航空母艦型多脚戦車
ビーッという警告音と共にハッチが展開される。
着陸した輸送機の後部ハッチが開かれ、次々とボディアーマーに身を包んだ兵士達が戦場の土を踏みしめる。
しかしよく見ると、彼等には単眼カメラが付いており、赤い光を放っていた。
樹脂人形部隊。
タザナイトによって生み出された再生能力を持つ兵士達。体内に格納されたタザナイト板を消費する事で擬似的な不死身を獲得した彼等が、戦場に降り立つ。
彼等には、初陣に対する恐れは存在しない。
意思など持たない、機械なのだから。
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レティクルの向こうで、敵のアナライザーの頭部が大穴を穿たれる。
革命派が軍の倉庫から横領もとい拝借したらしき旧型のアナライザーは、AKMの強烈なストッピングパワーの餌食となり、崩れ落ちていった。
すぐさま付近の敵アナライザーや戦車が反撃を開始するも、左腕から展開された拡張式複合装甲盾『アテナ』によって全て弾き飛ばされる。
流石に戦車砲クラスは表面に傷と凹みを生じさせているものの、敵アナライザーの持つ機関銃──ステン短機関銃みたいだなあれ──や自走対空砲の機関砲に対しては鉄壁を誇っていた。
脅威となる戦車をAKMのフルオート射撃で黙らせつつ、敵アナライザーの鳩尾付近を蹴り飛ばす。
よろめいたアナライザーの顔面と胸部に銃弾を叩き込み無力化させた後、次の目標へと銃口を向ける。
大口径の7.62mm弾を撃ち込みながら、マップに表示された敵戦力の推移を観察する。
最前線の戦力は粗方片付いたが、まだ後方に相当な数の戦力が控えている。継続戦闘が出来なくはないが、可能なら短期決戦で済ませたい所ではある。
『──アイギスより各員、敵アナライザーの接近を検知。機種は"騎兵型"である模様、警戒されたし。』
騎兵型……あの時、俺にランスチャージかましやがった奴の同型か…。
『メルト、次は腹ブチ抜かれんなヨ?』
「分かってるさ……同じ轍は踏まん。」
返り討ちにしてやるさ…。
『っと、奴さんのお出ましだ……行くぞメルト。』
「了解。」
前方の砂埃が徐々に近づき、騎兵型が此方へと突っ込んで来るのが確認出来る。どうやら、性懲りもなくランスチャージを敢行するようだ。
俺はAKMをウェポンハンガーへと預け、複合素材両手剣『エターナル』を引き抜いた。
両手で柄を持ち、刀身を右後ろへと下げつつ構える。
3、2、1───
「今っ!!!」
頭の中でカウントしつつ、刀身を振り払う。
右方向へと回避しつつ振り払われた大剣は、綺麗な斬線を描いて騎兵型の胴へと喰らいついた。
鉄よりも遥かに頑丈かつ切れ味の鋭いそれは騎兵型の装甲を意図も簡単に切り裂き、アナライザーをコックピット諸共上下に両断する。
搭乗者を失った騎兵型は機能を停止し、その場に崩れ落ちていった。
すかさず2機目の騎兵型が突っ込んで来るも、正面から飛来した1発の弾丸によってコックピットをブチ抜かれ、機能を停止した。
横ではジャックが対物ライフルの『ヴィーゲンリート』をリロードしており、先程の弾丸がジャックのものであると直ぐに理解できた。
左側面の騎兵型をジャックに任せ、俺は騎兵型へと勢いよく突っ込んだ。
大剣の尖先をアナライザーへ向け、ブースターと跳躍力の勢いによって突き出された刀身は、盾を構えて此方へと突っ込んで来る騎兵型を盾諸共貫いた。
機能停止を確認してすぐ大剣を引き抜き、次の敵に尖先を向ける。案の定此方へと円錐槍を向ける騎兵型が目に入り、俺は両手剣の横っ腹で円錐槍の側面を思い切り弾き飛ばす。
ランスチャージを仕掛ける以上、急停止は機体に負荷を掛ける行為である為推奨されておらず、そもそも勢いの乗ったアナライザーが急停止するなど不可能にも近い。
弾き飛ばされた円錐槍は明後日の方向を向き、俺の正面には無防備な騎兵型の胴体が晒されていた。
返す刃で肩口から袈裟斬りにし、コックピット諸共アナライザーを無力化する。
