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朧火の意志  作者: 布都御魂
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開幕の一矢


「ヴァネッサの言ってた通り、オレたちの任務は奇襲だ。ソイツは分かってるよな?」


ガレージの隅に備え付けられた小さな一室。搭乗する隊員や大型車両の乗組員達が出撃まで待機する控室で、俺とジャックはミーティングを行っていた。


「もちろんだ。」


「ならいい。そんでまあ、今回の奇襲に欠かせねぇクソデカミサイルを運ぶ必要があるわけだが…メルト、コイツをブチかますのはお前に任せる。」


「…俺でいいのか?」


「あぁ、お前だ。今回の任務で扱うミサイルはアナライザークラスでの運搬が必要不可欠だ。旧型の無人機共にやらせても良いが、時間も取られるし何より人数を増やしたくねぇ。」


奇襲において、人数が増えるという事は発見リスクの上昇に繋がる。機動性の低い旧型機を率いての奇襲は、非常にリスクが高いと言えるだろう。


「お前がミサイルを設置する間、オレが周辺を警戒する。場合によっちゃ別働隊の無人機部隊と合流しての迎撃になるかもしれねぇが、基本はオレとお前のツーマンセルだ。お前の安全はオレが責任をもって守ってやんよ。」


「随分と頼もしい護衛だな。」


「ハッ、嬉しい事言ってくれるねぇ。……そんじゃ、そろそろ乗り込むかね。」


俺とジャックは控室を出て、アナライザーに搭乗する為に用いる昇降ワイヤーへと向かった。


付近では慌ただしく作業する整備スタッフが、部品の取り付けを行ったり、弾薬の補給を行っている。


「おう坊主!!機体の整備は出来てるぞ!!」


「ありがとう、ランドルフさん。」


今声を掛けてくれたのはアナライザーの整備スタッフを統括するリーダーであるランドルフ・ドリフトさんだ。長年の整備で培われたのか全身が逞しい筋肉で覆われたムキムキボディが特徴で、長さ2mの鉄骨を片手で持ち上げる怪力の持ち主でもある。


ランドルフさんに礼を言いつつ、昇降ワイヤーを握ってコックピットへと昇っていく。座席に腰掛け、コンソールをタッチして機体の起動準備をする。


ある程度の準備を終えた俺はグリップを握り、起動句を口にしてシステムを立ち上げる。


「コネクション」


【メインシステム─起動─接続開始─接続完了─ユーザー認証──メルト─認証完了──ビジョンシステム─起動─FCS─起動──全システム─オールグリーン】


システムが立ち上がると同時に、ディスプレイの右側に今回運搬するユニットの接続状況が表情される。


俺の機体はピースフルミサイルを運搬する為に、運搬用のユニットを接続している。そのため肩部に搭載するミサイルポッドなどの肩部武装やウェポンハンガーのような装備は運用出来なくなっている。


低下した戦闘能力をどう補うのかというと、ミサイル発射後に補給ドローンにて追加武装の補給を行う事で不足している継戦能力を維持する手筈となっている。


補給到着までの間、戦闘を継続出来るようにメインウェポンはいつものAKM、サブウェポンも同様にMP-443を運用する事にした。結局の所、使い慣れた武装が一番なのだ。


ピピッ、と電子音が鳴り通信が入っているのを搭乗者へと伝える。発信元は……ヴァネッサだ。


『無事搭乗したみたいだね。アンタ達にコールサインを貸与するよ、よく聞きな。アンタ達の部隊は『ランス隊』。一番槍を任せるには丁度いい名前さね。ジャックが『ランス1』、メルトが『ランス2』だ。よく覚えておきな。他のメンツのコールサインは一覧表を送っておくから、確認しておきな。』


