撤退戦
地を踏み締め、大剣を振るう。
振るわれた刃は鋼鉄をも切り裂き、物言わぬ鉄屑へと変えてゆく。
辺りに転がるフランス製アナライザーの残骸を踏み締めつつ、戦場を駆け回る。
もう既に旧型・新型合わせて100機以上のアナライザーをスクラップへと変えている。
流石に物量に余裕が無くなってきたのか、革命派の連中も戦力の大量投入を減らしているようだった。
しかし個の性能で劣る機体を小規模展開する愚策を取った為に、かえってより戦局を悪化させているというのは皮肉と言う他ないだろう。
消耗している今、仕掛ける好機にも見える。
だが、向こうが消耗しているように、こちらもまた消耗を強いられているのだ。
戦力の喪失は、無人兵器を除けば今の所無い。だがしかし、この兵器達を運用する兵士達には『疲労』が存在する。永遠に戦い続けるなど、人間には不可能なのだ。
現に俺やジャックもかなり消耗している。弾薬だけでなく、緊張の長期化による精神疲労が先程から見え隠れしているのだ。
敵の放つ銃弾を避けきれずフレームを掠めたり、残弾の把握が満足にできず弾切れによる隙が多くなったりと、細かな部分で疲労が滲み出ていた。
『はぁ…はぁ……おいメルト、まだ保ちそうか?』
「ふぅ…ふぅ……ふぅ…少し……キツイかもな…。」
『だよなァ……ここまでの連戦は、ちいとばかしキツイぜ……。』
銃撃による命中精度も徐々に悪化し始めている。このままでは行動不能になる可能性が極めて高い。
どうする……一度後退すべきか…?
『──アイギスより各員、これより無人アナライザー部隊を派遣します!現地入りと同時に、輸送機に搭乗し退却してください!』
『ククッ……ウチの戦団は最高だな…。限界を迎える前に休ませてくれるんだゼ?』
「同感だ……最高にホワイトな職場だよ。」
『んじゃま、もうひと頑張りしますかァ!!』
AKMのリロードを済ませ、コッキングレバーを引く。撤退までの耐久戦だ……気合を入れろ。
引き金を引き、徐々に距離を詰めてくる敵アナライザーの頭部とコックピットに銃弾のプレゼントをお見舞いする。後ろに弾かれた用に倒れるアナライザーを一瞥した後、直ぐに次の標的へとレティクルを合わせる。
戦車群にフルオート射撃で弾幕を張りつつ、上空に展開する戦闘ヘリに対し肩部のミサイルを掃射する。輸送機が到着するのに、その上空に敵の戦闘ヘリが待ち構えていましたなんて事になっては笑えないのだ。
対空機関砲さながらの大口径弾薬で撃墜された敵の戦闘ヘリが次々と落下し、大地にその残骸を散らす。幾ら小回りの効く戦闘ヘリでも、唐突に飛来した銃弾を避けきるのは至難の技なのだ。
『アイギスより各員、輸送機が降下地点上空に到達!付近の敵戦力の制圧を!』
……来たか!
やるべき事は一つ、敵を蹴散らすのみだ。
輸送機に攻撃を仕掛けられなければ良いのだから、別にトドメを刺す必要性はない。制圧出来ていればそれで良いのだ。
マガジンに残った弾薬をフルオートで全てぶっ放し、短時間ではあるが弾幕で敵を制圧する。一瞬とはいえ大口径の7.62×39mm<B>弾による制圧射撃だ……たとえアナライザーであろうと、足止めを食うに違いない。案の定足止めされた敵アナライザーを横目に、今しがた着陸した輸送機の側まで後退する。
大型輸送機『WEC-1-B』の開かれた後部ハッチからは、”フォートレス”でも正式採用されているアナライザーである『SA-36』が続々と大地に降り立っていた。『SA-36』は防衛部隊時代から運用されているバランスの良い汎用戦闘型アナライザーで、まだ専用機が配備されていないヴァネッサ、モーリス、ヴィンセント、アンジェ、トリシャが現役で運用している機体でもある。そして今現在輸送機の前に展開されている『SA-36』には樹脂人形が搭乗しており、彼らに戦線の維持を引き継ぐ形となるのだ。