他の騎兵型はジャックが殲滅した様で、付近の騎兵型は全てスクラップへと変貌していた。
チュン、チュンと跳弾する様な音が聞こえた為そちらへと目を向けると、小銃を持った歩兵が手に持ったアサルトライフルで此方へと弾幕を張っていた。
大型の装甲兵器に対し、生身で立ち向かうその勇気には敬意を表するが……
「せめて対戦車ミサイルでも持って来るんだな。」
小銃の銃弾程度では、通らんよ。
左手に大剣を預け、右手でMP-443を引き抜く。
必死に弾幕を張り続ける歩兵達に向かって、俺はMP-443の引き金を引いた。
アナライザーに合わせて通常よりも大型化された拳銃弾は機関砲の砲弾の様で、歩兵など端から眼中に無かった。現に1発の拳銃弾が歩兵達を肉片へと変え、付近の土と共に血の雨を降らせる惨状を生み出した。
非人道的にも見えるだろうが、今は戦争中だ。
むしろ一瞬の苦しみで住んだ事に、感謝して欲しいくらいである。
「……恨むなら、戦争を始めた首謀者を恨めよ。」
MP-443をホルスターへ戻し、再び大剣を握り締める。付近に展開した敵戦力はかなり減っている。だが、まだ後方から続々と戦力が補充されている。
『キリがねぇナ…。』
「全くだ…。」
ボヤきつつ、大剣を構える。次々と突撃して来るアナライザーは、よく見ると先程とは違う機体である事が見て取れた。
『んー、ありゃあフランス製アナライザーだな…。』
ジャックの言う通り、あれはフランスで製造されたフランス製アナライザー『ノワールᎷ』だろう。しなやかなフォルムに取り付けられた装甲を含め全てが白塗りで塗装されており、所々に黄色いラインが描かれている。あの黄色いラインは『輸出仕様』を表し、自国で使われる『ノワール』には青いラインが入っている。
謎に面長な頭部を持ち、手にはエストックと盾を持つこの機体は、他の旧型アナライザーと比べると格段に動きが良く、それでいて素早かった。
両手剣の斬撃を回避しつつ、此方へとエストックの刺突を放って来る。装甲の薄い関節部を狙って来る事から、搭乗者の練度が高い事が伺える。
此方も負けじと大剣を振るい、華奢なエストックを思い切り圧し折る。得物を失ったアナライザーが盾を突き出して来るも、逆に死角となった脚部へと斬撃を叩き込まれ崩れ落ちてしまう。
頭部を無防備に晒したアナライザーに、俺は大剣を振り下ろした。
真っ直ぐ振り下ろされた刀身は装甲を切り裂き、コックピットのある胸部装甲ごとアナライザーを一刀両断する。
タッグを組んでいたと思しきもう1機の『ノワールᎷ』が此方にエストックによる刺突を放って来るが、側面から飛来した銃弾によって刀身を弾かれ剣が宙を舞った。
──ジャックによる援護射撃だ。
無防備となった『ノワールᎷ』へと大剣を振り払い、その華奢な胴体を切り飛ばす。搭乗者諸共切り裂かれたアナライザーは沈黙し、それ以降動く素振りは無かった。
その後幾度となく敵戦力に損害を与えたものの、物量が凄まじい為か戦線は膠着状態にあった。
斬っても斬っても出てくる敵を横目に、俺は通信機をオンにした。
「ランス2より"空母フォートレス"、応答せよ。」
『──こちら"フォートレス"、どうなされた?』
「航空支援を頼みたい……場所を転送した、確認してくれ。」
『ふむ……ここだな。よし、要請を受託した。少しだけ待たれよ。』
「頼んだ。」
程なくして、上空に無人航空機の飛来音が届いた。
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「航空隊、出撃準備!!」
大声を張り上げる彼は『アレク=スミス』提督。この航空母艦型多脚戦車"フォートレス"の提督である。
先程メルトとの通信をしていたのも彼であり、この艦の数少ない人間でもある。
ネームシップという事もあり大型化された艦橋にはCICが設置されており、彼はそこで航空母艦型の指揮を取っている。
航空母艦型には人間が指令部にのみ配置されており、それ以外は全て樹脂人形の作業員が配置されている。念の為各部署に1名程度人間の作業員は配置しているものの、この艦は殆どが樹脂人形で構成されているといっても過言ではない。
