司令部強襲
日も暮れて辺りが静まりかえった中、2人の兵士がドイツ製短機関銃である『UMP』を手に持ったまま警備している。
付近を厳重に警戒しているとは言えないが、居眠りやサボり等をしていない辺り真面目な警備兵というのが伺える。
だからこそ、入り口に1発の薬莢が転がってくる音に気付いてしまった。気付き、音の原因を探ろうと背にしていた壁から背中を離してしまった。
彼等の意識は、音の原因を探る事に集中してしまっている。普段であれば真面目に警備している優秀な行動と言えるだろうが……今回ばかりは話が別だった。
なにせ、入り口の両サイドに潜む侵入者の存在を、認識出来ていなかったからだ。これが足音ならば、侵入者かと疑う事も出来ただろうが、只の金属音程度では、音の根源を探ろうとする程度の思考にしか至らないのも無理は無い。
そんな警備兵達の首元に暗闇から腕が伸びたと思いきや、そのまま首をゴキッと捻られてしまった。熟練した技術によって首を折られた警備兵達はそのまま崩れ落ち、襲撃者の手によって付近の茂みに放り込まれる。
「──クリア。」
「同じく、クリア。」
「ゴースト3より各位、現時点で付近に敵影は無い。」
ヴィンセントとジャックが警備兵達の首を捻り、俺が付近の警戒を行う。俺はまだ敵兵の首をスムーズに圧し折る技術は持っていないから、妥当な配役と言えるだろう。
ともかく、これで入り口の警備は限りなく薄くなった。……潜入にはもってこいだ。
「──よし、行くぞ。」
「「了解」」
ヴィンセントに続いて前線司令部の内部へと潜入する。夜中というのもあり、内部は真っ暗闇だ。これが地球であれば月明かりが窓から入るのだろうが、残念ながら此処は異空間だ。星ならばあるが、月は無い。
──まぁ月明かりで姿が露呈する心配が無いので、個人的にはやり易いけどな。
入り口と違い真っ暗闇な内部に入るタイミングで、ヘルメットに取り付けてある暗視ゴーグルを展開する。最初から暗視ゴーグルが標準装備されているのもあってこのヘルメットを持ってきたけど、取り外せないのは如何なものかね。
ちなみにこのヘルメットの暗視ゴーグルはアメリカ製第3世代暗視装置である『AN/PVS-31』であり、性能は抜群に良い。元がアメリカ軍所属なのもあって、こういった製品は使い放題なのだ。
暗視ゴーグルによって鮮明になった視界を頼りに、長い廊下を慎重に進んで行く。寝静まっているとはいえ、司令部には起きている人がいる筈だ。というか起きていないと、前線の兵士に指示が出せないからな。
ヴィンセントがハンドサインで指示した換気ダクトの金網を取り外し、中に潜り込む。匍匐前進で進んで行き、デバイスに送られてくる本部からの情報を元に司令部を目指す。
入り組んだダクトを懸命に進んで行くと、灯りが漏れ出ているダクトに辿り着いた。情報通りなら此処が司令部の筈だ。
此処からは暗視ゴーグルは必要無い為、暗視ゴーグルを上に上げて収納する。外せないから微妙に邪魔だが、まぁ我慢するとしよう。
先頭のヴィンセントがポーチから閃光手榴弾を2つ取り出し、レバーを握ったままピンを引き抜く。小声で「行くぞ」と言うや否や金網の広い目から閃光手榴弾を司令部内部へと放り込む。
真っ直ぐに床へと落下した閃光手榴弾が炸裂し、司令部内部を眩い光で埋め尽くす。それと同時にヴィンセントが金網を蹴破り、司令部内部へと突入する。俺とジャックもそれに続き、着地と同時に『マカロフPB』のセイフティを解除し引き金を引く。
強烈な閃光で視力を奪われた司令部の将校達に、なす術は存在しなかった。彼等の頭部に次々とサプレッサーで音を奪われた銃弾が撃ち込まれ、その命を散らしていく。途中からサプレッサー付きの『AK-15』に切り替えつつ制圧を続け、司令部内部の生き残りを全て殺害する。
