ。まぁAKMであればかなりの長距離で狙撃が出来る程度まで習熟しているから、AKでどうにかするとしよう。


AKは全てを解決する…筈だ。


所々突き出た岩壁を避けつつ前哨基地へと歩みを進めていると、少し離れた所に背の低い建造物が見え始めた。恐らくあれが放棄された前哨基地だろう。


念の為周囲を警戒しつつ前哨基地内部へと侵入する。格納庫らしきトタン張りの建物やプレハブ小屋、土嚢と木の板で組み上げられた機関銃陣地など、簡易的かつ迅速に展開されたであろう形跡が見て取れた。


元はドイツ軍が演習用に使用していた前哨基地らしいが、演習後使用放置されていたこの基地を革命派が利用し、俺達のいるエリア021に攻め込んで来ていたらしい。しかしながら俺達が革命派を押し返した為に不要となったこの前哨基地は放棄され、今に至るそうだ。


まぁ前哨基地とはいっても非常に簡易的なものだ、失ってもそこまでの損失では無かったのだろう。今では大規模な戦力を保有しているとはいえ、撤退当時は戦力の再編が必要だっただろうし、使用していない前哨基地にまで戦力を割くわけにはいかなかったのだろう。


ま、俺達には好都合だが。


念の為クリアリングをしつつ、海上部隊の到着まで待機する。ここまで移動続きだったから、暫しの休息だ。アナライザーから降りて、張られていた開放型の天幕に入って休息を取る。アンジェも一緒だ。


前にジャックに習った紅茶の淹れ方を思い出しつつ、紅茶をマグカップに淹れてアンジェに渡す。


「ほい、紅茶淹れたぞ。」


「わ、ありがと!──うん、良い香り♪」


どうやらお気に召したようだ。


「ついさっき、アンデルセン提督から連絡が入ったんだが……あと1時間程で海上部隊が到着するそうだ。」


「1時間かぁ……暇だねぇ…。」


「仕方ないさ。レーダーにも敵影は無いし、到着までは気長に待つしかないな。」


念の為持って来た小型ドローンを飛ばしているが、敵影らしき姿は見られない。まぁあちらさんにもそんな余裕は無いだろうしな。


「それじゃお話しよーよ!メルトの過去ってあんまり話さないから良く分かんないんだよねぇ…。」


過去、か…。


「実際のところ、俺もよくわかってないんだよな。」


濃密な日々で忘れがちだが、俺は記憶を失っている。どこから来たのかも、どうしてあの場所に居たのかも、果ては自分の事すら何も分からない。


このメルトという名も、元は工作官のゴルドーが仮の名前として名付けてくれたものだ。記憶がない今ではこの名前がしっくり来ているが、いつか思い出す時が来るのだろうか…。


「……そういえばそうだったねぇ。まぁでもメルトが何者でも、メルトはメルトだよ!そこは変わんないからダイジョブダイジョブ!!」


そう笑顔で励ますアンジェ。彼女なりの気遣いなのだろう、此方を励まそうという意思が伝わってくる。


その優しさが、俺の心に染み渡るような気がした。


「……ありがとう。」


「えへへ、どういたしまして!」


過去は思い出せないが、記憶を失ってから感じた事をアンジェと語り合う事はできた。たとえ短くとも、ここまでの記憶が『メルト』を形作っているのだ。だとすればそれは、俺の過去の話として語ってもいい筈だ。


多少吹っ切れたのもあってか会話も弾み、暫しの休息は戦場とは思えない程明るく、楽しいものだった。




でも奥底に…。



今は隠れた奥底に…。



本当の過去を思い出す事への恐怖もまた、顔を覗かせ始めていた。



……いつかは思い出す時が来るのだろうか。






その時が来るのが、少しだけ……怖く感じた。







──どうかこの日々が、崩れませんように。









そう願うばかりだった。












お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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