1チーム4機の構成で整列した『SA-36』達が前方に展開する敵戦力に向かって移動を開始する。彼らの装備はアメリカ製アサルトライフルの『ストーナー63』に同じくアメリカ製のハンドガンである『スプリングフィールドXD』、そしてマチェット、シールド、肩部ミサイルといった所謂「標準装備」と呼ばれる装備である。完全武装の彼らならば、きっと戦線を維持してくれる筈だ。
ジャックと共に輸送機に乗り込み、アナライザーの脚部を固定器に接続する。これで移動中にアナライザーのでんぐり返りなんていうマヌケな事故は防げるという訳だ。モニター越しに窓の外を見ると、別の輸送機にヘンリク達が乗り込んでいるのが見えた。彼らも無事、撤収を開始したようだ。
輸送機が離陸し、次第に地面が遠く離れてゆくのを確認しつつ、コックピットのハッチを開く。外へと身を乗り出し、昇降用ワイヤーを掴んで下へと降りて行く。輸送機の床へと降り立つと、先にアナライザーから降りていたジャックがそこにいた。
「よっ、おつかれサン。」
「あぁ、おつかれ。」
唐突に、機内にアナウンスが鳴り響く。
『アイギスより各位に伝達、現時点をもって全輸送機が作戦領域を離脱、帰還ルートへと突入しました。皆さん、お疲れ様です。』
どうやら無事、全員が戦場から離脱できたようだ。
『各輸送機には備え付けのサプライボックスが設置されていますので、ご自由に利用していただいて大丈夫ですよ。』
機体内を見回してみると、機首に近い壁際に緑色のコンテナが設置されていた。ジャックと共にサプライボックスの中を確認してみると、飲料や軽食、菓子類といったある程度保存の効く食料品が色々と入っていた。
「いろいろあるな……」
「そーだナ。……なぁメルト……これ、なんだ?」
そう言いつつジャックは黒色の小袋を1つ取り出した。……まじでなんだこれ。
「縮……って書いてあるけど、それ以外の説明が一切ねぇな……。」
つーかなんだこのネーミング……。
「せっかくだしよ、せーので食わねぇか?」
「いいぜ……うわ、中身も黒いのかよ。」
中身は真っ黒なグミみたいな物体が入っていた。ここまで正体不明な食品も逆に珍しいだろ……。
「「……せーのっ」」
二人で同時に、黒い物体を口に含む。
「……うまくね?」
「あぁ……この見た目のクセしてめちゃくちゃウメェなコレ!?」
口に広がるベリーのような、柑橘のような、そこはかとなく果実を感じさせる不思議なグミ……のような何か。
分からんけど、うまい。
「うまいけど……何なんだろうなコレ?」
「聞いてみるか……ランス1よりアイギス、聞こえるカ?」
ジャックが壁にある通信機で戦団本部のトリシャに問い合わせる。
『──こちらアイギス、どうかしましたか?』
「いやな、サプライボックスの中にある黒い小袋の中身……あれは何なんダ?」
『黒い……?あぁ、縮のことですか。あれは技術部が息抜きに開発した濃縮果実グミですよ。』
濃縮果実グミ……あの黒い物体が?
『なんでも、色々な果物を混ぜつつ圧縮して作った結果、何故か真っ黒なグミが出来上がったのだとか。』
「息抜きに何やってんだ……。」
「全くだゼ。」
『あとで私も食べよっかな……っと、間もなく着陸地点ですね。お二人とも、ご準備を。』
「「了解」」
俺のアナライザー『デュランダル』も元へと戻り、昇降用ワイヤーでコックピットへと戻る。ハッチを締め、システムを起動しておく。これで着陸準備は完了だ。
『──マモナク着陸ヲ開始シマス。衝撃ニ注意ヲ。』
機械音声のアナウンスが鳴り響き、輸送機が滑走路へと減速しつつ向かっていく。少しの衝撃の後、地面を走るような振動が機体にも伝わり、一定距離を滑走した後制止する。すぐに牽引車が到着し、俺たちの乗る輸送機を牽引してガレージ前の広場へと移動する。
『──ハッチ開放、ハッチ開放』
固定器の接続を解除し、開け放たれた後部ハッチから広場へと降り立つ。そのまま歩みを進め、整備スタッフの誘導の通りにガレージ内にアナライザーを格納する。コックピットから降り、宿舎へとジャックと共に戻る。
宿舎のドアを開けると、ヘッドセットを着けたトリシャが出迎えてくれた。
「お二人共、おかえりなさい!」
「おう、帰ったゼ。」