「クリア。」
「クリアだゼ。」
「此方もクリアだ……上出来だな。」
さて、司令部内部を殲滅したのはいいが、問題は此処からである。閃光手榴弾の炸裂音と短いとはいえ人間の悲鳴やうめき声が基地内部で発生したのだ……時期に兵士達が集まってくるに違いない。
現に異変を察知したらしく、下の階からドタバタと音が聞こえてくる。
「各員、此処からは遠慮は要らん。鎮圧に来た人間を殲滅せよ。」
「オーケー、派手にやろうゼ。」
「了解、鉛玉をプレゼントしてやろう。」
銃をAKから『モスバーグᎷ500』のカービンに持ち替え、入り口付近で待機する。突入してきた間抜け共に、鉛玉のバーゲンセールをお見舞いしてやるとしよう。
そうこうしている内に足音が近くなり、司令部の無駄にデカい扉が思い切り蹴破られる。
さぁ、パーティーの時間だ。
引き金を引き、12ゲージ弾を先頭の兵士へとぶっ放す。簡素とはいえボディアーマーを着けちゃいるが、至近距離のショットガンには耐え切れなかったようで、後続の兵士達に無惨な姿を晒す羽目となる。
レシーバーをスライドして薬室に次弾を装填し、動揺する後続の兵士達にも12ゲージ弾をお見舞いする。高火力なショットガン弾薬の前に、人間など脆い的でしかないのだ。
カービン化して装填数が少なくなり、4発しか装填できないこのショットガンだが、突入してくる兵士達を足止め兼制圧するには十分すぎる火力だった。だが、まだまだ兵士は後からやって来るのだ……のんびりと装填している暇は無い。
ショットガンを背負い、スリングに預けていた『AK-15』を手に取る。セイフティを外してACOGを覗き込み、レティクルを合わせて引き金を引く。既にサプレッサーは取り外してある為、取り回しは良くなっている。銃声は鳴り響くが、襲撃がバレている以上遠慮は要らんのだ。
突入してくる兵士達に7.62mm弾によるヘッドショットをお見舞いする。頭部を血生臭いポップコーンにするには十分すぎる火力であり、兵士達が入り口付近に無惨な死体を積み上げていく。
後方からもヴィンセントやジャックが『ステアーAUG』や『SKSカービン』で射撃しているようで、突入して来た兵士達はなす術無く崩れ落ちていった。
しかしまぁ…数が多い。そろそろAKの弾薬が尽きそうだ。……セミオートで撃っているにも関わらず、だ。
「ちぃとばかし多すぎんなぁ!──ゴースト3、まだ行けそうか!?」
ジャックが此方へと呼びかけてくる。俺もヘッドショットを継続しつつ返事をかえす。
「行けるには行けるが、そろそろ弾薬が尽きる!」
そう言って扉の横で『UMP』を此方へと構えていた兵士にヘッドショットをプレゼントすると同時に、マガジンの弾薬が尽きてしまった。リロードしようと空になったマガジンを外したその時、目の前に『UMP』を持った敵兵が勢いよく突っ込んできた。
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!!」
血塗れなのを見るに、死ぬ間際の特攻を仕掛けて来たのだろう。その自己犠牲には敬意を評するが、思い通りにはさせん。
咄嗟にマガジンとAKから手を離し、一歩踏み込んで右ストレートを敵兵の『UMP』にぶちかます。銃口が思い切りそれた『UMP』は誰も居ないモニター付近へと銃弾をばら撒き、そしてその持ち主を無防備な状態へと変貌させる。
ショルダーベルトから『Ka-Bar』を引き抜き、敵兵のこめかみに思い切り鋭い尖先を突き刺す。切れ味の良いそれは深々と敵兵の頭へと突き刺さり、その命を刈り取っていく。
