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朧火の意志  作者: 布都御魂
3/25

雇用関係

凄い間が空いてしまいました……

「ゴルドー!!大丈夫か!?!?」

付近の工作隊の隊員が俺に呼び掛けながら駆け付けてくる。


だが、今の俺にとって怪我なんてどうでも良かった。


弾痕が至る所に刻まれたアナライザーを見ながら、どこか感心したような表情でゴルドーは呟いた。


「坊主の奴……派手にやりやがるぜ。」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



アナライザーから降りた俺は、真っ先にゴルドーの下へ向かった。慣れないアナライザーの操作に少しばかり身体が悲鳴を上げているものの、なんとかゴルドーの下に辿り着く事は出来た。


「ゴルドー!!無事……みたいだな。」


ゴルドーは泥だらけだったが、幸い掠り傷程度で済んだ様だった。


「なんとかな……お前さんのお陰だよ、坊主。」


隊員の手を借りつつゴルドーは起き上がった。


「なぁ、坊主…。お前さん、ついさっき教えた範疇を通り越してなかったか?初めて乗る動きじゃ無かったぞ?」


真剣な眼差しで此方を見つめながら尋ねてくるゴルドーに対し、俺はすぐに答える事が出来なかった。


知らないはずのアナライザーをまるで手足の様に動かす技量。記憶を失う前の俺は軍人だったのか…?思考が掛け巡るが、答えには辿り着かない。


その思考を遮る形で、ゴルドーが言葉を続けた。


「おっと、なにも不審感を抱いてる訳じゃねぇぞ?単純に気になっただけだ。」


ゴルドーはニカッと笑いながらそう言った。どうやら不審感で始末される事はないようだ…。そうホッとしつつも、俺は時間が経った事により本調子に戻った声で言葉を紡ぐ。


「記憶を失う前が関係しているのかもしれないが、詳しくは俺も分からないんだ……すまない…ぃっ!?」


頭を下げ詳細を伝えられない事に謝罪の意を伝えたその時、唐突に背中を思い切り叩かれた。


見ると隊員の1人が俺の背中を叩いた様で、その隊員はそのまま俺に肩を組んできた。コイツは確か…アナライザーの格納庫に居た隊員の筈、だ。


「謝る必要なんてないぞ!!お前のお陰で皆助かってんだからな!!ハッハッハッ!!!」


豪快に笑う隊員──耳元で喧しいんだが──は満面の笑みで言葉を続ける。


「お前がどこのどいつかは知らねぇけどよ!!ゴルドーや俺達を庇ってくれた奴が、悪い奴には思えんよ!!だから頭上げろよ、な?」


「……ありがとう。」


隊員は俺から手を離し、そして隣に立った。


「なぁ、ゴルドー。コイツ、俺達の隊で雇わねぇか?」


一体何を言い出すんだコイツは…。と隊員の事を見ていると、ゴルドーも何やら神妙な面持ちで、


「確かに…ウチの防衛部隊は数が少ねぇしな…それに、雇うって案も良いかもしれねぇ。入隊じゃなく、傭兵としての雇用なら、経費で落ちるし本社への手続きも要らねぇ。」


暫しの思考の後、ゴルドーは此方を見つめながら、


「坊主、良ければなんだが……ウチで雇われてみねぇか?待遇は保証するぜ?」


返答には迷ったが、正直な話、メリットが大きかった。俺は記憶が無く、身元もハッキリしていない上に一文無しだ。雇われればその間の身分は保証されるし、生活費を稼げる。断る理由は無かった。


「迷惑を掛けるかもしれないが、よろしく頼む。」


「おうよ!よろしくな、坊主!!」


ゴルドーと握手を交わし、今この時から俺は、傭兵として雇用関係を構築する事となった。


「詳しい話は、拠点に戻って話そうぜ。」


そう言うゴルドーを追って、俺達は拠点へと帰還するのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



拠点に戻った俺達は、拠点中央の管制室──隊員達に指示を出す本部みたいなもんだ──の一室で対面で座り、雇用についての具体的な話を始めていた。


と言っても、複雑な手続きは必要無いらしく、簡単な契約書へのサインと、配属部隊の説明くらいだった。


「──説明はこんなもんだな。なんか質問はあるか?」


「いや、ひとまず大丈夫だ。」


どうやら俺は、護衛部隊の第一護衛部隊、アルファ隊に配属されるらしい。と言うのも、そもそもの部隊が小規模な為、護衛部隊がアルファ隊以外に無く──レイダーによる襲撃が少ないのが理由らしい──少しでも戦力を補充する為にこの配属となったそうだ。


アルファ隊の構成員は7名で、ここに俺を加えた計8名で周囲の哨戒やレイダーの迎撃を行う手筈になっている。


任務にはアナライザーを用いるそうで、ひとまず先程使ったQ-65を俺用に整備してくれるそうだ。


旧型ではあるものの改造の許可は貰っている為、後で廃材でも貰って改修するとしよう。


「これでよし。最後になるんだが──坊主は名前が不明になってるからな、さっきの説明中にも話したが、此処ではひとまず『メルト』って言う名で過ごしてくれ。仮名だが─割とカッコいいだろ?」


