大攻勢:ブリーフィング
ブリーフィングルームにて、全員集まっての作戦会議となった為、俺含めた軍港待機メンバーは一度本部へと戻って来ていた。
「これより、ブリーフィングを開始する。本作戦は敵方の戦力を削ぐ為の大規模攻勢であり、決して無慈悲な侵略行為では無いと心から留意せよ。我々は守るべき大切な者たちを侵略者達の魔の手から守るべく立ち上がった戦団であることを忘れるな。」
ヘンリクの進行のもと、ブリーフィングが始まった。いつもの防衛作戦でない、こちら側が敵方に攻め込む『攻勢』である為、全員の面持ちが些か緊張気味である。
「……理解しているようで何よりだ、諸君。では、作戦を説明する。」
ヘンリクに合わせてヴァネッサが端末を操作し、立体映像でエリア021と022の両方を俯瞰的に映し出す。
「本作戦は陸・海・空の3方面からの同時攻撃によって革命派連中に大打撃を与える事を目的とする。3方面とは言ったが、我々の戦団には厳密な部署の区分けは存在しない。あるのはおおまかに地上部隊である我々と機動艦隊を指揮する海上部隊の2つである。よって空の部分に関しては地上部隊の航空母艦型多脚戦車からの航空機及び本部飛行場からの航空機の合同部隊によって作戦を遂行する。」
まぁウチは『軍』では無いからな…。指揮系統も戦団のトップであるヘンリクに集中してるし、その辺はまだ発足したてなのもあって曖昧なのは仕方の無い事だろう。だからといって戦場で指示が滞る事は無いのだが。
ちなみに海上部隊の指揮は、ヘンリクの防衛部隊時代からの友人であり戦友でもある『アンデルセン・オーフニール大将』が取ってくれるらしい。なんでも、後任に提督の地位を譲って暇していた所をヘンリクが勧誘したのだとか。移籍の条件が酒一杯奢る事だったらしいが、酒一杯でアメリカ海軍の名将をスカウト出来るなら安いにも程があるだろう。
「モーリス、今回投入出来る航空戦力を。」
「おうよ。……限られた時間で用意出来たのは航空母艦型多脚戦車『MFT-CV-1』が計8隻、飛行場からの航空機が60機、戦闘ヘリが52機って所だな。『MFT-CV-1』に関しては既に就役していた『フォートレス』『バックラー』『シルダリス』『プロテクツ』に加えて、五番艦『スクトゥム』六番艦『ティンべー』七番艦『カイト』八番艦『デュエリング』が新たに就役した所だ。各母艦に20機づつ『PWS-37-OTM』を搭載出来るから、即席にしちゃ良い戦力になると思うぜ。」
どの艦も盾をモチーフとした名前が与えられているが、今回の作戦が攻勢なのは少々皮肉にも感じられるな…。まぁ敵を屠る事で戦団を守ると考えれば良いか。
「飛行場からの航空機も同様に『PWS-37-OTM』を用意してるし、戦闘ヘリに関しては防衛部隊の頃から使ってる『AH-64 アパッチ』を用意してある。攻勢するにはもう少し欲しい気もするが、贅沢は言えねぇからなぁ…。」
実際、攻め込むには敵方の3倍の戦力が要るのだとか言う事を、昔の偉い人が言ってた気がするが忘れた。どちらにせよ戦力があればあるだけ良いのは変わらないのでその認識で良いだろう。
「ふむ……ひとまずはその物量で良いだろう。モーリス、ご苦労だった。……では次に海上部隊に関してだが……アンデルセン大将殿、詳細を。」
そう言ってヘンリクが隣に座る30代前半の青年に話を振る。その年齢で大将の地位にいた事に驚きを隠せないが、ヘンリクも20代後半の割に防衛部隊の隊長を務めていたし今更な気がする。防衛部隊の隊長って、軍の階級だと准将クラスらしいしな…。
………やっぱ変だよコイツら。
「ハッ、妙に畏まりやがってよぉ……まぁ良いさ、改めてだが……戦団の海上部隊を指揮するアンデルセン・オーフニールだ。元は大将で提督やってた身だが、ここじゃ身分も階級も関係ねぇからな、仲良くやろうぜ。」
強面な割に随分とフランクな考え方だ。まぁその方が話しかけ安くて助かるけど。
