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朧火の意志  作者: 布都御魂
32/46

エース・オブ・エース



『意志』は人間の有り様であり、時に英雄へと導き、時に破滅へと導く。結局、扱う人間次第である。








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



盛大なマズルフラッシュが迸り、歯向かう者をスクラップへと変える。


AKMのハンドガードに手を添えつつ照準を合わせ、敵アナライザーの胸部に7.62mm弾のプレゼントをお見舞いする。


俺は今、ヴィンセント率いる前線班の一員として数時間前に撤退した最前線へと再び降り立っていた。前回と比べて有人のアナライザーは減っているが、その分を樹脂人形(ドール)操縦の『SA-36』を大量投入する事で補っている。


今回の作戦が敵戦力の撃滅ないし遅滞戦闘による戦線の維持である以上、それに伴って俺の機体も重装備と化している。


一度AKMをウェポンハンガーにしまい、別のウェポンハンガーからAKMよりも長大な銃を取り出す。


第二次世界大戦の最中、相対する敵兵を見るも無惨な姿へと変貌させ恐怖を抱かせた有名な機関銃であるドイツ製汎用機関銃の『MG42』である。『ヒトラーの電動のこぎり』とも呼ばれたこの銃の最大の特徴は、その銃口から放たれる銃弾の連射速度にある。


毎分1200〜1500発の銃弾を恐ろしい程の連射速度で放つ事が可能な為、弾幕を張ればそれはもう濃密な弾幕となる事は間違いないだろう。勿論、連射速度の速さは弾切れの早さに直結する為視点を変えればデメリットとも言えるのだが、そのデメリットを鑑みた上でも傑作銃であると言えるであろう。


……個人的には電動のこぎりでなく、電動ミシンなら可愛げも出るのではないかと思っているのだが、そのファンシーさが逆に怖いのでこの考えはやめておくとしよう。


キャリングハンドルを展開し、グリップを握りしめて引き金を引く。待ってましたとばかりに放たれる濃密な弾幕は、目前にいた敵アナライザーの装甲を紙の様に喰い破っていった。


あまり連射をし過ぎると弾切れを起こす上に銃身がオーバーヒートして使い物にならなくなる為、連射は短く的確にだ。


ドルルルルッとバイクのエンジンを吹かしたかのような轟音を響かせながら銃弾が躍り出る。第一次世界大戦頃から小銃用の弾薬として活躍し続けてきた大口径の7.92✕57mmモーゼル弾を大型化した銃弾は、敵のフランス製アナライザーの装甲を「装甲?知らんな」とばかりに喰い破っていく。まあこちとら小銃用のフルサイズ弾を大型化した銃弾を用いているのだ…AKMの7.62mm弾ですら貫通を許す貧弱な装甲では防ぐ事など不可能である。


一度連射を止め銃身の冷却を行う為に左腕へと銃を預け、右腕から展開式破砕槌『オリオン』を展開してグリップを握る。握り締めたそれを遠心力を乗せて振るい、敵アナライザーの胸部装甲を大きく歪ませスクラップへと変える。


正直この細さから出る火力ではないのだが、技術部に聞くと長くなりそうだったので止めておいた。平気で三徹する連中と談議し続けていては身体がもたん。


返す刃で──刃無いけど──別のアナライザーが振り下ろすサーベルを弾き飛ばしそのまま胸部に向かって展開式破砕槌(オリオン)を振り下ろす。先程と同様にスクラップへと変えた後、冷却を終えたMG42を腰だめに構え引き金を引く。


こうして無数の敵機を葬ってはいるが、未だに敵の戦力は尽きる様子が見られない。このままではジリ貧確定だが、残念ながら耐えなければならない。


戦争は物量がものを言わすと言うが、ある程度であれば個々の質でカバーする事が出来る。幸いにも機体の性能は此方が上なのだ、無理を押し通してやるとしよう。


弾幕を張って戦車群をスクラップの山へと変貌させていると、ふと敵の動きに変化が生じているのを感じ取った。先程まではバラバラに突撃してきていた敵のアナライザーが、大盾を持った機体を整列させその後ろから銃を構えているのである。


「ブラボー3よりブラボー1、敵の動きが変わった。」


『……そのようだな。恐らく『ファランクス』だろう。』


ファランクス。古代ギリシアにおける集団歩兵戦術の一つであり、そのルーツはそれよりも遥か昔の紀元前700年頃のアッシリアにあると言われる。大盾と槍による密集陣形を組み、鉄壁の防御を保ちつつも前進するといった歩く移動要塞のような事をする戦術である。


