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朧火の意志  作者: 布都御魂
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戦線維持


「出撃準備急げ!!モタモタすんな!!!」


ガレージの中に怒号が飛び交い、整備員が慌ただしく準備を進めていく。クレーンやアームが忙しなく動き、様々な武装がアナライザーの各部へ取り付けられていく。


俺のアナライザーを見てみると、いつもの武装に加えて新しい武装が搭載されていた。まずメインとなる武装はレイダー撃滅戦の時にも運用したAKM&ブレードメイス。サブウェポンもいつも通りのMP-443を搭載し、そして肩部のミサイルポッドで通常装備となる。


だがそれらの装備と比べるとかなりゴツい、大型の銃がそこにはあった。ソ連製重機関銃である『NSV重機関銃』だ。第二次世界大戦後にソビエトが開発した強力な重機関銃で、使用する弾薬は対物ライフルにも用いられる12.7✕108mm弾を採用しており、大口径の弾薬をばら撒く非常に獰猛な重機関銃となっている。


勿論アナライザー用に大型化されるものの、たとえ通常規格の本銃を運用したとしても、生身の人間にとっては十分に脅威となるだろう。というかオーバーキルである。


この獰猛な殺戮兵器にピストルグリップを取り付け、バックストックとキャリングハンドルを取り付けた物が今回俺が運用する重機関銃となる。


弾薬はベルトリンク方式の為リロードに時間を要するものの、整備員達が魔改造した事により機体背部にベルトリンクを繋げ、そこから給弾するという方式を確立、結果として合計600発ものの弾薬をアナライザーに搭載することに成功した。


だがそもそも弾薬を撃ち切ればそのままパージするので、リロードの事は特に考える必要は無かったりする。


あとは普段ならブレードメイスを運用する上で邪魔になるシールドを装備する事にしている。とはいえ邪魔になる事は代わり無いため、背面部左から伸びるフレキシブルアームにシールドを装着し、必要に応じて機体前面に展開する方式を採用した。


そうこうしている内に準備が整ったようで、俺は整備員達にお礼を言いつつガレージの外へと歩みを進めた。ガレージの外には、今回の機体輸送を担当する大型輸送機である防衛部隊謹製『WEC-1-B』が機体後方のハッチを展開した状態で待機していた。


『WEC-1-B』は防衛部隊で正式採用されている輸送機で、6基のジェットエンジンと大型の格納庫を持ち、それでいて巡航速度が750km/hと高い水準で保持している。さらには多少手狭になるとは言え、アナライザーを計8機格納できる程の容量を持つ為、輸送機としてはこれ以上ない程優秀な機体と言える。


欠点として輸送機自体の武装が上部の対空機銃しか無い為、運用に護衛機が必要になるといった点がある。今回の輸送には無人機を護衛として配置する為、その辺は抜かりない。


機体に搭乗したまま輸送機に乗り込み、固定装置の上で静止、装置が脚部を固定したのを確認してから機体のシステムをスリープ状態に移行させた。こうしてスリープ状態にしておけば、機体の燃料となるアザーライトの消費を抑えられるのだ。ちょっと違うが節電のようなものだ。


シート後方にあるサプライボックスを開き、中から飲み物の入ったボトルの一つを取り出す。アナライザーにはこうしたサプライボックスが必ず搭載されており、中には飲料水と携帯食、自衛用のコルトᎷ1911A1とサバイバルナイフ、そして救急キットが入っている。あとは各自が持ち込んだ飲料や菓子類等なので、その辺は各隊員によって異なる。


俺はコーヒーと最近ハマっているあずき飴を持ってきた。賛否両論あるこのあずき飴だが、美味しいんだからしょうがない………異論は認めるけど。


『──今回の輸送を担当するカタパルトと申します。間も無く離陸致しますので、揺れにご注意下さい。』


コーヒーを飲みつつ待機していると、機長からのアナウンスが流れてきた。俺もコーヒーの入ったボトルをしまい、シートに深く座って待機する。


その後少しの浮遊感と共に、俺達を載せた輸送機が離陸した。窓の外には雲一つない青空が広がっている。


……この景色だけなら、優雅に旅行している気分にもなれただろうが………俺達が向かう先は戦場だ。


血で血を洗い、屍を踏みしめながら前へと進むこの世で最もクソな場所──それが戦場だ。



さあ逝こう、イデオロギーのぶつかり合うその先へ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『間も無く、作戦領域に到達致します。各員、降下準備を開始せよ。繰り返す、降下準備を開始せよ。』


どうやら、作戦領域の上空に差し掛かったようだ。アナライザーのシステムを立ち上げ、各種計器の最終チェックを済ませる。


『──サーベル1より各員、我々はこれより空中降下し、防衛拠点となる砦付近での遅滞戦闘を開始する。勿論殲滅しても構わんが、我々の目的は戦線の維持だ、砦の状態には気を配るように。』


防衛の要となる砦を落とされては、俺達が出撃した意味が無いからな…


『──搭乗する各員に伝達、降下予定ポイントに到達、これよりハッチを展開します。』


機内にブザー音が短く鳴り、後部ハッチが展開されていく。──いよいよだ。


『───各員、降下開始!!──皆様、ご武運を!』


『ありがとう、カタパルト──皆、行くぞ。』


入り口に一番近いヘンリクが真っ先に降下し、俺達隊員もそれに続いて降下する。


空中降下による猛烈な浮遊感はあるものの、機体に取り付けられている耐G緩衝装置によりその辺はある程度調節が効くようで、あまり不快感は感じなかった。


……改めて考えるとすげぇな、これ…。


機体がある程度の高度まで落下した後、ブースターを噴かせて推進力を生み出す。先程とは違い前方からのGが牙を剥くものの、こちらもあまり不快感を感じなかった。


少し進んだ先では銃声が鳴り響き、要塞砲や対空機関砲がひっきりなしに迎撃を敢行している。なんとか戦線を維持しているようだが……迎撃に出た陸上兵器に被害が出始めている…急がないと……!