「あぁ、ただいま。」
……なんか良いな、こういうの。
リビングの椅子に座り一息つく。もはや手癖のレベルでドリンクを注ぐジャックを横目に、共用の端末を操作して戦場の中継ドローンにアクセスする。
「樹脂人形部隊は……善戦してるみたいだな。」
画面には先程までいた戦場にて奮戦する、樹脂人形達の運用するアナライザー部隊が映っていた。敵も必死なのか、時折樹脂人形が搭乗する『SA-36』を撃破する事に成功しているが、上手い具合に致命傷を回避しているのか格納機構のタザナイト板を消費して再生を開始しているのが見て取れた。
敵からすりゃ絶望モノだろうな……再生すんのは。
そうこうしている内にヘンリク達もリビングへと入って来たので、全員での作戦会議が始まった。
「全員揃った事だし、作戦会議を始めようか。」
ヴァネッサが端末を操作しつつ、会議を進行する。
「全員分かってるとは思うが、奴さんの物量は異常だ。潰しても潰しても、後ろからドンドン湧いて来やがる……こりゃ複数の国家が絡んでるのは確定だね。」
フランス以外にも、か…。
「このまま持久戦をしてもいいが、まぁ此方の物量が底をつくだろうね……だからこそ、大元を押さえる必要性がある。」
立体映像がある地点を指し示す。そこにあるのは、戦場の遥か後方、敵戦力の物量を支える補給基地だ。
「部隊を2つに分けようと思う。片方は引き続き前線にて迎撃作戦を続行、そして一方でこの補給基地を叩くんだ。」
片方は戦線維持、もう片方は奇襲作戦という訳か……
「早速割り振るよ。……ヘンリク、アンタは奇襲班だ。速攻戦に於いて、アンタの右に出るものはいないからね。」
「ふむ、了解した…全力を尽くすとしよう。」
「ヴィンセント、アンタは前線の指揮を頼むよ。奇襲班の作戦成功まで、前線を持たせるんだ。」
「任せろ。」
「各班のリーダーはこの二人として……アンジェ、モーリス、そしてアタシを含めた3人はヘンリクの班…つまり奇襲班だよ。この面子で可能な限り迅速に敵の補給基地を潰すんだ。そいでもってジャックとメルト、アンタらはヴィンセントの班…まぁ前線組だよ。特にメルト……アンタは前線からは外せないのさ。」
……前線から外せない、というのはどういう事だろう?
「外せない、とは?」
「至極単純な話さ……この面子の中で、継戦能力が一番高いのがアンタなのさ。アナライザーの性能の面でも、戦闘スタイルの面でも、アンタは他対一の局面に於いて強力なカードになる。銃と近接武器を併用して前線で活躍出来る奴は同じ兵士でも滅多にいない…大抵はどっちかに偏るもんさね。」
簡単な話、オールラウンダーという訳か。
「銃という遠距離のアドバンテージを活かしつつ、その局面に合わせて近接戦に切り替えられるアンタは、奇襲よりも前線で力を奮っている方がピッタリなのさ………分かったかい?」
「あぁ、理解したよ。」
奇襲班の為にも、前線で暴れてくるとしよう。
……そういうのは得意だ。
「ならいいさね……さて、今回はコールサインも変更するから、よく聞いておきな。本作戦において、奇襲班は『αチーム』、前線班は『βチーム』とする。忘れるんじゃないよ!」
なら俺はブラボー3になるだろうな。
ヴィンセントがブラボー1、ジャックがブラボー2だろう。
「トリシャ、アンタはそのままアイギスで良い。オペレーションを頼んだよ。」
「はい、お任せください!」
「……ふむ、話は纏まったようだな。」
皆が一斉にヘンリクの方へ顔を向ける。
「本作戦は今後の戦局を決定付ける重要なものとなる。よって失敗は出来ないが……全員が生きて此処に戻って来ること、コレばかりは譲る事はできん。」
一息ついて、ヘンリクは言葉を紡ぐ。
「では行こう、私達の未来を守る為に…!」
この戦局を覆す、攻めの一手。
狙うは敵の補給基地……つまりは敵陣だ。
失敗すれば、明日は無い。
であるならば、成功させれば明日が来る。
「現時刻をもって、『ウォーピック作戦』を開始する!!!!!」
無理難題であろうと、ブチ砕くのみだ。




