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朧火の意志  作者: 布都御魂
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戦団



「暑っつ………」


額から垂れた汗を拭い、荷物の運搬作業を再開する。


ここ異空間にも四季はあり、その季節によって気温や湿度、植生なんかが変化していくのだ。


しかしながら繋がっている国と同じ四季、とはいかず、アメリカであるにも関わらず年中極寒だったり、逆に気温が一切変わらなかったりと、異空間ごとにその性質はバラバラである。


ここエリア021は、比較的温暖かつ安定はしているのだが……如何せん夏がクッソ暑い。朝方見たニュースでは気象予報士が気温が35℃を超えるだろうとの予報を示していた。


暑いのには多少慣れているが……だとしてもしんどい事には変わりない。


「よっこらせっ……と。」


手に持った物資の入った木箱を倉庫にしまい、息をつく。


俺達防衛部隊は先日の大統領令を以て独立し、機甲傭兵戦団"フォートレス"として活動を開始した。


防衛部隊では無くなったものの、拠点はそのままだ。強いて言うなら施設の名前が防衛部隊拠点でなく戦団の名を冠した"装甲要塞フォートレス"へと変わったくらいだ。


とはいえ独立した戦団となり独自の拠点を持つ以上、一定の兵站維持能力と工業生産力が必要となる。工業生産力は割と何とかなっているが、兵站維持能力はこれまで以上に必要となってくる。


しかしここで、最強の助っ人が現れた。


───商業区の住民だ。


彼等と防衛部隊改め"フォートレス"の関係性は深く、このエリア021が開拓され始めた当初から、お互いに親密な関係性を維持していた。


防衛部隊が住民達を外敵から守り、商業区の住民が生業とする各種商工業で防衛部隊の生活を支える。


この関係性が独立した程度で崩れ去る訳もなく、むしろ『自分達が支えたらぁ!』と息巻く程にやる気が漲っていた。あまりのやる気に戸惑っている内に、彼等によって立派な城壁が1週間で建築されたのは記憶にも新しい。


気づけば建っていた城壁の上で、夕日をバックに背中を魅せる土木工事の専門家達はなんともいえない輝きがあった。……映画になりそうだ。


1週間という全世界の建築家達が度肝を抜かれる工期の短さは、彼等一人一人の特異性が原因であった。


命綱無しで高所の溶接を物凄いスピードで進める若者もいれば、分厚い鉄板を軽々と持ち上げるか細いご老人もいる。見張り用の櫓も建築されており、目視での確認もできるように大型双眼鏡まで設置されている。


正直訳の分からない話ではあるが、彼等曰く手抜きだけは一切行っていないとの事なのでそこはまぁ安心だろう。


また歩いて5分も掛からない場所に商業区は存在する為、防衛上の観点から元防衛部隊拠点と商業区を城壁で繋ぎ、一つの大型要塞にするという計画も進められている。というかほぼ終わってる……早くね?


老齢の大工に話を聞いてみれば、「今までやる事が無かったから、今が楽しくて仕方ない。若返るぜぇ。」とやたらダンディな顔つきで話していた。


まあ、楽しそうだからいいか……


ともかく彼等の協力によって要塞建築は進められ、俺達は出来上がった倉庫に、商業区地下で生産された農作物や畜産物、その他物資を運び入れる作業を手伝っていた。


この農作物や畜産物は商業区地下にある生産エリアで作られたもので、やたらデカイ白菜やカボチャ、そして程よくサシが入った牛肉などが主な品目となる。他の農作物や畜産物も作られてはいるが、メインは先程の3品目だ。


今まではあまり気にしていなかったが、商業区の生産能力は異常だ。現時点での在庫だけでも、贅沢をしなければこのフォートレスに住む住民(俺達も含む)が半年は生活出来る物資がある。しかもまだまだ生産されているのだから、物資だけはアホみたいにある。