『サーベル1より各員、これより、戦闘を開始する。何度でも言うが、決して死ぬな。では──戦闘開始(エンゲージ)!!』


ヘンリクの号令と共に、各ペアがそれぞれ作戦を開始する。俺もジャックについて行き、砦の前へと降り立つ。


『こちら防衛部隊所属ランス隊だ!待たせたナ!加勢するっ!!』


『─っ!──こちら国境警備隊隊長アーガスだ!救援、感謝するっ!!ひとまず、あのアナライザーをどうにかしてくれっ!!!』


『「了解」』


ブースターを噴射し、陸上兵器群の前に躍り出る。フレキシブルアームでシールドを展開しつつ照準器を覗き込み、NSV重機関銃で制圧射撃を開始する。


大口径の12.7✕108mm<B>弾が猛烈なマズルフラッシュと共に放たれ、目の前に立ち塞がるドイツ革命派のアナライザーの装甲をズタズタに引き裂いていく。


機能停止したアナライザーが膝から崩れ落ち、沈黙するのを確認してから次の標的へと照準を定める。


にしても、革命派のアナライザー達は、よく見ると旧型ばかりだった。まあ革命派なんて名乗る連中だ、政府に改革をもたらそうとする不穏分子に、政府が最新型を渡す訳がないのだから、当然だろう。


いつの世も、革命派は旧型を持ってして政府に喰らい付くというのは、ある種のセオリーなのかもしれない。


余計な思考を一旦止め、こちらへと接近するアナライザーに向けて再び制圧射撃を開始する。重機関銃なだけに反動も強いが、一発一発が大口径弾なのもあって火力は十分過ぎるほどであった。


こうして制圧射撃を続けるのも悪くないが、弾薬というのはいずれ底をつく。無駄撃ちは避ける必要がある。


可能な限り狙いを定め、後続のアナライザーに向かって弾幕を御見舞いする。時折敵の銃弾がこちらに飛んで来るものの、シールドを用いて全て受け止めている。


順調に制圧を敢行していたものの、重機関銃が弾喰い虫というのもあってか、残弾が底をついてしまった。こうなってしまっては重機関銃はただの重りと化す為、すぐ様重機関銃と弾薬タンクをパージ、愛用のAKMに持ち替える。


AKMのセミオート射撃で迎撃しつつ、マップ上の敵を示す赤いマーカーを確認する。加勢した事によって敵の数はだいぶ減っているが、如何せん陸上兵器群が多すぎる。そろそろこっちも制圧する必要性があるだろう。


「ランス2よりランス1、付近のアナライザーはほぼ片付いてる、そろそろ陸上兵器群をどうにかしないか?」


『──あーうん、そうダナ。ぶっちゃけ殲滅してるしな、移行しても問題ないダロ。』


「了解。」


俺は目の前のアナライザーを処理した後、地上部隊へと照準を合わせる。AKMをフルオートに切り替え、制圧射撃を開始する。


NSV重機関銃程ではないが、大型化された7.62✕39mm弾は、戦車や装甲車を尽く引き裂いていった。ジャックも愛用の対物ライフル『ヴィーゲンリート』で陸上兵器群を木っ端微塵に吹き飛ばしている。


このまま順調にいけば、無事に制圧を完了できると考えた矢先に──緊急通信が入った。


『──オペレーター『アイギス』より各員へ緊急通達!!革命派戦力と思しきアナライザーの大部隊が作戦領域に侵入!!接敵までおよそ10分!!』


増援……!?戦力を隠していたのか……?


『付近に展開する索敵ドローンの情報によると、敵アナライザーは()()()である模様!!』


『まずいな……メイス1より国境警備隊全軍に通達!!!革命派アナライザーの新型機が接近中!!展開中の陸上兵器群を後退させろ!!!』


『─!?──りょ、了解!!』


ヴィンセントがオープン回線で指示を出し、国境警備隊を下がらせる。旧型ならともかく、新型機では彼等には荷が重いからな…。


付近の陸上兵器群が後退して行くのを横目に、後退する国境警備隊を追撃しようとする敵の陸上兵器群を殲滅する。後退までの時間は稼げたが……もう時間が無い。


『間も無く接敵だ、各員、気を引き締めろ…!』


AKMを構え、気合いを入れ直す。


そして、敵影を捉えた。


そこに居たのは()()()の異質な機体。


神話に登場する、人馬一体のケンタウロスを彷彿とさせる手に円錐槍と円盾を持つアナライザー。


総数5機…いや、5()()のアナライザーが、後続の旧型アナライザー達を引き連れて、脚を止める事なく此方へと突っ込んで来る。


槍と盾を前に突き出し、隊列を乱さず突撃を仕掛けて来る。



あれはもしや……!?




『いかんっ!!()()()()()()()だっ!!!』





ヘンリクが叫ぶと同時に、最前線にいた俺のアナライザーを、鋭い円錐槍が貫いた。








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