すぐさまナイフを引っこ抜き、死体を蹴り飛ばしつつナイフをしまう。ホルスターからマカロフを引き抜くが、ふと肩に手が置かれる──ヴィンセントだ。
「──此処からは任せろ。」
そう言うと、ヴィンセントは手に持った手鎌で目の前の敵兵の首を文字通り刈り取る。その姿は命を刈り取る死神のようで、次々と敵兵の首が無機質な司令部の床へと落ちていく。
踏み込んで手鎌を振り抜き、振り抜いたそれをクルッと回して逆手に持ち、今度は手前側に引くように首を狩る。洗練されたその動きは敵兵の戦意を削ぐには十分だったらしく、中には逃げ出す兵士を見受けられた。
──だが、それを許すヴィンセントではない。
すぐさま追い付くや否や首を狩り、逃げるという懸命な判断をした若い兵士を容赦なく殺戮する。次々と聞こえていた悲鳴が徐々に減り始め、遂には何も聞こえなくなった。
「……ゴースト1より各位、殲滅完了だ。」
血塗れの手鎌を回しつつ、ヴィンセントが廊下から戻ってくる…………怖ぇよ。
「すげぇな……。」
「相変わらず凄まじいネェ……。」
サイレントサイスの名は伊達じゃないってか…。
「余り褒めるな……飴くらいしか出んぞ。」
……飴は出るんかい。
そう言って敵陣で飴を配るヴィンセントを尻目に、念の為部屋の中を見回す。どうやら生存者は居ないようだ。
「さて……ゴースト1よりカタール、司令部及び駐留する戦力の殲滅を完了した。」
『──こちらカタール、お疲れさん。殲滅が終わってるなら、帰りの便をチャーターしてやるさね。』
ヴァネッサが笑いつつそう告げる。
「頼んだ……最後の仕事をした後、撤収する。」
「了解。回収ポイントは送っておくから、終わり次第向かいな。」
最後の仕事……?
「ヴィンセント、最後の仕事って?」
「あぁ、これを設置する。」
そう言ってヴィンセントがリュックから取り出したのは、設置式の爆弾である『C4』であった。
「コイツをこの部屋に設置した後脱出し、爆破する。撤退はその後だ。」
「この部屋の機材をブッ壊して、敵に再利用されるのを防ぐのが狙いだナ。」
なるほど……まぁ、この基地は俺達に取ってはあまり旨味の無い基地なのだが、敵に取っては重要な前線基地だ。再び戦力を配置しようとするのは、想像に固くない。
「……後続の将校達が、爆破された司令部を見て何て言うのか聞けないのが残念だな。」
「ククッ、言うじゃねぇかメルト。ま、そういうこった。」
モニターやPC、書類棚や通信設備といった重要な設備にC4を取り付ける。これが爆発すれば、再利用しようとは思えん程のスクラップと化すだろう。
「よし、設置完了!」
「こっちもだゼ。」
「よし──これより撤退する。念の為、警戒は怠るな。」
司令部を後にし、階段を降りて1階へと移動する。潜入する時にも通った入り口を出て、建物を囲む外壁の外まで移動する。
「では──C4爆破といこう。」
ヴィンセントが遠隔スイッチのボタンを押したその時、司令部のあった部屋が爆音と共に吹き飛んだ。
思いの外威力があったようで、2階部分が崩れ落ちぺしゃんこに潰れてしまっていた。この基地を使おうとは、最早思えないレベルでブッ壊されている。
「──任務完了、これより帰投する。」
「「了解。」」
回収ポイントには既に行きで乗ったステルスヘリが到着しており、俺達はそのヘリに乗ってこの基地を後にした。
──生きて帰れた。
そう心の中で噛み締めつつ、仲間達と談笑しながら本部へと帰投するのだった。
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