軍需工業も活発化しており、元々駐屯部隊に兵器を供給していた工場を拡大し、アナライザーを並べて30機は製造できる程の大工場に成長した。


流石にまだ生産ラインは未完成なものの、現時点で工場自体が完成している事に関しては、もはや誰も触れていない……というか触れてる場合じゃない。


目覚ましい発展を地盤として見据える先は世界大戦だ。あまり無理はさせたくないのだが、この急速な発展は結果的に彼等を守る事にも繋がる…。申し訳ないが、力を借りるしかない。


そんなこんなを振り返りつつ水分補給を済ませ、荷物の運搬作業に取り掛かる。次は…ジャガイモか。


やたらめったら重たい箱を台車に載せて運んでいく。足腰が悲鳴を上げそうだが、一応訓練を受けている身ではあるので耐えられる。


………俺と同じ量の木箱を、凄まじい速度で運び続けるオバちゃんが通り過ぎたのは、暑さが見せた幻ということにしておこう……幻、だと思いたい。


結局作業の大半は、あのオバちゃん一人が成し遂げていった…。


どこの世界でも、オバちゃんは恐ろしい……。


頼もしいけども。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


午前の運搬作業を終え、俺はガレージへとやって来ていた。ガレージの中にはモーリスがおり、なにやらプラスチック製のマネキンの前で端末を操作している。


「モーリス、何やってんだ?」


モーリスが此方に気づき、ニヤッと笑みを浮かべる。


「おうメルト!見てみろよ、コイツを!!傑作だぜ?」


傑作……?


プラスチック製のマネキンにしか見えないそれが傑作とはどういう事なのだろうかと、モーリスに聞き出そうとしたその時──マネキンが動いた。


「!?」


「ハハハハ!!びっくりしたか!?……こいつは『樹脂人形(ドール)』、人的資源の保護と新しい兵器素材アプローチとして製造された傑作だぜ!」


モーリスによると、この樹脂人形(ドール)はプラスチックにアンプルの材料であるタザニアの抽出液を混ぜた新素材『タザナイト』を用いて作られた新型の自立人形らしい。


これまでも自立型の機械人形は作られてきたが、素材が鉄やカーボン、通常のプラスチックとどれもかなりの重量となる素材ばかりであった。


しかしこのタザナイトを用いた機械人形は軽く、それでいて頑丈でありながらも、これまでの素材になかった『再生能力』を兼ね備えている優れものであった。


内臓を必要としない変わりに腹部にタザナイト格納機構を備えており、被弾したりしてパーツが欠損した際に格納機構に搭載されたタザナイトの板を消費して再生能力を得る仕組みとなっている。


また流石に稼働部や細かな部分には金属が使われているものの、パーツの殆どをタザナイトで組み上げている為、総重量は人間より少し軽い50kgくらいだ。


その為この樹脂人形(ドール)は水に入っても急激に沈む事は無く、人間同様泳ぐ事が可能となっている他、タザナイトの腐蝕や錆に強い性質をフル活用できるという利点も、この樹脂人形(ドール)が優れている事を証明する要素となっている。


「コイツはプラスチックの癖に頑丈でな、少なくとも7.62mm弾じゃ貫通出来ねぇレベルだ。12.7mmクラスになりゃあ怪しいが……まあ、生身の人間よりかは損害が少ないだろうよ。」


今の列強国が採用する弾薬は5.56mm弾が主流であり、各国の兵士がコイツを相手にするにはロシア製の『KPV』重機関銃のような大口径の火器を用いるか、対戦車ミサイルのような端から人間に撃ち込む事を想定していない対戦車兵器をぶち込むしかない。


「報告書にチラッと記載があったが、革命派の連中が使ってるライフルは新しいモデルのやつでもドイツ製アサルトライフルの『G3』が精々で、他は古臭い半自動小銃やら急造品の短機関銃ばっかりらしい。」


「そいつは……随分と貧相な装備になりそうだな…。」


一応、昔のドイツ兵が使っていたパンツァーファウストや対戦車ライフルくらいはあるらしいが、革命派の連中がそれを対戦車戦に割くか樹脂人形(ドール)戦に割くかは見ものだな。