『ランス1、了解したぜ。』


「ランス2、了解した。」


ヴァネッサからデータが送信されてくる。開くと、各隊員のコールサインが一覧出来るようになっていた。


まず俺達の部隊が『ランス隊』。ジャックがランス1で、俺がランス2となる。


ヴィンセントの部隊は『メイス隊』。ヴィンセントがメイス1で、アンジェがメイス2となる。このコールサインは前回の出撃と同様だ。


ヴァネッサの部隊は『カトラス隊』。ヴァネッサがカトラス1で、モーリスがカトラス2となる。……モーリス、頑張ってくれ。


そしてヘンリクの部隊、というかヘンリクしかいないのだが、部隊名は『サーベル隊』で、ヘンリクがサーベル1となる。


最後にオペレーターであるトリシャには、コールサイン『アイギス』が貸与されている。


万が一コールサインで迷っても良いように、いつでもこのデータを展開出来るようにしておくとしよう。


そうこうしている内に、ガレージ出口のランプが青色へと変わる。「出撃せよ」の合図だ。


『そんじゃお先に。……ランス1、出るぜ。』


カタパルトのブースターが点火し、ジャックの乗る機体を前へ前へと押し出して行く。ジャックが出撃して行ったのを見計らって、俺もカタパルトへと移動する。


ミサイルを搭載したユニットの接続は良好。いつもより軽装ではあるが、武装の準備も整っている。


準備万端だ。


ランプが青色へと変化する。……時間だ。


「ランス2、出撃する。」


カタパルトが点火し、機体を前へと押しやる。加速するにつれ上がっていく負荷に耐えつつ、俺の機体が宙へと飛び出した。


ブースターを噴かせ、先行するジャックの機体へと追い付く。


追い付いて分かったが、ジャックの機体には他の機体には無い武装が搭載されている。


右腕にはメインウェポンであろう俺が使用しているのと同じAKMを装備しており、腰部にはサブウェポンのイスラエル製自動拳銃であるジェリコ941を装備している。


だが本題はそれじゃあない。


機体の背面に取り付けられたウェポンハンガーには、AKMなんかでは比べ物にならないレベルでデカいライフルが背負われていた。


「な、なぁ、ランス1……背中のそれ、なんだ?」


『んぁ?これか?コイツは俺の相棒さ。ジャック謹製、14.5mm<B>対物ライフル『ヴィーゲンリート』。コイツをブチかました奴に盛大な子守唄(ヴィーゲンリート)を聴かせてやる代物さ。イケてるだろ?』


「随分と激しい子守唄だな。聴いた奴はきっと深い眠りにつくんだろうな。」


轟音鳴り響く子守唄か……永遠に眠るのが先か、鼓膜が弾け飛ぶのが先か、考えたくもないな。


「クククッ、違いねぇ。さぁて、そろそろ目的地だ。派手にブチかましに行こうぜ。」


「了解。」


機体を減速させつつ、切り立った崖の中腹に降り立つ。この場所ならばあちら側からは死角となるし、こちら側からはある程度視界が確保できる。


『よぉし、そんじゃあミサイルの準備をしてくれ。オレは周囲の警戒を行う。』


「了解、これより投射機設置に入る。」


コンソールを操作し、背部に接続されたユニットを分離する。外部操作によって展開された脚部が投射機本体を地面に固定し、ミサイル発射準備に入る。


『見えたぞ。奴さんのお出ましだ。』


ジャックの報告を聞いて、侵攻方向の予測されていた方角へと視線を向ける。


視線の先には何百、何千、いや何万といったレベルで侵攻してくるレイダー達の軍勢がそこにはあった。


頃合いだな。


『ランス1よりアイギス、レイダーの軍勢を確認。ミサイル発射準備は完了している。どうぞ。』


『こちらアイギス、こちらもレーダーにて確認しています。これより、ピースフルミサイルのカウントダウンに入ります。』


トリシャこと『アイギス』の声と共に、ミサイル投射機が発射シークエンスに入る。バックブラストを回避する為、俺達は一つ上の岩山へと避難する。


『カウント開始──10、9、8、7、6、5、4、3、2、1──Fire(発射)!!』


カウントが終わると同時に、ミサイルに付属するブースターとメインブースターが点火し、ミサイルが遥か上空へと打上げられる。


『ミサイルの発射を確認──着弾まで120秒』


一定の高度へと到達したミサイルからサブブースターが切り離され、ミサイルの先端がレイダーの軍勢へと進行方向を向ける。


地球の重量を纏うことで加速したミサイルが、レイダー達を葬り去ろうと落下して行く。


『着弾まで、残り30秒。各員、衝撃に備えて下さい。』


『よぉく見てろよ?デケェ花火が上がるぜ。』


「そりゃ楽しみだ。」


この戦争の開幕の一矢となる、最初の一撃だ。


存分に味わいやがれ。


『着弾まで──10、9、8、7、6、5、4、3、2、1──弾着、今。』


カウントの終わりと共に、強烈な閃光と爆音が鳴り響く。


辺り一面真っ白な閃光に包まれたと思いきや、本来ここで終わりの筈の爆音が鳴り止まず断続的に爆音が鳴り響く。極めつけは一瞬の無音からの轟音が遠く離れたこちらにまで届き、衝撃波で機体の周囲に砕けた岩山の破片が飛び散って来る。