もっとも彼等が持っているのは槍でなく銃火器であるが、その堅牢な陣形はこと会戦という状況下において無類の強さを誇るのだ。むしろ銃という遠距離からの攻撃手段が加わった事により、その堅牢さは増したと言っても過言ではないだろう。


俺の持つMG42で強引に喰い破る事も出来なくはないが、これまで以上に弾薬の消耗を受けるのは想像に固くない。


ジリジリとにじり寄って来る密集陣形。これを破るにはどれ程の損害が出るのか……などと考える必要性は無い。


考えてみて欲しい……俺達がいるこの時代は西暦何年だ?古代ではそれが有用だったのだろうが……最早その戦術は旧時代のものなのだ。


『ブラボー2より砲兵隊、支援砲撃を要請する。座標は送付してある、確認されたシ。』


『──こちら砲兵隊、要請を受託した。とびきりのハバネロをお届けしよう。』


『ククッ、そいつはイイ……任せたゼ。』


何故ハバネロ……。


『ハバネロか……久々にレッドチャーハンが食いたくなってきたな。ブラボー2、夕飯に一品リクエストして良いかね?』


『アンタも好きだねぇ…良いぜ、とびきり辛いのをご馳走してやるヨ。』


ヴィンセントは無類の辛い者好きで、よく真っ赤に染まったラーメンやチャーハンを美味そうに食べている。中でもジャックの作るレッドチャーハンという頭のネジが全て吹き飛んだような激辛チャーハンを好んで食べている。


俺も一度だけ味見したけど、あれ人間の食い物じゃねぇよ……2日くらい味覚死んだぞ、アレ。


『メルトは……食後のデザートだよナ?』


「おう……可能ならプリンが良い。」


プリン好きなんだよね……


『言うと思ったゼ…既に作って冷やしてあるゼ。』


「最高だな……早く帰りたい。」


『同感だ。さっさとこいつ等を鉄屑に変えるとしよう。……ほら、死神の声が来たぞ。』


戦場の死神はだいたい空から来る。死を司る神では無く、榴弾という人工的な姿をしてだが。


この榴弾は後方に待機している多脚戦車の砲兵隊仕様から放たれたものであり、その火力は絶大なものだ。薄っぺらい盾一枚で防ぎきれるのか、見物だな。


『──弾着、今!』


猛烈な爆風と共に大地に降り立った榴弾が荒れ狂う。破片と爆炎を撒き散らしながらファランクスを吹き飛ばし、最前列に立っていた大盾持ちのアナライザーを消し炭に変える。


運良く味方のアナライザーが盾となった機体も、その圧倒的な火力の前に立ち尽くす他無かった。だが、戦場ではその一瞬が命取りだ。


MG42のキャリングハンドルを握り締め、狼狽する敵機に7.92mm弾の洗礼を浴びせる。盾の無いファランクスなど、只の的に過ぎんのだ。


『ブラボー2より砲兵隊、支援砲撃の効果絶大!支援感謝する。』


『砲兵隊、了解。では引き続き後続のありんこ共を吹き飛ばすとしよう。』


現在砲兵隊は、俺達が相対している敵の最前列から遥か後方に位置する敵の増援部隊を砲撃している。いわば砲兵隊と俺達の挟み撃ちだ。


ファランクスが寧ろ被害を増大させると気付いたのか、敵が再びバラバラに動き出す。判断の早さは賞賛に値するが、出切れば損害が出る前に気付くべきだったな。


MG42の引き金を引き、濃密な弾幕をお見舞いする。流石に学習しているのか盾持ちの機体を前面に出して対策しているようだが、ヒトラーの電動のこぎりの前に、そんな盾は紙切れに等しいのだ。


案の定穴だらけとなった盾と共にアナライザーが崩れ落ち、結果的に足元に転がる残骸として後続の侵攻を妨げる結果となってしまっている。


そんな可哀想な連中に弾幕をプレゼントしていたのだが、遂にMG42が息切れしてしまった。改造により400発ボックスマガジンを装着しているとはいえ、あれだけ弾幕を張り続けていれば弾切れになるのは仕方ない事である。


装填(リロード)!」


付近の機体へ弾切れを伝え、すぐ後ろにいた『SA-36』と場所を入れ替える。前に出た『SA-36』が弾幕を張ってくれている内にMG42のベルトカバーを開いて空のマガジンを取り外し、新しいボックスマガジンからベルトリンクを引っ張りだしてガイドに装着、マガジンを取り付けた後カバーを閉じてコッキングを済ませる。


