信じるもの
更新が安定しないのは、大目に見て下さいm(_ _)m
「メルトょぉ……あんま気ぃ落とすなって……お前ぇは最善を尽くしてたんだぞ?」
先の事件で落ち込む俺に、モーリスが気遣いの言葉を掛けてくれる。
正直な話「罪の意識に~」と言った形で落ち込んでいる訳では無く、あの状況下において自分自身が最善を尽くしているのは俺自身も理解している。
今の俺はどちらかというと、何の罪のない子供が犠牲となってしまった事が純粋にショックでならないという状況にある。だからこそ少々薄情かもしれないが、ある程度気持ちの整理もついている。
他のメンバー達はその事を理解しているようで普段通り接してくれているが、なぜかモーリスだけは全く気付いていないという何とも言えない状況になってしまっているのである。そしてモーリスも純粋に心配してくれているだけにこちらも言い出し難く、どうしたものかと思考を巡らせて今に至る。
さて、どうしたものか……...
「もし辛いなら、泣いたっていいんだぞ?ここにはお前を責めるやつは一人も「そろそろ気づけっ!!」────へぶっ!?」
我慢の限界だったのか、ジャックがモーリスの事を思い切りハリセンでぶっ叩く。
つーか何処から持ってきたそのハリセン。
「ぃったぁ──何しやがる!?」
「何しやがるじゃねぇよ、鈍すぎんだろ流石に……。メルト、もう踏ん切りはついてんダロ?」
「あぁ、何時までもヘコんでられないからな。」
何時までも下を向いて居られる程、この世界は優しくないのだ。
「へ?───じゃなんだ、もうとっくに立ち直ってたってか??」
「見りゃ分かんダロ……全員気付いてんぞ。」
マジ?という顔で周りを見渡すモーリスに、全員が苦笑いを返す。
「なんだよぉ……言ってくれよ〜……まあ、元気になったならいっか。」
こういう仲間思いな所が、モーリスの良いところなんだよなぁ……ちょっとアホだけど。
「さて、メルト君。君に一つ、問いたい事がある。」
急に真面目な表情をして、ヘンリクが此方へと向き直る。俺も少しだけ居住まいを正してヘンリクの言葉に耳を傾ける。
「蒸し返す様で申し訳無いが、今回の件はとある宗教団体が深く関わっている。奴らの名は『星界教』。レイダー共が侵略行為を開始した頃に発足した、レイダー共を崇める連中でね……これまでは威圧的な言動以外に行動を起こす事は無かったのもあり、上層部も注意喚起のみで良いという判断を下していたよ。」
ここまではよくある宗教団体と対して差は無い。此方に脅威となる存在を崇める事で目に見える恐怖を民衆へ与え、虎の威を借る狐の様に入信者を増やすカードとしてレイダー共を扱うという悪徳宗教の類だ。
こういった宗教団体は実際には何の力も持たないか、ただ利益の為に宗教という名目を利用しているに過ぎない。民衆の心を掌握するのに手っ取り早い手段である富・恐怖・宗教の中で、この星界教は恐怖と宗教を用いて人心掌握を行っているという事だ。
「だが今回の件はこれ迄とは違い、民衆に被害を出している。防衛部隊としても、何とかしたい所ではあるのだが、その前に………君の考えを聞きたい。」
──俺の、考え?