「んでまぁ、詳細だったか?コッチは機動艦隊で海から地上部隊をぶっ潰す予定だ。必要なら航空支援もしてやっから何時でも言えよ?……最高の花火を見せてやる。」
花火か……最高だな。
「俺達は空母『アノマロ』を旗艦として海上戦力の総力を結集して出撃する。もし奴らが艦艇を引っ張りだして来やがったとしても安心しな……1隻残らず海の藻屑にしてやっからよ。」
不敵に笑いつつ断言するアンデルセン提督……怖ぇよ。
「……彼は言動は粗暴だが仕事は完璧にこなす奴だ、そこは信用して構わん。」
「あん?言動なんざお高く止まった政治家共が気にしてりゃ良いのさ。俺達は戦場を突っ切る兵士だぜ?言動なんざ気にしてたらその隙に海の藻屑さ!…そうだろ?」
「まぁ、確かに。」
言動なんざ、戦争では何の役にも立たないしな。
「おっ?話が分かるじゃねぇか坊主!!名前は……確かメルトだったか?」
「俺の名前をご存知で…?」
「そりゃ知ってるさ!戦場で腹ァブチ抜かれても敵に立ち向かったっつー噂はアメリカにも届いてたぜ?誰だっけか、財務大臣がえらく感動してたのは記憶に残ってるぜ。『この若者は素晴らしい!報奨金を与えるべきだ!!』って財務省動かしてたのをチラっと見たぜ?」
え、ナニソレ……聞いてないんだけど?
チラっとヘンリクを見てみると凄い苦笑いをしながら、
「いやすまない……財務大臣の彼はこう言った話に目が無くてね……国の為、守るべきものの為に戦う人間に対しては然るべき報奨を出すべきだと、昔から拘ってるのさ。……まぁ汚職とかその辺とは無縁だし、信頼も厚いから良い人物なんだがね……。」
なんか凄い人に目を付けられたな……良い意味で。
「奴主導の国益英雄勲章の授与式もやるって今度言ってたぜ?メルト、お前ぇも多分呼ばれるぞ?」
「………授与式?……俺がですか?」
「そーだぞ?あとメルト、敬語要らねぇぞ。俺は堅苦しいのは好きじゃねぇ……タメ語で仲良くやろうや。」
「……そ、そうか。んじゃ遠慮なくそうするよ。」
ホント、ウチの戦団は垣根が無いよな…。
…………てか授賞式って何!?!?
「んんっ、本題に戻るぞ…。海上部隊に関しては先程の通り、彼に一任する。アンデルセン提督、頼みましたよ。」
………1回授賞式は忘れよう、集中しないと。
「任せろぃ……あとお前ぇもいつまで敬語使ってんだ。はよ戻せ。」
「………後でな。さて、次は私達地上部隊だが……ヴァネッサ、説明を。」
提督をしれっと躱しつつヴァネッサに話を振るヘンリク。仲良いなあんたら。
「はいよ。アタシ達地上部隊は山間部よりエリア022を目指す形になる。国境を通過後、革命派連中の放棄した前哨基地にて一時待機、海上部隊の到着と共に革命派の本陣へと総攻撃を開始する手筈だ。しかしながら敵さんも軍港の新設やらエースの敗北やらで相当警戒してる筈だからねぇ…本陣には強固な防衛ラインを形成している可能性が極めて高いのが現状だよ。」
実際軍港は完成してる訳だし、そりゃまぁ警戒もするわな…。その状況で呑気に待ってる程、奴らも馬鹿じゃないだろう。
「という訳で、防衛ラインをブチ破る獰猛な一番槍を募集するさね……やりたい奴はいるかい?」
「はいはいはーーい!アタシがやるっ!!」
真っ先に手を上げたのはさっきまで気怠そうな表情をしていたアンジェだった。
「今日までずーっと書類、書類、書類………もう限界なのっ!!!この恨み、ぶっ放してやるぅ!!!」
すーげぇストレス溜まってんな……まぁこの会議までずっと事務処理に追われてたらしいし、そういった作業が苦手なアンジェにとっては苦痛の日々だっただろう。自業自得ではあるんだけど。
「分かった分かった、落ち着きな。……やっぱ24時間事務処理フルコースはちとまずかったかねぇ……。」
24時間……何やってんのヴァネッサ。
「まぁアンジェの戦闘スタイルなら、突撃戦は相性の良い戦いだろうさね…。それじゃあアンジェ、アンタのペアを指名しな。流石に単騎突貫をさせる訳にはいかないからねぇ。」
「ふっふーん、それはもう決めてるもんね!アタシ、ペアはメルトが良い!」
───え、俺??