これで再び、濃密な弾幕を張る事が出来る。


カバーしてくれていた『SA-36』と場所を変わり、前方のアナライザーへ弾幕をお見舞いする。長い間ドイツを支え続けた7.92mm弾は、皮肉にもドイツ出身の革命派達を鉄屑とひき肉のハンバーグへと変貌させていた。


今の所、此方の部隊に損害は出ていない。多少被弾した機体も見られるが、装甲に傷を付けられる程度の軽微なものである。


上手くいけばこのまま押し切れると思ったその時、突如眼前に剣が迫っていた。


「!?」


咄嗟に盾で防御したものの、上手く衝撃を逃がし切れなかったのか少しばかり後方へと弾かれてしまう。


『──テメェ等だな?侵攻の邪魔をしてるっつー奴等は?』


敵機からのオープン回線による問い掛け。妙に荒っぽい口調の搭乗者は、剣を肩に担ぎ言葉を続ける。


『オメェ、強いらしいな?俺とも戦ってくれよぉ!』


そう叫ぶや否や、此方へと手に持つ長大なロングソードを振り下ろしてくる。


咄嗟に防御しつつ、敵機の情報を探る。


機体は他の敵兵同様、量産型フランス製アナライザーのようだが、明らかに動きが違う。ロングソードを縦横無尽に振り回し、時折足技を仕掛けて此方を追撃して来る。


……間違いなく、手練だ。


『アイギスよりブラボー3!交戦中の敵機の識別が完了しました!──フランス軍所属の軍人であり英雄の中の英雄(エースオブエース)!『鋼の狂戦士(アイアンバーサーカー)』の異名を持つ『ムールシュト・パリジャン』です!!!』


……とんでもないのが出てきやがった。


『オイオイ……『鋼の狂戦士(アイアンバーサーカー)』つったら1機で他国の遠征軍を捻り潰したバケモンじゃねぇか!?』


『ブラボー1よりブラボー3──やれるか?』


「やるしかないでしょう……前線は任せます。」


コイツをどうにかしなきゃ、部隊に被害が出る。やるしかない…。


『お?やっと相手にしてくれる気になったか?』


「……あぁ、お前の相手は俺がしてやる。」


『そりゃあいい……楽しもうぜ。』


そう言って突っ込んで来るムールシュト。全く…だから戦闘狂は厄介なんだよ。


MG42をウェポンハンガーに預け、代わりに専用大剣の『エターナル』を引き抜く。ムールシュトのロングソードと俺の『エターナル』がぶつかり合い火花を散らす。


コイツ、ロングソードの癖に一撃が馬鹿みたいに重い……。どういう操縦センスしてやがる。


大剣を振り抜き胴体を狙う。が、手に持ったロングソードで上手い事防いだ後跳躍し、落下の勢いのまま此方へと斬りかかって来る。


すぐさま大剣で防ぎ鍔迫り合いのような状態になるも、引き際が上手いのかすぐに距離を取って剣を構え直していた。


『良いねぇ……こんなに骨のあるやつは久々だ…お前、名前は?』


「……知りたいならば自分から名乗ったらどうなんだ。」


『おっと、悪いな。俺はムールシュト、鋼の狂戦士(アイアンバーサーカー)なんて大層な異名もあるが……そんなもんどうでもいい。俺は俺だ。…さぁ名乗ったぜ?お前の名前も教えろよ!』


随分さっぱりした奴だ。敵でなければ嫌いじゃない人物だったかもしれんが…。


「……機甲傭兵戦団"フォートレス"所属、メルトだ。」


『メルト、だな……覚えたぜ。さぁ、続きといこうじゃないか。』


「……戦闘狂(バトルジャンキー)め。」


お互い同時に地を蹴り、大剣と直剣が交差する。激しい火花を散らしつつ剣戟が舞い、付近に剣圧を撒き散らす。


空気を切り裂く音が次第に甲高くなり、お互いにヒートアップしているのが感じ取れる。圧倒的な力と力によるぶつかり合いは、最早荒れ狂う嵐の衝突に等しかった。


『楽しいなぁ……メルト、お前は楽しんでるか!?』


喧しいな……だが、


「不本意ではあるが……正直楽しいな。」


『そいつは良い!!まだまだいくぜぇ!!!』


1本の剣だけとは思えない程の剣戟の応酬に、俺は何とも言えない楽しさを見出していた。戦争の最中に不謹慎かもしれんが、俺はこの戦いを楽しんでいる。


恐らく同格であろうムールシュトとの戦闘は、技の研鑽であるように感じられた。敵国のエースと同格であるという考えは自惚れにも感じ取れるかもしれんが、正直実力差など如何でもいいのだ。


