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朧火の意志  作者: 布都御魂
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沈む心


新設軍港の防衛戦から3日、徐々に完成に近付く軍港には多数の軍艦達が停泊していた。アメリカから安く購入したアザーライト式空母『トパーズ・ミネラル』を始め、同じくアザーライト系燃料を採用した黎明期の駆逐艦である『ボリッシュ級』やミサイル駆逐艦の『ベークライト級』等の多数艦船が、今この戦団に所属している。


時代が時代というのもあり、戦艦等の大口径砲を搭載した艦船はいない。少し寂しくもあるが、理想とロマンでは戦争は成り立たないのだ。


……まぁそれはそれとして戦艦っていいよな。大口径ってロマンだし。


……ともかく、今ウチの戦団に所属している艦艇達は基本的にアメリカ軍で旧式化した黎明期の艦艇達だ。はっきり言って、アメリカのような最新型を保有する軍と相手にしてしまえば勝ち目はほぼ無いと言えるだろう。


しかしながら俺達が戦うのは軍の倉庫から接収したり密かに密造した急造品の兵器を運用する革命派連中だ。一周回ってオーバーキルのような気もしてくるレベルの軍事力とも言えなくはない。


まぁだからといってそのまま使っていては何時か足元を救われるのは想像に固くない為、今技術部の面子が必死に艦艇の近代化を進めている最中である。


こうして近代化を進められるのも、先の防衛戦に勝利したからなのだが……なんだかなぁ…。


心のモヤモヤを拭えずに軍港の端でボーッとしていると、唐突に頬に冷たい感触が走る。


「─冷たっ!?」


「随分と落ち込んでいるね、メルト君。」


冷たい缶コーヒーを持って現れたのは、私服に身を包んだヴィンセントだった。


「ムールシュトを取り逃がした事、気にしているのかい?」


「……………はい。」


ヴィンセントからコーヒーを受け取りつつ、随分の間が空いた返事を返す。


「ふふっ、懐かしいなぁ…。」


懐かしい…?


「懐かしい、とは?」


「あぁ、私も君と同じくらいの年の頃、同じような状況に陥ったものさ……。」


ヴィンセントがミス、か…。今ではあまり想像しづらいが、昔色々あったのだろうか…?


「君が今考えている事は大体分かる…だからこそ、君に一つ伝えておこうと思ってね。」


「な、なんでしょう…」


「悩んで良い、迷っていい……けど最後には()()()()()()出てみなさい。」


一歩、だけ。


「『一歩で良いのかって』顔してるね。まぁ、気持ちはわかるよ。」


ヴィンセントは一度海の方を向き、言葉を続ける。


「あえて断言しておくよ。『一歩』で良いんだ……その一歩は普通の一歩では無く、()()()()()()()一歩なんだからね。」


「乗り越えた、一歩……。」


「私も君も、時に間違え、時に成功する普通の人間だ。壁に何度も何度もブチ当たる事があるとても弱い生き物だ……でもだからこそ、乗り越えた先はさっきまでの自分よりも『強い自分』である事を忘れないようにしなさい。うん、そうだな……乗り越える、よりも『折り合いをつける』と言った方が良いかな。」



『折り合いをつける』



その言葉が、心に蔓延っていた暗雲を吹き飛ばした。


悩みに苦しむ必要は無いのだと、


迷いに苦しむ必要は無いのだと、


悩みつつ、時に迷いつつ、()()()()()()()()()()()のだと、ヴィンセントが言いたい事が頭で反芻される。


………心のモヤが、晴れた気がした。


いや、晴れたのだと『折り合い』をつけられたのだ。


「………ありがとう、ヴィンセント。」


「どうやら、気持ちの整理がついたようだね。」


ヴィンセントと缶コーヒーで遅めの乾杯をする。


……苦い筈のコーヒーが今日は妙にさっぱりと感じられたのは、俺の気のせいに違いない。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


新設軍港防衛戦から1週間、俺達はリビングルームにてちょっとした会議を行っていた。議題はもちろん、軍港と所属する艦艇達に関してだ。


今回は珍しく、モーリスが司会を務めている。


「技術部と整備スタッフの献身により、軍港の完成と艦艇の近代化改修が無事完了した。設備と艦艇のリストを手元の端末に送付してあるから、確認してみてくれ。」


言われた通り端末を操作してみると、現在の軍港設備状況が表示される。艦艇の整備に必要なドックに始まり、停泊所や倉庫、輸送機の発着場から防衛兵器まで様々な整備が表示されていた。


特に防衛兵器に関しては細かく表示がなされており、軍港の四隅と重要箇所にはアメリカ製CIWSである『ファランクス』が設置されている。また沿岸部には技術部謹製の防衛兵器である『ネオボックス』が配置されている。


『ネオボックス』は防衛部隊時代からある対艦ミサイルの『Ꮇ256バイパー』が8基と、その中央から伸びる技術部謹製5インチ砲の『MK.Ⅶ 5インチ砲』で構成された対艦防衛兵器である。流石に原子力空母クラスの大きさを撃破するのは困難だが、駆逐艦やフリゲートといった小型の艦艇であれば迎撃する事が可能となっている。


その他にもレーダーや探照灯といった設備が、この軍港には用意されているようだった。


そして艦艇リストだが……軽く纏めるとこんな感じになる。




『ダイヤモンド・ミネラル級航空母艦』✕1

・一番艦『トパーズ・ミネラル』(艦番繰り上げ)


