戦闘スタイル
宿舎のリビング、大きなダイニングテーブルに様々な料理が並び、とても良い匂いが充満している憩いの空間。
「それじゃ皆、グラスは持ったかい?」
ヴァネッサの合図と共に皆それぞれグラスを持ち、軽く持ち上げる。
「ほんじゃ、任務完了を祝して──乾杯!!!!」
「「「「「「乾杯!!!!!!」」」」」」
大規模な任務を終えた俺達は、その任務成功を祝って祝勝会を開いていた。ジャックが腕によりを掛けた料理が並び、酒やジュースが注がれたグラスがキラリと光る華やかな宴会。
こうして皆で、祝勝を祝えるというのは、素直に嬉しいものだ。
「メルトぉ!!お前も良くやったな!!!強ぇ奴撃退したんだってな!?」
若干酔ってるのか、声の大きいモーリスがいい笑顔で此方に問いかけてくる。
「ジャックのお陰さ、俺は囮をやっただけだ。」
「クククッ、何を言う。お前が危険を顧みず引き付けてくれてるからの戦果だろう?それに、この作戦の立案はメルト、お前だゼ?」
「ほれ!ジャックもそう言ってんだ!!誇って良いんだぜ!!!」
少々気恥ずかしいが、褒められるのは正直悪くない気分だ。
「……ありがとう。」
「しっかしまぁ、始まりの使徒ねぇ……ありゃ上位個体──それも特殊個体だね。」
「特殊個体?」
「一般的な個体とは違う、強力または異質な力を持った個体の名称さ。さっきチラッとデータベースを確認してみたが……それらしい記述が過去に幾つか見られたよ。」
「ふむ……つまり、過去にもその始まりの使徒が出現しているという事かね?」
真剣な眼差しで、ヘンリクが問いかける。ヴァネッサは手に持ったグラスに並々と注がれたビールを一気に煽り、飲み干した後にこう述べた。
「いや、殆どの記述は通常よりも強力である個体が見られただけで、始まりの使徒についての記載は無かったよ。」
ようはそのどれもが指揮官個体の様に他のレイダーよりも強かった、という記述だという事なんだろう。しかし気に掛かるのが……
「殆ど?」
「……メルト、アンタ鋭いね。そうさ、殆どは指揮官個体とほぼ同レベル、始まりの使徒には関係の無い記述だ。──でも、一つだけ。たった一つだけ、他とは違う記述が見つかった。」
皆が手を止め、ヴァネッサの方を見つめる。
ヴァネッサも仕切り直す様に咳払いを一つし、話を続ける。
「その記述曰く、『身の丈程の大剣を持ち、此方の無人機を一掃する個体がいた。奴は近くの無人機を全て無惨な残骸へと変え、そのまま立ち去って行った。私は偶然機体のメンテナンスで物陰に居たが、ひたすらに恐ろしかった。震えが止まらず、その日は食べ物が喉を通らなかった。』と記載されていた。この大剣を持つ強力な個体が──」
「俺が遭遇した始まりの使徒だろうな。」
「そうさね…。この頃はアナライザーも旧型ばかりでね……もし本格的な侵攻を受けてたら、壊滅だっただろうねぇ……。」
俺達が撃退出来たのも、様々な要素が上手く噛み合った結果だ。一歩間違えば、この記述と同じ運命を辿っていたかもしれない…。
「だとしたら、目下の方針は戦力の強化だナ?」
「そうなるな……上層部にも掛け合って、対応を早急なものにせねばなるまい…。」
一度侵攻を阻まれた以上、また仕掛けてくるのは目に見えている。
俺も、もっと鍛えないと…。
「───はいはいっ!!!重苦しいのはここでオシマイッ!!!せっかくのご飯が美味しくなくなっちゃうよ?」
アンジェが手を叩いて場の空気を払拭する。確かに、祝勝会の雰囲気では無かったが……あの場で頃合いを見て切り替えを促せるのは、彼女の長所と言えるだろう。
現に、重苦しい空気は綺麗に消え、また和やかな空気感が戻って来ていた。
「そういやメルト、ジャックとはどうだった?やりやすかっただろ?」
食後のコーヒーを飲みながら、ヴァネッサが尋ねてくる。
ジャックとは正直な話、非常に戦いやすいタッグだと感じている。俺が動く時はサポートに回ってくれるし、引き際も的確だ。
「正直、非常にやりやすかったよ。」
「ホゥ?そいつは良かったゼ。──ま、コッチも正直動きやすいっちゃ動きやすいゼ。なんせ、戦闘における思考が似てっからナ。」
「そうだろうねぇ…。アンタもメルトも、オールラウンダーに近い立ち回りだからねぇ。お互いがどう動くかを予測しやすいのは、ペアを組む上で都合が良いのさね。」
あとは単純に、ウマが合うんだよな、ジャックとは。
話してて楽なんだわ、マジで。
「ジャック、メルト。アンタ達、今後タッグで動きな。アンタらもその方が都合良いだろ?」
正直、非常に良い話だ。もちろん、ジャックさえ良ければの話ではあるのだが…。
「俺は是非ともそうしたいが……ジャックはどうだ?」
「クククッ、決まってる。組むに決まってんダロ?」
ニカッとジャックが笑いながら答えてくれる。
「……決まりだね。ジャック、そんなアンタにプレゼントだよ。受け取りな。」
プレゼント…?