今は只、コイツを倒す。その事にのみ集中すれば良い。


ブースターの瞬間的な噴射と重心移動による急激な機動を敢行し、遠心力の乗った大剣の一撃を薙ぎ払いによって放つ。流石に受けきれないと感じたのか跳躍による回避を行ったムールシュトは、空中で姿勢を制御しつつ此方へと反撃を仕掛けてくる。


一度薙ぎ払った大剣は勢いを抑えるのが難しい……ならばその勢いのまま振り切るのみだ。勢いを利用して急速回転し、機体を捻って剣の軌道を変える事で遠心力の増した袈裟斬りをお見舞いする。


遠心力によって発生した運動エネルギーはただでさえ重い大剣の一撃をより強力なものへと変え、ムールシュトの機体を左肩からバッサリと斬り捨てる。


しかしムールシュトは思いも寄らない挙動を取る。


袈裟斬りに対して回避行動を取るので無く、逆に前に突っ込んで来たのだ。流石に遠心力マシマシで振るった大剣をすぐに構え直すのは不可能で、ムールシュトの接近を許してしまった。


すぐさま右手を大剣から離し、ロングソードの横っ腹を拳で殴りつける事で直撃を回避、バックステップで距離を取りつつ体勢の立て直しを図る。


見るとムールシュトの機体は左肩から下が無く、大剣によって切り裂かれた胸部装甲はコックピットのハッチを露出させていた。


奴はこんな状態にも関わらず、此方へと突撃を仕掛けて来たのだ。


……狂ってやがる。


そう思わずにはいられなかった。


『今のは効いたぜぇ……やっぱ戦いはこうじゃなきゃな!』


「……元気な野郎だ。」


コックピット内部への衝撃も凄まじいだろうに、ケロッとしてやがる。


残った右手でロングソードを握り、此方へと向きなおるムールシュト。鋼の狂戦士(アイアンバーサーカー)の名は伊達じゃないようだ…。


ムールシュトが再び剣を振ろうとしたその時だった。


『さぁ続きと──ちっ、良いところだってのによ。』


オープン回線のまま、ムールシュトが愚痴を漏らす。つーかいい加減拡声器使えよ、なんでオープン回線で喋ってんだ。


ムールシュトは少し話した後、此方へと向き直ると、


『おいメルト、残念だがここ迄だ。オメェの仲間がやってくれやがったせいで、補給基地が壊滅しやがった……』


至極残念そうに、そう言った。


どうやら、ヘンリク達は無事作戦を成功させたようだ。


『勝負はお預けだ……いずれまた戦おうぜ!』


捨て台詞を残し、ムールシュトは去っていった。


同じ量産型アナライザーなのに、あの挙動はどう考えてもおかしいだろ……。


まぁともかく、敵のエースを退ける事には成功したのだ………とやかく言うまい。


「……ブラボー3よりブラボー1、敵エースの撤退を確認……逃げ足の早い野郎だった。」


『こちらブラボー1、無事でなによりだ。幸い、此方へ被害は出ていない……良くやった。』


英雄の中の英雄(エースオブエース)が出てきたとなりゃぁ、もうフランスは言い逃れできねぇナ…。』


『全くだ……まあいい、ブラボー3。此方へと合流し、敵部隊の掃討に復帰しろ。補給基地を潰した事で、前線の敵戦力も底が見えてきた。』


「ブラボー3、了解。」


大剣をウェポンハンガーへ預け、MG42を引っ張りだしつつ合流を図る。合流先では、当初よりも大幅に物量が減った敵部隊が確認できた。


レティクルを敵部隊の最前列に合わせ、引き金を引く。バレルジャケットに覆われた銃身を熱しながら、大口径の銃弾達がマズルフラッシュと共に躍り出る。


物量の底が見えた以上、彼等のアドバンテージは無いに等しいものに変わってしまった。兵の質も、機体の性能も、何一つ此方に勝る所がない彼等にとって、物量は最後の砦であった。


その砦が陥落した今、彼等に勝利という二文字は存在しなくなる。


あるのは死か、敗走のみである。






「さぁ来い……全員スクラップにしてやる。」











お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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