『アノマロ級航空母艦(建造中)』✕4

・一番艦『アノマロ』(建造中)

・ニ番艦『ピカイア』(建造中)

・三番艦『オレノイデス』(建造中)

・四番艦『アクチラムス』(建造中)


『ボリッシュ級駆逐艦』✕6

・一番艦『ボリッシュ』

・ニ番艦『プレス』

・三番艦『カット』

・四番艦『ウェルディング』

・五番艦『クーリング』

・六番艦『コーティング』


『ベークライト級ミサイル駆逐艦』✕4

・一番艦『ベークライト』

・ニ番艦『スチール』

・三番艦『ボーキサイト』

・四番艦『ブラス』


『AZL級フリゲート』✕20

・一番艦『AZL-001』

・ニ番艦『AZL-002』

───以下連番───




──という感じになっている。


『アノマロ級航空母艦』に関しては現在新設された軍港のドックにて新規建造が行われており、機動艦隊の中核となる航空母艦として就役する予定だそうだ。


総数で見れば各国の海軍が保有する艦数よりも遥かに少ないが、発足したばかりの戦団が保有する艦数と考えればかなり多い方だろう。


少なくとも、未だ異空間にて海上戦力に手を出してない革命派連中を相手する分には、十分すぎる戦力である。


「現在、技術部の連中が総力を決して近代化改修を行っている。あと1週間もすれば、現在保有する全ての艦艇に『Ꮇ256バイパー』の発射器と新型複合レーダーの搭載が完了する予定だぜ。」


「建造中の『アノマロ級』に関してはどうなんだい?」


ヴァネッサがお茶請けのクッキーを齧りつつモーリスに問い掛ける。……俺も食べよ。


「そーだなぁ……一番艦の『アノマロ』に関しては船体は完成してて後は武装と艦載機のみ、ニ番艦の『ピカイア』は船体が半ば完成してて、三番艦以降はまだ未着手ってとこだな。建造用のドックが空き次第、着手し始めるって感じだぜ。」


設計データを見る限り、『アノマロ級航空母艦』は『ダイヤモンド・ミネラル級航空母艦』よりも大型の340m級の大型空母だ。むしろこのペースで建造を続ける技術部には頭が上がらないな……今度差し入れでも持って行くとしよう。


「ならその建造が終わり次第……攻勢を開始するとしようかね。」


「……攻勢に出るのか?」


「敵さんの動きも活発化し始めてるし、オマケにフランスを始めとする現時点での仮想敵国からの援助もより本格化し始める頃だろう……だったら今のうちに、少しでも戦力を削っておきたいところなのさ。」


革命派に武器や食料といった物資が揃ってからでは、此方もそれ相応の戦力が必要になるってことか…


「それに……此方が軍港を建設した事で、奴らも海上戦力を準備し始める可能性もあるからねぇ……戦力が揃わない内に、艦艇からの対地攻撃と地上部隊の同時攻撃で、敵さんを盛大に怯えさせてやろうって寸法さね。」


思考回路がヤンキーのソレなのはさておき…。


「なら当面は技術部の手伝いと緊急出動(スクランブル)に備えて待機になるな。」


「おっ、よく分かってるじゃないか。丁度良いからこのまま指示を出すよ。ヴィンセント、ジャック、モーリス、メルトは軍港にて技術部の助っ人に入りつつ待機。緊急出動(スクランブル)用にアナライザーを軍港の格納庫に移動させておきな。」


「了解。」


「アタシとヘンリク、アンジェ、トリシャはこの本部で攻勢に向けての準備だ。特にアンジェ、アンタはアタシと一緒に事務処理だからね!」


ビシッとアンジェに指を向けるヴァネッサ。唐突に名指しされるとは思っていなかったのか、食べていたクッキーが手から零れ落ちる。


「えぇー!?!?なんでアタシが!?!?!?」


「やかましい!アンタ、この前3回連続で報告書が未提出だったの、忘れた訳じゃないだろうねぇ…?」


鬼の形相でアンジェを睨むヴァネッサ…怖っ。


「うっ…………ごめんなさぃ……。」


何時もは元気なアンジェが涙目だ……3日連続未提出って、何やってんだよ……。


ちなみに俺は毎回キチンと提出している。ヴァネッサに怒られたくは無いからな……怖いし。


「分かってるならよろしい。」


よろしいと言っている割に顔が戻ってないぞ、ヴァネッサ………とばっちり受けたら嫌だから言わんけど。


「話を戻すよ……次の出撃任務は大規模な攻勢になる。あまり猶予は無いが、今のうちに出来る準備はしておくんだよ。特にコンディションはしっかりと整えておくように!出撃前にフラフラなんざ格好悪いよ!!」


「「「「「「「りょ、了解。」」」」」」」


「よろしい!では、解散!!」


項垂れるアンジェを尻目に、俺も軍港に移動する為の準備を済ませる。攻勢前には一度戻ってくるが、それまでは軍港に泊まり込みになる……色々準備していかないとな。


それに、アナライザーの準備もしておかないとな……ムールシュト襲撃の件もある……準備と想定は念入りに、だ。


そんな事を考えつつ、荷物を取りに自室へと足を運ぶのだった。








艦艇に関しては、いつか武装の紹介が出来たら良いなと思ってます。それと、出てくる艦艇は基本架空の艦艇です……皆様の想像力をお供に、お楽しみ下さい(*´▽`*)

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