「なぜに…?」
「だって入りたての頃に一緒に戦ったきり、ずーっと別行動だったんだもん!偶にはアタシも一緒が良い!!」
なんじゃそりゃ。
「あーー、メルト、アンタはそれで良いかい?別に無理にとは言わないさね…決定権はアンタにあるし。」
「俺はそれで良いぞ。一番槍は任せてくれ。」
特に断る理由も無いしな。それに最近は待機ばっかりだったし、腕慣らしには丁度いい。
「ほんと!?さっすがメルト!!」
アンジェが両手を上げて喜ぶ。可愛いなコイツ。
「んじゃそれで行こうかね。アンジェとメルトが一番槍として敵本陣へ奇襲兼撹乱攻撃を敢行、損耗して薄くなった防衛ラインに後続の地上部隊を投入して一気に殲滅。その後、敵主戦力の殲滅作戦に移行する流れで行こうかね。」
「1ついいか?」
ヴァネッサが作戦の概要を説明した所でヴィンセントが挙手して話し始める。
「十中八九、敵方の最高戦力となるであろうエース達が出てくる筈だ。特に先日の戦いで姿が確認された白の不明機体に関しては脅威と言わざるを得ない。その辺りはどうする?」
白い不明機体。遠距離からの狙撃で俺を無力化しつつムールシュトの離脱を補助した機体…。
奴は脅威だ……それにムールシュトもいる。どうにか対策をしなければ先日の二の舞だ。
「不明機体に関しては私が相手をしよう。」
そう言ってのけたのはヘンリクだった。大丈夫なのかと不安がよぎるが、ヘンリクだし大丈夫だろうとも思えてくるのはなんとも不思議な感情だった。
「……用心してくれ。アイツは最新型の警戒網をすり抜けられるような手練だ……下手すりゃ俺みたいに「そうはならん、私が出るのだからな。」──!」
俺の声を遮るように、ヘンリクが断言する。
「安心したまえ、私が奴を斬り裂いてみせる。だからそう不安がる必要はない。」
そう言ってのけるヘンリクの目は真剣で、それでいて暖かい目をしていた。
「……分かった、信じるよ。」
ここまで断言してくれているのだ、信じないのは失礼だろう。
「代わりといってはなんだが、ムールシュトが出てきた場合にはメルト君……君が斬り伏せ給え。」
「分かった……ここで終わらせる。」
次こそ、トドメを差してやるぞムールシュト…!
「良く言った。……作戦の説明は以上だな。」
俺含めた全員がヘンリクの方を向き直る。
「この戦いは、今までに無い大規模なものとなるだろう。隣にいる戦友が、次の瞬間には物言わぬ骸になっていてもおかしくは無い……それが戦争だ。」
一呼吸おいて、ヘンリクは再び言葉を紡ぐ。
「だからこそ、そうさせない為に私達は戦うのだ。銃と刃を持ち、強い意志を以てして侵略者達を殲滅する。それが、私達の明日を守る唯一の手段である。」
「既に話し合いで解決する範疇では無い、なればこそ躊躇うな。その手に握る小さな力が、脳裏に浮かぶ守るべきものを明日へ導く灯火であると知れ!」
皆が一斉に席を立つ。この場の全員が、意志を一つに、進むべき戦場へと覚悟を決める。
「時は来た……今ここに、『スクラマサクス作戦』の開始を宣言する!!!!」
───さあ行こう、死と隣り合わせの戦場へ。