「ンぁ?………!!──ついに出来たのか!!!」
ジャックが手渡された端末を操作すると、あえて空けてあるテーブル中央のレンズが光り、立体的なホログラムを映し出す。
「──これは」
映し出されたホログラムは、俺が今まで見てきたどのアナライザーとも違う、新しい機体であった。
「ついに俺の、ベリーキュートでパーフェクトな愛機が完成って事さ!!」
普段は落ち着いてるジャックが、いつもより大きな声でそう宣言する。
ホログラムの新機体は、防衛部隊で正式採用されているSA-36よりも各所に装甲が追加されており、全体的にゴツくなっている。しかしながら各所にスリットやライン状の窪みがある為か、あまり厳つさを感じさせず、むしろスタイリッシュにも見える。
「コイツが俺の新型機であり固有機体『クラウ・ソラス』だ!!!」
──クラウ・ソラス
アイルランドの民話に登場する、伝説の剣。アイルランド語で『光の剣』の名を冠すその剣の名を、この新型機は与えられているのだ。
「クラウ・ソラスか、良い名だな。」
ヘンリクが紅茶を嗜みながらそう呟く。
「ダロ?そういや、ヘンリクの機体も名前があるんだっけか?」
ヘンリクの機体と言えば、CRE-90で帰投する時に見かけたあの白銀の機体だろう。
「あぁ、私の機体は『アロンダイト』。由緒正しき、竜殺しの剣の名だ。」
アロンダイトは竜を討伐した騎士ランスロットの剣として語り継がれる伝説の剣である。ヘンリクの戦闘能力とこの機体の性能はまさに、歴戦の騎士を思わせる力強さの流麗さがあると言えるだろう。
それにしても、固有機体か…。
自分だけのたった一つの相棒。
俺もいつか、そんな機体に乗りたいものだ。
「メルト君。君も、自分の固有機体の案は出しておきたまえよ。いずれ君にも与えられるのだからな。」
「俺にも?」
「そう、君にもだ。ここにいる皆が、自分の固有機体を保有もとい申請している。とは言え、固有機体は急ぐ必要は無い。戦術的な面もじっくり考慮しながら、ゆっくりと決めていけばいい。」
俺だけの、たった一つのオリジナル。
ゆっくりで良いとは言われたが、正直、早く欲しいと思ってしまうのは自分だけではない筈だ。
新しい楽しみができたな。
「構想を考えんなら、俺も手伝ってやるよ。細かい調整とかは得意だからな。」
「ありがとう、ジャック。頼りにしてる。」
「ジャック、アンタの機体はあと数日で届く筈だ。それ迄に、準備は済ませときなよ。」
「オーケーだ、任せときな。」
その後も談笑が続き、解散になったのは深夜0時を過ぎてからだった。
───楽しかった。
皆と笑いあいながら、談笑し、茶化しあい、時にヴァネッサの拳骨が飛ぶ──最後のはなんだ──日常。
この楽しい日々を、守ろう。
その為にも、あの始まりの使徒のイヴォアと、決着をつけなければならない。
それに、あいつは自身の事を末席と言った。
──気合いを入れ直そう。
大切なものを守る為、
全てを失い、1から積み上げたこの日常を守る為、
俺は明日も、銃を、剣を、握るとしよう。
もう何も、失わない為に。
聖剣や伝説の剣は諸説が多いですが、カッコイイ事には変わらないですよね(๑•̀ㅁ•́๑)✧




