後方支援
「しっかしまぁ、派手に壊したもんだなぁ……」
無事に輸送機で拠点へと帰ってきた俺は、ガレージで整備員に呆れられていた。
俺のアナライザー『SB-1』は胴体に大穴が空いており、さらに無理をしたせいか脚部や腕部など至る所のフレームに亀裂が入ってしまっていた。
「敵の新型機から、ランスチャージを受けまして……」
「………お前さん、早死にしそうじゃのう……。」
憐れまれてしまった…。
「お、坊主じゃねぇか!帰ってきて………なんだこりゃあ」
整備員の一人、ランドルフさんがガレージの奥から出て来るや否や俺の機体を見て呆れていた。
なんか、すんません…。
「なんでも、敵さんのランスチャージをその身で受けたらしいんじゃよ。」
「はぁ?ランスチャージってお前ぇ、重装甲シールドじゃねぇと防ぐなんざ無理だぜ?つってもまあ、貫通したとは言え、背部ユニットには届いてねぇみてぇだし、コイツにゃまだ改良の余地があんな。」
今の会話一つでSB-1の装甲の特性を見抜くのは、熟練整備員のランドルフさんだからこその見識眼と言えるだろう。
「ひとまず、コイツの整備が終わるまでは、アナライザーでの出撃はお預けだぜ?土手っ腹に穴が空いてちゃあ、流石に時間が掛かるってもんだ。」
仕方ない、ほんの少しの辛抱だ。
そんな事を考えていると、突如としてガレージ内に警報が鳴り響いた。
『防衛部隊各員に緊急通達!エリア020国境付近にて、革命派の侵攻を確認!至急、ブリーフィングルームへ集合せよ!繰り返す!ブリーフィングルームへ集合せよ!!』
……性懲りもなく攻めてきやがったか、共産主義者共め。
「ランドルフさん、俺はこれにて。」
「おうよ、行ってこい!!」
ランドルフと別れ、ガレージを後にしてリビングルーム兼ブリーフィングルームに駆け込む。
同時刻に入って来たモーリスと共に席に座り、ブリーフィングの開始を待つ。
「よし、そろったね!早速だけど本題に入るよ……」
ヴァネッサが端末を操作しつつ作戦を説明し始める。
「つい先程、駐留する国境警備隊が侵攻を開始する革命派の連中を補足、迎撃を開始した。戦力は通常戦力のみだって話だし、攻めて来たのは小規模部隊のみとの報告だから大丈夫かと思ってたんだが……どうもきな臭い。」
「きな臭い…とは?」
「展開中の戦力が、少なすぎるのさ。」
投影された敵戦力を見てみると、数両のテクニカルと3両の戦車、そして歩兵の小規模戦力が表示されていた。
攻勢を行う以上、一定以上の戦力を運用しなければ返り討ちに合うのが関の山だ。にもかかわらず、小規模戦力のみで正面突破を行おうという革命派の行動は、確かにきな臭いものであった。
「…………陽動か。」
「それで間違いないだろうねぇ……大方、そっちに戦力を割いている間に、側面からの奇襲でもして食いやぶろうっていう算段なんだろうさ。ま、させないけどね。」
だとすれば、俺達の任務はその奇襲部隊の迎撃か…。
「分かってるとは思うけど、アタシ達はこの奇襲部隊の迎撃を敢行する。戦力が不明な以上、アナライザーでの出撃になるが……メルト、アンタはどうする?」
俺の機体は先程のガレージでの会話の通り大破してしまっている。とてもじゃないが、腹に穴が空いた状態で出撃するのは自殺行為と言っても過言ではない。
ちなみに怪我はとっくに完治している。この異空間でとれる資源の一つ、『タザニア』という原生植物から精製される怪我等の外傷の治癒に特化した薬剤、通称『アンプル』によって、肩の傷が治癒というか再生する形で完治している。……ちょい怖かった。
なんでも、タザニアの成分が再生に必要な消費要素を肩代わりしてくれるらしく、それによって寿命等のリスクを負わずに再生効果を受けられる為、異空間が発生してからの傷痍軍人の数は大幅に激減したといっても過言ではない。
ちなみに病気には効果がないものの、臓器の再生には使用できる為、病巣付近を思い切って切除し、アンプルを投与して急速再生させるという、なんとも狂気的かつ効果的な治療も確立されている。
タザニアの名前の由来は映画とかで偶に見るターザンロープのように木の上からぶら下がる蔦植物である事から名付けられたらしい。
ともかく、そんな不思議植物のおかげで俺は完治している訳なんだが、機体が無いのはどうしようもない。
どうしたものか………。
「そんなメルトに提案があるぜ!!」
唐突にモーリスが声をあげる。提案…?