メルトか──悪くないな。響きも良い。


「了解した。改めて、メルトとして宜しく頼む。」


「おう!宜しく頼むな!!──んじゃ、1階の部隊宿舎に向かってくれ。話は通してある。」


「分かった。─それじゃ、また。」


俺は席を立ち、1階にある護衛部隊の待機する宿舎へと足を運んだ。1階にあるのは、緊急出動を行い易くする為らしい。単純だが理に適ってるな。


1階に続く階段を降り、護衛宿舎と書いてある扉をノックする。すると中から若い男の声が聞こえ、扉が開いた。


「お、君が例の新人だね?さ、中に入り給えよ。」


出迎えてくれたのは背の高い青年だった。20代後半だろうか…?なんにせよ、若いな。


「失礼します。」


出迎えてくれた隊員を追って俺も中に入る。宿舎はそこそこ広く、ソファや本棚、奥にはキッチンもある。


「今日から君が過ごす宿舎だ。慣れないだろうが、くつろいでくれ給えよ。」


妙に丁寧な言葉遣いだが、気遣ってくれているようだ。


「おっと、紹介がまだだったね──私の名はヘンリク。元は貴族の出だが、実家に嫌気がさして此処に来た訳さ。此処では隊長を務めているよ。以後宜しく頼む。」


どうやら隊長だったようだ…。隊長直々の出迎えとはな……。


「今日から此処に配属になったメルトです。これから宜しくお願いします。」


念の為敬語で挨拶をすると、ヘンリクは微笑みながら


「此処では敬語は不要だよ、メルト君。私の言葉遣いは癖だからどうしようも無いのだが──とにかく、此処では無理に敬語を使う必要はないよ。」


規則が割と緩いのかもしれないが、その方が正直助かるな…。


「分かった……それで、ひとまず俺はどうすればいい?」


「ふむ……まだ他の隊員は哨戒任務に出ているからね……ひとまず、私が宿舎を案内しよう。」


そう言うと、ヘンリクは俺達の居る場所は指差しながら、


「ここがリビング兼共有スペース。隊員には一人一つ部屋が割り当てられるが、作戦会議なんかは此処で行う事になっているな。とはいえ、普段は普通のリビングとして自由に使って貰って構わないよ。」


「あと、キッチンも自由に使ってくれて構わない。しいて言うなら、共用の冷蔵庫を使う時は名前を書いておくといい。」


共用の為か、冷蔵庫自体はかなり大きい。一般的な冷蔵庫の1.5倍くらいだろうか…。


「さて、次はこっちだ。ついて来たまえ。」


ヘンリクについて行くと、そこはシャワールームのようだった。


「ここがシャワールームだ。2つあるから、空いている方を使うといい。隣には洗濯機があるから、洗濯物はここで洗ってくれ給え。」


ふと物干し竿の洗濯物を見ると、雑に干された洗濯物の中にいくつか、丁寧に干された女性物の服が干してあった。と言うことはここには女性隊員もいるのか…シャワールームに入る時は気を付けるとしよう。


「トイレその角の個室に男女別にある。あとは……個室か。よし、こっちだ。」


そう言うとヘンリクはリビングに戻り、別の扉から個室に繋がる通路へと足を踏み入れた。


「ここが個室エリア。私の部屋はこの右の1号室だ。君の部屋は予備として用意されていた8号室だ。まだ物は余り無いが、これから揃えていくといい。」


そう言って案内された部屋は、ベッドとクローゼット、個人用の小さい冷蔵庫がおいてあるだけのシンプルな部屋だ。


というか、個人用の冷蔵庫もあるのか…。


「家具は後程カタログを持って来るから、発注を行うとしよう。……なんなら近くの商業区で買ってもいい。経費で落ちるから、好きな物を選ぶといい。」


商業区とは多様な物が売っているエリアの事で、任務で足りない物や生活雑貨、レコードや家電といった物まで購入できる場所だ。


しかし経費で落ちるとは、随分と好待遇なものだ。その分、任務を真面目に取り組むとしよう…。


「ふむ、案内はこんな所だな。──隊員が帰って来るまで時間がある、部屋で過ごしても構わないし、商業区に行ってもいいぞ。一応、5時には戻って来てくれ給え。」


今は正午過ぎか……。時間もあるし、商業区に行くとしよう。


「商業区に行ってくるよ。必要な物でも見てくるさ。」


そう言うとヘンリクは小さな袋とカードを手渡して、


「この中に少しだがお金を入れてある。私からのちょっとした餞別だ、自由に使ってくれ。そしてそのカードは、ウチの隊員が使える経費カードだ。家具なんかを買うときはそっちを使うといい。」


随分と優しい隊長だな……。小遣いまでくれるとは。

中には金色に光るコインが数枚と銀色のコインがそこそこ入っている。


記憶は無くとも、この世界の貨幣については知識として残っている。この世界の通貨の単位は(ズール)といい、この金貨が1000Ꮓ、銀貨が100Ꮓ、今は無いが、銅貨が10Ꮓ、鉄貨が1Ꮓといった具合だ。


袋の中には金貨が5枚と銀貨が20枚……つまり7000Ꮓが入っている。


この世界のパン一つの相場が銅貨1枚なのを考えると、結構な大金だ。これをポンと出すとは、随分と太っ腹な隊長だ。


「ありがとう、大切に使わせて貰う。」


俺はそう言うとヘンリクと別れ、宿舎をでて商業区へと足を運ぶのであった。




読んで頂きありがとうございますm(_ _)m

更新が空いて申し訳ありません。

作者自身、執筆する時間が取れず、仕方なく少しづつ

案だけを箇条書きでメモするだけの日々でした。

次話の更新も何時になるかは未定ですが、

本作を少しでも読んで頂いた読者の皆様には、

気長に待って頂けると幸いです。   布都御魂

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