商業区
この世界線は、『現実とは少し違う地球』と捉えて頂けると読みやすいかと思います。
エリア021に設置された拠点のすぐ近く、歩いて5分と掛からない場所に、商業区はある。
物資の輸送を担うターミナルであったそれを転用したそれは、一般的な商業区と比べても広大で、かつ付近を防壁に囲まれた好条件の立地にあった。
元がターミナルということもあり付近の道は舗装されており、工作拠点に続く道もまた歩きやすいものだった。
俺は拠点を出て商業区に足を踏み入れている。
往路には人々の往来がそこそこあり、店や露店もそれに伴って活気溢れるものとなっていた。
俺も露店を冷やかしつつ歩き、店舗の隣接するエリアまでたどり着いた。目に入ってきたのは小さな店舗で、看板には『護身具店』とあり、どうやら護身用の武器を売っている場所のようだ。
確かに、いくらアルファ隊の様な部隊が哨戒していたり警備員が巡回しているとはいえ、唐突に事件に巻き込まれた時、己を守るのは結局の所自分自身である。
そう考えつつ、俺は護身具店に足を踏み入れた。
店の中には護身用と思われる銃やナイフ、中には何故置いてあるのか不明な護身具にしては大きいスレッジハンマーなんかも置いてあった。
この店は一体何を想定しているのだろうか…。
ともあれ、せっかく足を踏み入れたのだから、俺も護身具を買い揃えておくとしよう。備えておくに越した事はない。
色々と思案しながら店内を眺める。と、一つ目に止まった武器があった。
現代戦の主役とも言うべき武器、銃だ。
弓矢よりも正確かつ長距離を狙撃でき、ナイフやサーベルといった近接武器よりも瞬間的な手数とリーチに優れる優秀な武器。それが銃だ。
扱うには知識と習熟が必要なものの、正しく扱えばあらゆる者に猛威を奮う現代兵器である。
はるか昔から各国で製造され、戦場で猛威を奮った鋼鉄の産物は今も尚、その形状を洗練された物へと進化させつつ発展していっている。
この護身具店にも、各国で作られた銃器が陳列されていた。
流石に『護身具店』である為かアサルトライフルや機関銃といった物は無いものの、拳銃やショットガンといった民間にある程度普及している様な銃器は売っている様だった。
アメリカ製の自動拳銃であるコルトᎷ1911や、ソ連時代のマカロフPM、ドイツ製のボーチャード・ピストルといった自動拳銃から、アメリカ製ショットガンのモスバーグᎷ500まで、幅広い国の銃が販売されている。
少々年代の古い物が多く最新式と比べると性能が劣る物も多いが、最新式の物に比べるとコストも低く抑えられる──アンティークレベルの骨董品はむしろ高くつくが──ので好都合である。
各国の銃器を見比べ、気に入った物を選んでいく。数ある銃器から俺が選んだのは、先程も触れたソ連製のマカロフPMという自動拳銃だ。他の拳銃に比べて単純な構造を採用する事により信頼性が高く、さらに製造コストが安価であるという素晴らしい拳銃の一丁である。
また拳銃の中では小型である為、護身具として携行するのも容易だ。
マカロフPMを手に取り、使用弾薬の9✕18mmマカロフ弾と予備のマガジンの3セットで購入する。
価格は銀貨5枚。つまりは500Ꮓだ。なんとも安価である。
店主に礼を言い店を後にする。
店を出てすぐ、露店の建ち並ぶその脇に、スクラップ屋という名の看板が目に入った。
どうやらスクラップとなった金属製品だったり素材を売っている場所のようだ。
そのままの足で立ち寄り、品物を見てみる。
歪んだサーベルや壊れた置時計、穴空いた一斗缶やヒビの入ったガラス片など、まだ使えそうな物から廃材まで多種多様な物が売られていた。
ふと、傷だらけのレコードプレーヤーが目に入った。
傷ついてはいるが、まだ綺麗な方だ。使えるレコード盤はどうやらLP盤──長時間の録音が可能なクラシック向きのレコード盤──らしく、隣にはLP盤のレコードが置いてあった。
店主に尋ねると隣にあった3枚のレコード盤を含めて金貨1枚でいいらしく、俺は即決で購入した。
記憶を失う前の俺がどうだったのかは分からないが、音楽が好きだったというのがなんとなく分かった。
無論、的外れな可能性もあるが。
とはいえ、これは良いものだ。本来の相場であれば金貨7枚はするようなレコードプレーヤーだ、この額で購入出来たのは非常に運が良い。
店主に礼を言い、袋に入れて貰ったレコードプレーヤーとレコード盤を抱えて、俺は商業区を巡った。
日用品や雑貨を買い揃え、人の往来もまばらになって来た所で時間が来た。
また来ればいい。
そう考えつつ、俺は商業区を後にした。
お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m
誤字脱字等ありましたら、教えて下さい。