アノマロ級航空母艦
艦艇というのはとにかくデカい。
1隻の駆逐艦を建造するだけでも途方も無い資源を消費する。特に鉄などの鉱山資源は尋常じゃない量が必要となってくるのが、艦艇建造をする上での常識だ。
それを限られた資源でしか行えないからこそ、第二次世界大戦末期の日本では深刻な資源不足から来る軍事力の低下を招いてしまった。まぁ当時の状況を鑑みるにそれだけが敗戦の理由ではないと思うのだが、戦争をする上での資源及び物資の不足とはその戦争の勝敗を左右する重要な要素となり得てしまう。
ではここで、鉄に変わる新しい素材が発見され、しかもそれが湯水の如く発掘されるとなればどうなるだろうか。
資源の乏しい中小国にとっては自国を発展させる重要な資源となり得るし、先進国にとっては他の先進国との競争に勝つ為の大きなアドバンテージとなる。
だからこそ各国は、アザーライトやタザナイトといった新素材を確保すべく異空間という未知の領域へと乗り出した。我先にと、自国を発展させる新時代の資源を掴みとる為に。
そしてその行動力は、各国に覆しようのない格差を生み出してしまった。
そもそも異空間は、ゲートが発生した地点からしか基本的に入る事ができない。そしてそのゲートの発生地点はランダムであり、保有する領土・領海が大きい程、自国にゲートが発生する可能は高くなる。
しかし結局の所確率論である為、広くてもゲートが発生しない事もある。アジアにおいて有数の領土面積を誇る中国にはその面積に対して一つの異空間しかなく、逆に俺達の所属していたアメリカには現時点で7つの異空間が発生している。
逆に島国で領土が比較的小さい日本にはゲートが3つ存在し、今日本は信じられない程の好景気に恵まれているそうだ。観光、行きたいなぁ……。
ともかく、ゲートが多ければ多い程資源を得る事が出来る現代では、少し前に比べて軍事的な建造に対して割く事の出来る資源が多量となっている。だからこそこうして、新設された軍港にて多くの艦艇を改修したり、新規建造したり出来るのである。
とはいえウチの戦団はまだ発足したての新設戦団である為、提携している資源提供元は少ないのが現状だ。だからアメリカほどの資源的な余裕はないのだが、異空間繋がりという縁で提供元に名乗り出てくれたエリア021に存在する工作官ゴルドーが担当する採掘場のお陰で、今の所資源不足という事態には陥っていない。
ゴルドー、元気かな…。
ともかく、こうして潤沢な資源を使用して新たに建造されたのが、目の前にある『アノマロ級航空母艦』である。ネームシップである『アノマロ』を筆頭に、姉妹艦であるニ番艦『ピカイア』、三番艦『オレノイデス』、四番艦『アクチラムス』が新設軍港にて現在、進水式を執り行っている。
現在演習を行っている『ダイヤモンド・ミネラル級航空母艦』よりも大きい340m級の船体を誇り、アメリカ製CIWSである『ファランクス』や軍港にも設置されている『ネオボックス』、アメリカ製近接対空ミサイル発射器の『RAM-116』や多用途に用いられるアメリカ製重機関銃の『Ꮇ2重機関銃』等、様々な対空兵装が搭載されている。元々はアメリカ製の速射砲が設置されたりしていたが、戦団に移籍した際に『ネオボックス』へと換装されている。
そしてこの航空母艦には、80機程の航空機を搭載する事が出来る大型の格納庫が備えられている。
基本的には海軍での運用が想定されている海上戦闘機の無人機版である『PWS-32-OTM』が64機と、アメリカで未だに使われ続けているベストセラー哨戒ヘリである『SH-60B』16機の計80機で構成され、海上における航空戦力の中核となる事が想定されている。
『アノマロ級航空母艦』の全艦が進水式を終え、『PWS-32-OTM』が記念飛行をするのを眺めつつ、式典会場を後にする。そこそこの広さがある軍港を歩き、その先にある停泊所へと向かう。
停泊所には『ボリッシュ級駆逐艦』が6隻と、それより一回り大きい『ベークライト級ミサイル駆逐艦』が4隻、そしてそれらの艦よりも小柄な船体を持つ『AZL級フリゲート』が20隻並んで停泊していた。
どの艦も近代化改修が施されており、その性能は元の艦艇性能と比べてかなり高いものへと昇華されている。
『ボリッシュ級駆逐艦』は全長150m程のそこそこ大型の駆逐艦であり、アメリカで今もなお運用されている『アーレイ・バーク級駆逐艦』とほぼ同じ大きさとなっている。しかしながら『アーレイ・バーク級』と比較すると少しばかりスラリとした船体をしており、より速力の出る艦構造となっているのが特徴である。
その為『アーレイ・バーク級』が最大船速30ktであるのに対し、『ボリッシュ級』は最大船速36ktという大幅な速力強化を成し遂げている。
そしてさらに特徴的なのが兵装面であり、アメリカなどで広く採用されている垂直ミサイル発射器『VLS』である『MK.41』を前部甲板に32セル、後部甲板に48セルの計80セルを搭載し、中にはトマホーク巡航ミサイルやVLA対潜ミサイルといった各種ミサイルを搭載している。