「ハッキリと言うが、君は今回の事件に関わる人間であると同時に被害者でもある。現場で対応してくれたとは言え、目の前で人間が一人殺されているのだ。───これ以上本件に関わるのは、トラウマを呼び起こす事にも繋がる。君は本件を降りて、待機すると言う選択肢がある。……これは君の心を守る為だ。だからこそ、先に聞いておきたいのだよ。──君はどうしたい?」
本当に良い人達だ。さっきのモーリスといい、皆が俺の事を心配してくれている。
だが、俺の心は最初から決まっている。
「俺は──奴らを許せない。犠牲になったあの子の為にも、そしてこれ以上犠牲者を出さない為にも……俺は戦う。」
「そうか……ならば、共に戦おう。」
「望むところだ。」
俺はヘンリクが差し出した手を取り、握手を交わす。
「話がついたんなら、ブリーフィングと行こうかねぇ。あのゴミ共をぶっ潰す、盛大なパーティーを開こうじゃないか。」
ヴァネッサの言葉に、皆が同意する。各自が席につき、作戦会議の準備を整えていく中、俺も自分で纏めた報告書を持って席に着く。
「それじゃあ、ブリーフィングを開始するよ。」
ヴァネッサの声と共に、テーブル中央のレンズから立体映像が出力される。
「本作戦は今までの防衛戦とは一味違う、侵攻作戦だ。しかも相手は人間、レイダー共じゃあない。とは言え人を化け物に変える様な非人道的な連中だ、遠慮は要らないよ。」
遠慮なく、叩き潰すとしよう。
「作戦地点はエリア015……ここエリア021から少し離れたエリアに位置する、工業地帯が広がるエリアだ。」
「あそこってー全部廃工場なんじゃ無かったっけー?なんか企業の撤退?みたいなやつで!」
「アンジェの言うとおり、エリア015は廃工場地帯だ。何処だっけねぇ……フランスだったかな?進出企業が盛大に戦車工場を建てたはいいんだが……その会社が経営難で倒産した結果、こうして廃工場地帯の完成って訳さね。」
フランスか……なんか、そう言う話多い印象が強い国なんだよなぁ…。自国で製造した戦車を使おうとしたら先に国が敗戦してたり、せっかく戦闘機造ったのに国が先に敗戦してたりと……なんかそんなんばっかだな。
勿論現代のフランスはそんな事は無く、優秀な兵器を製造する大国であり、そもそもの話が性能そのものは優秀である事が多い為、決して弱小国という訳ではないのだ。
「この廃工場地帯の奥、塀に囲まれたその先に、奴らの教会がある。既に上層部及び管轄のフランス政府には了承を得てるからね、一人残さず殲滅するよ。」
防衛部隊は任務の性質上、任務内での殺傷が認めらており、その本質は戦間期の軍隊に近い。むしろ様々な条約に縛られる各国の軍隊よりも、ほぼ無制限の防衛部隊の方がシンプルで動きやすく、自由度も高い。
本来であれば様々な条約が適用される筈だったが、新天地である異空間において、まだまだ検討すべき事が多くあり、辛うじて『任務外での非戦闘員の殺傷禁止』のみを制定し、様子見をする事になっている。
まあ本国の事情など、俺達が知る由は無いのだが………一先ず、星界教を潰すのに障害とならなければそれでいい。
「その際に、生身の人間を殺傷する事になるが……覚悟は出来てるかい?」
「当然だとも。」とはヘンリクの言葉。
「今更だからな。」とヴィンセントが。
「ハナから覚悟は済ませてんヨ。」とジャックが。
「もっちろん!」とアンジェが……軽くね?
「覚悟は決まってらぁ!!!」とモーリスが……声デカ。
「ふふっ…一度は通る道ですよ♪」とトリシャが答える………なんか、意外。
「アタシも、覚悟はとうに済ませてある。」とヴァネッサが──でしょうね──言った後、全員の視線が俺に集まる。
「俺は……。」
この部隊に入った時、こういう作戦があるというのは説明されていた。もちろん人を殺めるのは、それ相応の覚悟がいる。だけど……
スパァンッッ!!!!!
「「「「「「!!!!!!」」」」」」
両頬を叩き、気合いを入れる。
俺は大切な人達を、新しい人生で得たものを守りたい。
だからこそ、立ち止まっては居られない!
覚悟を、決めるっ!!