「ともかく、コイツは戦力の補充に加え、人的資源の節約にも繋がる優秀な奴だ。特に、俺達みたいな発足したての戦団にはうってつけの兵力となる。」


兵器は壊れても資源さえあれば幾らでも増産できる。だが、人間は一度死ねば替えが効かず、もう元には戻らない。人間を資源と見るのは世界の人権団体から敵視されそうな発言だろうが、今は戦争中なのだ。それに、その大切な大切な人間の損失を抑えようとしているのだから、むしろ拍手喝采ものである。


「そういや、こいつ等の武器はどうすんだ?」


「コイツらにはボディアーマーやらを着せて各種銃火器を携行させるか、最低限の装備にして戦車やら戦闘機やらに乗せる案が出てる。持たせるのは兎に角頑丈かつ動作不良が限りなく少ないAKシリーズが良いだろうな。」


AKか、そりゃあいい。


俺はAKが好きだ。何時でも何処でも、確実に動いてくれるAKは戦場のお供だ。泥まみれになろうが、雪に埋めようが撃てるのは、絶大なアドバンテージと言えるだろう。


戦場のど真ん中で動作不良で撃てないなんざ、たまったもんじゃない。


極端に複雑な動作ができない樹脂人形(ドール)達には、うってつけの銃となるだろう。


「あとは人間以上の腕力を活かしてクッソ重い対戦車兵器だったり、なんだったらピストルグリップ付けた車載機関銃を持たせてもいい。活用の方法は色々だ。」


「ちなみに、コイツはどれくらい用意できるんだ?」


「まだ生産ラインが完全じゃないから何とも言えんが……現時点だと、1日に10体程の計算になるか?まあ、生産ラインが完全稼働すりゃあ、もっと製造できるだろうよ。」


そのペースなら、近い内にある程度の戦力は確保できるだろう。生産を続けて、一定数をフォートレスの防衛に回すというのもアリだ。


「そいつはいい……そういや、俺がこの前使った多脚戦車、あれどうなった?」


俺が先日の作戦で運用した多脚戦車。俺が試験運用したデータを用いて最適化し、それを元に量産化に踏み切る予定だったらしいが…。


「あぁ、あれならとっくに量産が始まってるぞ。基本的な兵装は152mm榴弾砲と重機関銃、あとはドローン発射装置だな。他のはミサイルだったり、対空機関砲だったり……あと、前に運用した陸上空母を、コイツでやろうって話も出てる。」


前回の戦場では結局使われなかった箱型の搭載物。あれは、戦場でのドローン展開を目的としたドローン発射器となっている。このドローンは偵察用であり武装は搭載されていないものの、光学迷彩を搭載したステルスモデルとなっているので問題はないのだ。


前回は目標地点を隊員の皆が送信してくれていたのもあり、必要は無かった。まあ、仕方ない……。


「そっかぁ……って、陸上空母?え、あれ増産すんの??」


「前線で航空機展開出来りゃ強いんじゃね?ってヴァネッサが言うもんだから……まぁ、確かに?って。」


納得すんのかい……。


俺も納得したけども。


「今のところ、1機辺り20機程度の運用を想定してる感じだな…。」


「しかもそれを増産と……戦場の主役が変わっちまうな…。」


まぁ人が死なないならば、それも良いのかもしれない。


いつの日か、人が戦場から消える日を……いや、そもそも戦争が起こらない時代がくればいいのだが。


きっと、あり得ないのだろうが…。


「ちょうどいい、陸上空母仕様見に行くか?」


「──あぁ、せっかくだしな。」



戦場では、必ず人が死ぬ。



いずれ、このメンバーの中に戦死者が出てもおかしくはないのだ。



こうして皆と過ごせる時間が、少しでも長く続くといいな…。



「おーい、早く行くぞーー!!」


先を歩くモーリスが呼んでいる。



……守ろう。



大切な、人達を。












「───あぁ、今行く!」









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