前部甲板には主砲である技術部謹製『MK.Ⅶ 5インチ砲』が砲塔型としてアメリカ製速射砲から取って代わる形で搭載され、側面部には4連装のミサイル発射器が両舷に2基づつ搭載されている。また艦橋や煙突から飛び出たスポンソンには『Ꮇ2重機関銃』が設置され、広い後部甲板からは哨戒ヘリである『SH-60B』が1機発着出来るようになっている。
また両舷に1基づつ、技術部が1から設計した『DW-3』という俵積み状の短魚雷発射管を装備している。この発射管は自動旋回装置を備えており、高速かつ的確な位置で発射管を旋回・静止させる事が出来る非常に高性能な発射管であると同時に、魚雷発射管には珍しい自動装填装置を搭載した短魚雷発射管なのである。
その為短魚雷弾倉と呼ばれる魚雷庫も備え付けられてはいるのだが、如何せんスペースを取るので使用出来る魚雷の数が削減されてしまうというデメリットを持つ。しかしながら人員を削減出来るというメリットは、人手の足りない戦団事情に対し非常に優しい利点となっている為、採用に踏み切ったそうだ。
まぁ樹脂人形がいるとはいえ、その製造数はまだ必要数に追い付いていないし、そもそも現代の海戦において雷撃戦自体がそこまで重視されていないというのも、大きな理由の一つだろう。
現代戦の主役はミサイルだからなぁ……駆逐艦の雷撃戦を見られないのは少し寂しくもあるが、仕方ない。
ともあれ、これが『ボリッシュ級』の概要である。
そして隣に停泊する『ベークライト級ミサイル駆逐艦』、コイツがかなり特殊な部類に入る艦艇である為先に『ボリッシュ級』を説明したのだ。
この『ベークライト級』の最大の特徴はミサイル積み過ぎという点にある。
『ベークライト級』よりも一回り大きな船体に特徴的な6方向に突き出たアンテナ、さらには回転し続ける大型のレドームが目を引くこの駆逐艦は、前よりに設置された艦設備により確保された後部甲板の広大なスペースを利用し、大量のミサイルをこれでもかと搭載した所謂変な艦艇である。
史実において、ミサイルを大量に搭載する艦艇は幾らか見られた。ロシアのソヴレメンヌイ級や中国の沱江級──正確にはコルベットだが──の様に大量のミサイルを搭載した小型艦艇は、結果的にミサイルの有用性をより強固なものとする証明となった。
そんなミサイルの先輩達を見習い(?)、アメリカが造り出したミサイル駆逐艦がこの『ベークライト級』なのである。
そんなこの艦に搭載されるミサイルの総数は脅威の160発となっており、1艦だけで敵艦隊に大打撃を与える事の出来る強力な艦艇となっている。
……これだけ聞くと素晴らしく良い艦である様に聞こえるが、戦争前のアメリカでは例え出動が掛かったとしてもミサイル全弾発射なんて事はそうそう無く、この艦艇が出動する必要性が無かったという歴史的背景が存在している。
つまりは汎用性が高く、それでいてミサイルと砲撃、対潜戦闘を全てこなせる『アーレイ・バーク級』の方が、より優れているという結論にアメリカは至ったのである。
まぁ凄く単純に言えば、「この艦、いる?」ってなったと言う訳だ。当時の技術者達には作る前に気付けよと文句を言いたい所だが、結果的に俺達の主戦力となる事になったのもあり、あまり文句を言える状況では無くなってしまった。
ちなみに当時設計に関わった技術者の1人から、この艦が就役した際に手紙を貰っている。内容は「締め切りに追われてヤケクソで提出したらなんか通ってしかも結局使われない可哀想な子だけど、君達なら活躍させてくれると信じている!後は任せた☆」との事で、最後の☆が非常に腹立つ文章であった事は良く覚えている。
にしても締め切りに追われてか……向こうの技術者も苦労してんだな……。
ともかく、この可哀想な艦が搭載するミサイルの数々は、革命派を木っ端微塵に粉砕してくれるに違いない。
それとここ迄述べたは良いが、『ベークライト級』と『AZL級』に関してはまだ細かく資料を見てないんだよなぁ……あとで設計資料を確認しておくとしよう。
でもこれで、革命派連中に攻め込む準備が殆ど完了したって事になるんだよな……そろそろ本部にも戻る必要があるし、この軍港とも一時的にお別れだな。
攻勢が終わったら、また此処に来るとしよう。技術者向けに開店したというイタリア料理店で、停泊する艦艇達を眺めながら昼食を取る生活は中々良かった。次も食べに来るとしよう。
「おーーい!メルトぉ!!!そろそろ戻んぞぉ!!」
声デカっ。
凄い大声で遠くからモーリスが呼んでいる。文明の利器であるスマホがあるのに何故遠距離から大声を発して呼ぶのかよく分からんが、まあいいか。
「今行く!!」
俺も声を張り上げ、モーリスに返事して駆け出す。
平和な時間はあっという間に過ぎ去った。
──此処から先は、血生臭い戦争の時間だ。