「技術部との共同製作してたヤツがついに完成してよ!!そいつの試験運用、やってみねぇか?」
貸してくれ、とモーリスがヴァネッサに端末を借り、投影装置でとある機体を映し出す。
「俺と技術部の傑作!汎用多脚戦車『MFT-120-A』だ!!!」
映し出されていたのは4本の脚が胴体を支え、上部からは長大な戦車砲が伸び、側面部からはシールド付きの機関銃が1丁づつ搭載された多脚戦車であった。
「こいつはより高機動での砲撃と高低差の無視によるより有効な支援を目的とする多脚戦車だ。今は初期案として120mm砲を搭載してるが、装備の換装によってミサイルでも榴弾砲でも、やろうと思えはピースフルミサイルだって搭載できる。ま、汎用の名は伊達じゃ無いってことだ。」
組み合わせ次第でどうとでも化けるって訳か。
「メルト、お前ぇは完治したとはいえ病み上がりだ。だから今回は支援に徹しろ。武装の換装をして、ミサイルと榴弾砲を搭載すりゃあ、お前一人で擬似的な支援要請が受託出来るようになる。どうだ?」
「皆の役に立てるなら、やらせてもらう。」
留守番はごめんだからな…。
「なら、それで行こうじゃないか。念の為無人アナライザーを数機、護衛に着けさせる。いいね?」
「了解、感謝する。」
「よし、では作戦の説明に戻るよ!ジャック、アンタはヴィンセントの班に一時的に参加しな!後は前回同様、ペアでの迎撃に当たりな!メルトは作戦領域の高台にて待機!支援要請があればそれを受託しな!!」
「「「「「「「了解!!!」」」」」」」
「よし!!ひとの家に土足で入り込むようなクソ野郎共を、鉛球で歓迎してやろうじゃないか!!!」
来れるもんなら来てみろ、共産主義者共め…!
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「オーライ!オーライ!よし、そこで止めてくれ!!」
ガレージにて、俺が乗る『MFT-120-A』に武装が搭載されていく。
今回の作戦において、俺は後方支援を担当する。よって使用する武装も、支援に即した武装を運用する事になる。
まず主軸となる武装はソ連で使用されていた『2A65 152mm榴弾砲』を改造し、自動装填装置を取り付けた状態で機体上部に取り付けたものだ。これにより装填に人員を割く必要性が無くなり、俺一人でも運用が出来るようになった。そして榴弾砲の両サイド、砲塔と同じ角度で1基づつ搭載されているのが、防衛部隊謹製対戦車ミサイルの『グッドラック』を4発搭載したミサイルポッドである。このミサイルには撃ち放し方式を採用している為、ロックオンした対象に向かって放てば後は勝手に飛んで行ってくれる優れものとなっている。
それ以外の武装として、機体後部に取り付けられている箱状の投射機と、万が一敵に接近された際の対応策としてソ連製機関銃の『PKPペチェネグ』をシールドを取り付けた状態で機体正面に取り付けてある。尚、機関銃に関しては遠隔操作方式の為、わざわざ外に身体を露出させる必要性はない。
ちなみに箱状の投射機の中身は内緒だ。コイツが必要性になるのは、もう少し後になるだろう。
そうこうしている内に準備が整ったようで、ガレージの扉が開き輸送ヘリの待つヘリポートまで台車に乗せられた状態で牽引車によって牽引されて行く。
