慟哭
不定期ですが、これからもよろしくお願いします*_ _))ペコ
右手にAKᎷ、左手にマチェットの二刀流で化け物の群れを殲滅して行く。ブースターを断続的に噴射して相手の正面を避けつつマチェットで首を断ち斬り、迫り来る別の個体の眉間を7.62✕39mm<B>弾の強烈な火力で穿ち貫く。
フルオート射撃は極力控え、セミオートでの精密射撃によって化け物の数を着々と減らして行く。フルオートをブチかましてもいいが、それで弾薬が尽きれば貴重な攻撃手段を失う事になる。
必要な場面以外では、弾薬の浪費は極力避けるべきだからな。
すぐ横で一陣の風が吹いたかと思うと、白銀のフレームに身を包んだアナライザーが、周囲で暴れ狂う化け物の首を連続で斬り払う。その太刀筋は美しい弧を描き、尚且つ苛烈だった。
数度振るった様にしか見えない太刀筋は、その何倍もの斬線を化け物の身体へと刻み込んで行く。
……どっちが化け物なのやら。
っと、ヘンリクにばかり気を取られていてはいけない。──此処は戦場なのだから。
大地を蹴り前方へと勢い良く踏み込む。左手で振るうマチェットを化け物の腕を斬り落とす事に注力させ、無防備となった化け物の顔面に、AKᎷでヘッドショットを叩き込む。
ほんの少し距離を取りつつマチェットを投擲、空いた左手でAKᎷのマガジンを交換しコッキングレバーを引く。化け物の右目に深々と刺さったマチェットを回収しつつそのままマチェットを振るってトドメをさしておく。
『───グラディウスより各員、花火の準備は整った。即時射線より退避せよ。繰り返す、射線より退避せよ。』
モーリスからの通信を聞くや否や、俺はブースターを噴かせて射線となる異質個体の正面から離脱した。
他の機体も迅速に射線から離脱したようで、異質個体の正面には味方の機体は1機たりとも居なかった。
『サーベル1よりグラディウス、全機の離脱が完了した──派手に打ち上げ給え。』
『了解──秒読み開始、3、2、1──Fire!』
カウントが終わるや否や、凄まじい轟音と共に2Ꮪ7ピオンの203mmカノン砲が火を噴いた。
防衛部隊仕様に改造された2Ꮪ7ピオンは殆どの部分を自動化しており、今回の様に無人機として運用する事も視野に改造されている。
とは言え自動化出来るのは装填や操縦、照準といった機械的な操作のみであり、目標の指定や射撃位置の変更といった思考的な要素が絡む部分に関しては人間が手を加える必要性がある。
……まあそれでも、無人で動く自走砲なんざ、それ自体が十分な脅威なのだが。
そうこうしている内に放たれた砲弾が異質個体へと着弾、激しい爆発音を上げてその火力を大いに奮った。
榴弾の直撃をくらい、右半身を木っ端微塵に吹き飛ばされる異質個体。最早痛みすら感じないのか、その表情には変化が見られないものの、此方を脅威と見做しているのか奴の注意が此方へと向いているのが見て取れる。
『次弾装填完了──砲撃開始まで残り──』
『待てグラディウス!!──様子がおかしい。』
砲撃の秒読みを開始しようとしたモーリスを、いち早く危険を察知したヴィンセントが制止する。
砲撃を受けその身を大きく穿たれた異質個体。そう、本来であれば穿たれ大穴を開けているはずの部分が元に戻っている。
「再生してるのか…?」
『どうやらそのようだ……それもかなり異常な速度だ。』
榴弾砲で身体をぶち抜かれても再生するとなると、俺の持つAKᎷじゃ焼け石に水状態だな…。
『サーベル1よりグラディウス、次弾装填は完了しているのだったな?』
『あ、あぁ……何時でも撃てるが…』
『ならばもう一度砲撃を敢行せよ。その後は──私がやる。』
ヘンリクの意図は分からないが、何かしら策があっての事だろう…信じるしかない。
『……サーベル2より各員に通達。グラディウスの砲撃開始まで、通常個体を1匹たりとも近づけさせるな。』
「「「「「了解!!」」」」」
再びAKᎷを構え、迫ってくる個体から順番に処理して行く。激しいマズルフラッシュと共に躍り出た弾丸が通常個体の眉間を貫き、次々と行動不能にしていく。
時折、何処からともなく鋭い一撃が飛び込んで来るのは、高所で狙撃しているトリシャによるものだろう。
的確に急所を撃ち抜く精度には、目を見張るものがある。……なんなら今貫通弾で3人抜きしなかった?