対空戦闘用の機銃も、この樹脂人形達が使用するようプログラムされており、人的資源の損失を限りなく少なくする方針が取られている。
もちろん、彼の他にも人間の乗組員はいる。
隣で艦の式を取る艦長『エドワード=ジョンソン』とは長年連れ添って来た相棒であり、休日には酒を飲み交わす友であった。
その為彼に任せておけば作戦は滞りなく遂行されるというのを、彼は知っている。
だからこそアレクは、こうして全体の指揮に専念出来るという訳だ。
「艦長、出撃準備完了しました!!」
「よし……第一次攻撃隊、発艦!!」
艦橋の窓を除けば、甲板に並んだ航空機達が次々と発艦していく様子が見えた。
あの航空機には人が乗っておらず、コックピットには機械のみが搭載されている。あの機械を通じて艦橋から指示を出し、目標の撃墜や爆撃を行うのである。
運用している航空機は防衛部隊でも運用されていた汎用戦闘機『PWS-37』であり、この機体は対空戦闘と対地戦闘の両方に対応できる汎用戦闘機として運用されている。
角ばったフォルムに黒塗りのボディ、ステルス性はそこそこに兵装の積載性能を向上させた攻撃向きの戦闘機であり、この機体の有用性から"フォートレス"、アメリカ軍、のどちらでも運用されている。
それを無人化したのが『PWS-37-OTM』であり、今しがた飛び去って行った機体なのである。
「頼んだぞ、命無き子供達よ。」
スキージャンプ甲板から飛び立って行く無人航空機達を、アレクは見つめるのであった。
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「……来たか。」
頭上に黒塗りの航空機が飛来する。
航空母艦型多脚戦車"フォートレス"から飛び立った無人航空機達だ。目標地点上空に到達すると同時に、通信が入る。
『──コチラ第一次攻撃隊、爆撃を開始スル。着弾マデオヨソ30秒、衝撃ニソナエヨ。』
無人航空機に搭載された機械が機械音声で通信を入れてくる。爆撃に来た航空機は合計20機、航空母艦型に搭載できる上限数だ。
さぁ、頼むぞ…!
『3、2、1──弾着、イマ。』
次の瞬間、大地が炸裂した。
無人航空機から投下された無誘導爆弾が着弾し、大地に大きなクレーターを生み出す。着弾の衝撃により土埃が舞う。無数の爆裂音と強烈な熱風が辺りを支配し、爆心地にいた敵アナライザーや戦車群を木っ端微塵に粉砕する。
土埃が消えた跡には、バラバラになった戦車やアナライザーの残骸が転がり、爆撃の火力の高さを物語っていた。
前線に展開していた敵戦力は壊滅的なダメージを受け、後方に展開していた後続の戦力も爆風や破片による被害を受けていた。
「ランス2より空母"フォートレス"、航空支援の効果絶大。繰り返す、航空支援の効果絶大。……感謝する。」
『こちら"フォートレス"、了解した。頑張れよ、坊主。』
「はは、どうも。」
"フォートレス"の提督であるアレクは、メルトと個人的な交流があった。きっかけは防衛部隊本部での会食であり、ヘンリクと共に上層部への挨拶をしに行った際に出会った。
謎にウマが合い、階級の垣根を超えて個人的な交流をするうちにかなり仲良くなり、最近では彼の自宅で夕食をご馳走にもなった。
彼の作るシチューは絶品であり、彼の友人の間では「元シェフなんじゃないか?」という噂が跡を絶たないんだとか。
しかしながら彼は根っからの軍人であり、料理人ではない。にも関わらず想像を絶する絶品料理を作るのだ。世の料理人が聞けば嫉妬で狂いかねない。
そんな彼からの小さな応援を受けつつ、メルトは大剣を構え直した。爆撃の被害を受けているとはいえ、後続の戦力にはまだ健在なアナライザーや戦車群が多く残っている。
大剣を握り締め、向かってくる『ノワールᎷ』に対して大剣を振るう。華奢なフレームを切り裂きつつ払い飛ばし、次の標的へと攻撃を仕掛ける。
数は多いが、性能はこちらが上だ。
幾らでも斬り伏せてやる。
そう思いつつ、俺は剣を振るうのだった。