輸送ヘリの下部からぶら下がる金属ワイヤーが機体に固定され、牽引車が離れたのを確認してから輸送ヘリが離陸を開始する。
今回、俺は別行動だ。その為こうして別の輸送ヘリにて移動する手筈となっている。
支援任務は初となるが、皆の矛として従事するとしよう。
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「『パルチザン』よりアイギス、位置に着いた。」
『こちらアイギス、了解です。別命あるまで待機をお願いします。』
「了解。」
本作戦においての俺のコールサインは『パルチザン』となる。他の仲間達とは別行動になるから、コールサインの後ろに数字は必要ない。
少しして、ヘンリクから通信が入ってきた。
『サーベル1より各位、革命派の戦車部隊及びアナライザーを確認、戦闘開始!』
どうやら、敵戦力との戦闘が始まったようだ。少し離れた位置の此処にも、銃声や砲声が響いてくる。
マップを確認すると、敵の戦車やアナライザーが赤い点でおり、その数は陽動の部隊よりも遥かに多かった。やはり、側面部からの奇襲を目論んでいたのだろう。
数が多い分、殲滅に時間が掛かる。そろそろ火力支援の準備を開始しよう。
多脚戦車の車高を下げつつ、脚部を砲撃仕様に切り替え地面に固定する。アンカーを撃ち込み、砲撃の反動で機体がズレるのを防ぐ為だ。
またコンソールを操作し、榴弾砲の仰角を上げておく。砲撃予測地点を仮入力し、支援要請がくればその誤差を修正するだけで良いように調整しておく。これで要請が届き次第、迅速に支援砲撃を行える筈だ。
そしてそんな準備を見計らったかのように、通信が入ってくる。
『サーベル1よりパルチザンへ、敵の数が多い、支援砲撃を要請する。座標は送信しておいた、思い切り吹っ飛ばしてくれたまえ。』
「支援要請を受託、これより支援砲撃を開始する。付近の部隊は巻き込まれぬよう注意されたし。」
送られてきた座標を入力し、砲撃地点の誤差を修正する。砲身が静止したのを確認してから、秒読みに入る。
「5、4、3、2、1───砲撃開始!!」
凄まじい砲声と共に榴弾が空へと飛び立つ。この榴弾が、敵を薙ぎ払う事を祈りつつ、少ししてから通信を入れる。
「着弾まで残り30秒、付近の部隊は衝撃に注意せよ。────着弾まで、5、4、3、2、1──弾着、今。」
直後、爆音が仲間達のいる戦場から鳴り響き、空には黒い煙が立ち昇っていた。
この榴弾は防衛部隊の独自製作となっており、通常の榴弾に比べて1.7倍の火力を誇る強力な代物となっている。若干過剰な気もするが、それで敵を吹っ飛ばせるなら問題はないだろう。
『メイス1よりパルチザン、支援砲撃の効果甚大、支援感謝する。』
メイス1であるヴィンセントから通信が入った。マップを見てみると、約2割程の戦車部隊が今の榴弾で吹き飛んだようだ。
少なくとも侵攻してくる先頭の車両群は潰した。
敵の勢いを削げば、そこに生まれるのは戦況把握という名の混乱と停滞だ。
ここからは、ヘンリク達の独壇場だ。
足の止まった戦車など、アナライザーの敵では無い。
マップ越しに戦況を眺めつつ、次の支援に向けて準備を進めておくとしよう。
そう思いつつ、サプライボックスから取り出した飴を口に放り込むのだった。
多脚戦車って良いよね……