『──こちらグラディウス、砲撃を開始する。各員、射線より退避せよ。繰り返す、射線より退避せよ。』
目の前の個体を蹴り飛ばしつつ、俺も射線から離脱する。他の隊員達も、し終えたようだ。
『砲撃開始!!────着弾まで残り30秒、各員、衝撃に備えよ。』
自走砲から放たれた砲撃が俺達の上を通過しつつ異常個体へと迫って行く。
『──3、2、1──弾着、今。』
先程も聞いた轟音がまたしても轟き、異常個体の腕や脚といった部分を消し炭にしながら大きく穿つ。
だがこのままでは先程と同じ結果に終わるだけだ。
ヘンリクは一体何を考えて───
と、その時、戦場に白銀の閃光が縦断した。
両手に二振りの剣を持ち、ブースターを最大限に噴かせて接近するヘンリクの機体。異常個体の目の前まで接近するや否や、その二振りの剣で無数の斬線を描いて行く。
『再生するという事は、その再生には時間が必要となる。ならば──再生する前に斬り刻んでしまえばいい。』
───────脳筋。
その2文字が頭を過ぎった。よりによって、「再生する前に倒す」というとんでもないパワープレイを、ヘンリクは敢行してやろうと言うのだ。
普通に考えて、そんな事は不可能にも等しい。
だが、この煌めく斬線を見ればそれも可能なのでは無いかと思えてしまう。
『今迄苦しかったろう……全部、終わらせてやる。』
苛烈な斬撃により斬り刻まれ、再生する間も無く細かく斬り裂かれる異常個体。いつしか再生も止まり、最後の一片となるまで、粉微塵と化していった。
『………どうか、安らかに。』
剣を顔の前に構え、哀悼の意を捧げるヘンリク。
きっとこの高潔さも、彼の強さの一部なのだろう。
対峙する相手に敬意を払い、決して侮辱する事なく正面から斬り結ぶ。それが出来る実力があってこそなのだろうが、戦場という極限状態が続く状況においても変わらないというのは、彼が誠実であるという証であると言える。
『さて諸君、愚かな邪教徒共を一人残らず駆逐してやろう。』
………前言撤回、クソ野郎には容赦無いようだ。
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その後の掃討戦は実に簡単なものだった。
化け物させた被害者達を使う事ばかりに頭を使い、自分達を一切鍛えていない烏合の衆など、潰すのは容易であった。
途中自分達のした事を棚に上げ罵詈雑言を捲し立てまくった教団員に対し、ジャックがバチギレしてAKを乱射しまくるという珍事件も起こったものの、他の隊員もキレていた為──かく言う俺もだ──止める者はいなかった。
最後に教団の最高権力者を捕縛し、上層部へと判断を仰いだ所「人命を軽視するクソ野郎など生かしておく価値は無い。好きにしてOK!」という素晴らしい許可を頂いたので、磔にした後その場で銃殺刑に処した。
多分、上層部もストレス溜まってるんだろうな。オッサンの集まりの筈の上層部から若めのノリで「OK!」なんて書かれたメールなんざ、そうそう見ないし。
何はともあれ、今回の事件は終息を迎えた。
残念ながら被害者達を戻す手段を持たない俺達は、彼らを少しでも早く安らかに眠らせてやる事しか出来なかった。
だがきっと世界には、まだまだ同じ様な事をするクソ野郎は沢山いるのだろう……嘆かわしい事である。
これ以上犠牲者を出さない為にも、俺も力をつけなければ。
───でもヘンリクのようにはならないようにしよう、絶対に。
お読み頂き、ありがとうございます。