「腹は括った!!もう俺は、迷わねぇ!!!」
「よく言ったっ!!!」
いつもは静かなヘンリクが叫びながら立ち上がり、此方へと歩み寄る。
「君は一人じゃない。我々がついてる──共に戦おう。」
差し出された手を握り返し、団結の握手を交わす。
「……なんか、さっきも見たよなコレ?」
「……………余計な事を言わないでくれ給え、ジャック…。」
なんとも締まらない空気に、皆の頬が緩む。
ブリーフィング中だが、それを言うのは野暮だろう。
「さてと、ブリーフィングを続けようかねぇ。」
ヘンリクが席に着いたのを確認した後、ヴァネッサが仕切り直す。
「今回の作戦はアナライザーを用いない戦闘になる。勿論通常兵器は用いるが、最初は潜入任務になる事は念頭に置いておいてくれ。」
使う銃も、選んでおかないとだな。
「今回はチームを4つに分ける。潜入部隊が2つと、後方支援及び兵器運用部隊が2つだ。戦闘部隊にはヘンリクとヴィンセントで1チーム、ジャックとメルトで1チーム、トリシャとアンジェで1チーム、モーリスとアタシで1チームだ。潜入はヘンリクチームとジャックチーム、狙撃支援をトリシャチーム、アタシ達は後方支援を担当する。」
前々から言っていた通り、俺のバディとなるのはジャックだ。それは分かってたんだが……
「トリシャも前線に出るのか?」
いつもはオペレーターを担当するトリシャだが、戦闘も出来るというのだろうか……
「あぁ、アンタは知らないんだったねぇ。トリシャは銃の扱い、取り分け狙撃銃に関してはトップクラスの実力者だよ。ウチじゃあ狙撃でトリシャに勝てる奴は居ない……それどころか世界大会で優勝する様な、最強の狙撃手なんだ。」
「えへへ…照れちゃいますね///」
………まじ?
「だからその辺は心配要らないよ。万が一に備えてアンジェも居るし、心配無用さね。」
「アタシ、要るのかな〜?」
「あら、アンジェちゃんが居てくれると、私は嬉しいですよ?」
仲良さげに、二人でじゃれ合ってる…。まあ、ならいいか。
「話を戻すよ。ヘンリク、アンタ達はサーベル隊だ。コールサインはそっちで決めな。ジャック、アンタ達はランス隊だよ。そのままの方が楽ってもんだろう?」
だとすれば、俺はランス2だな。覚えておこう。
「トリシャ達はエストック隊だよ、覚えておきな。……後アタシ達は………モーリス、なんかあるかい?」
「つーかよぉ、俺達は兵器と後方支援で担当が別だろ?だったらコールサインは違う方が良くねぇか?」
「それもそうだねぇ……んじゃ、アタシはタルワールにしようかねぇ。」
……何故中東の片刃刀なんだ。
「だったら俺はグラディウスにするぜ。」
こっちはローマかよ。
「サーベル隊は正門側から、ランス隊は裏門側から潜入し、発見されるまでは可能な限り隠密行動を心掛けな。エストック隊は教会付近にそびえ立つ釣り鐘の高台に潜入、狙撃ポイントを確保して潜入部隊の支援を。」
「「「「「「了解」」」」」」
「モーリス、アンタは隠密行動の解除と同時に正門側から堂々と戦車砲ブチかましてやりな。無人陸上兵器の指揮はアンタに任せる。」
「うし、任せろ。」
「アタシはその更に後方の輸送車両から無人航空機で支援を行う。航空支援が必要なら何時でも言いな。」
航空支援もあるのか……助かるな。
「最後に、今回の件は放置したフランス政府も大変胃が痛かったらしくてねぇ…。徹底的にやって欲しいそうだ。」
まあ、放置した結果が今回の事件に繋がってるからな……。各国から詰められるのは想像に難くない。
「なんならフランス政府からの支援金も来てるからな……余程堪えたのだろう。」
ヴィンセントが資料を見つめながらそう呟く。
「作戦は決まったな。」
ヘンリクの言葉に、皆がそちらを向く。
「今回の件は、到底見過ごす事の出来ないものだ。我々は守るべき人々の為、本作戦を成功する責務がある。」
「宗教という隠れ蓑に潜む、彼らに見せつけてやろう。」
肘をついて手を組み、ヘンリクが宣言する。
「安寧を脅かす侵略者共に、粛清の灯火を」