───うん、まじで何これ。


威力おかしくない?いや、説明では聞いていたけどもさ、なんで遥か遠くのコッチにまで衝撃波が届いてんだ。誰だこれ作ったの………ヴァネッサか。


『アッハッハッ!!!いぃ花火じゃないか!!!アハハハハハハハハ!!!!!笑笑』


怖。


『メルトよぉ……お前はマトモでいてくれよ…頼むぜ……。』


心なしか、ジャックの声色が哀愁漂うものとなっている。うん、言われなくてもなるつもりは無いし、言われてもなれないと思う。


「お、おう…。」


『ははは……。』


トリシャが乾いた笑いを発しているが、ひとまず置いておくとしよう。


カメラアイをズームさせ、レイダーの様子を観察する。映し出されたのは、機体の多くが破損したレイダー達の凄惨な姿だった。


爆心地から遠のくに連れて、レイダー達の機体も原型を留めているが、それとは対象的に爆心地にはかなり深いクレーターが形成され、その付近にいたレイダー達は跡形も無く消し飛んでいた。


なんとか難を逃れた個体も状況を処理仕切れないのか、混乱した様子でその場で立ち往生していた。


『チャンスだな、行くぞ。』


「了解。」


ジャックが不規則にそびえ立つ岩山を足場にレイダーへと接近し、AKMでのヘッドショットをお見舞いする。強烈なストッピングパワーによって頭部を穿たれたレイダーは機能を停止し、スパークを発しながらその場に崩れ落ちていった。


俺もジャックに続いてレイダー達の密集する付近へと着地し、セミオートで正確にヘッドショットを決めていく。


未だ混乱から抜け出せていないのか、動きの鈍くなったレイダーを再起不能にしていくのは然程時間は掛からなかった。


殲滅を続けていく内にこちらを認識し始めたのか、徐々にレイダー達の動きが活発なものへと変化していく。


このまま戦闘を続けていれば、いずれ数的不利で押し切られてしまう。頃合いだな。


「ランス1、頃合いだ。」


『そーだな、無人機部隊に合流すっか。』


弾薬をばら撒き敵の勢いを削ぎつつ、俺達は無人機部隊が待機するポイントに向かって走り出した。


追ってくる個体を迎撃しつつ無人機部隊と合流し、雑魚敵の処理を無人機に任せる。


俺達の獲物は一際大きい個体、レイダー達を統括する指揮官個体だ。


他のレイダー達に比べスラリとしたシルエットを持つ指揮官個体は、これまでの戦闘データから他のレイダーに比べて戦闘能力が数倍以上高いと算出されている。


流石にコイツを旧型の無人機部隊に相手させる訳にはいかない。


俺はAKMを構え、指揮官個体に向けて発砲する。


力強い反動と共に銃口から大口径の銃弾が躍り出る。圧倒的なストッピングパワーを持つその弾丸は真っ直ぐに指揮官個体の頭部へと突き進むものの、どう察知したのかは不明だが紙一重で銃弾を掠らせる程度に留めやがった。


なんてヤツだ。


そうこうしている間に、指揮官個体もこちらに向かって手に持ったサブマシンガンで弾幕を張ってくる。


俺の機体はミサイル輸送時の軽量化の為にシールドを装備していない軽装備仕様だ。サブマシンガンとはいえ、モロに銃弾を受ける訳にはいかない。


ブースターを噴かして左に大きく回避しつつ、セレクターバーをフルオートに。引き金を引いて負けじと弾幕を展開する。


AKMでの弾幕を張れる時間はそう長くないが、先に弾幕を張り始めた指揮官個体にそれなりのダメージを与えるには十分だった。


装甲に幾つもの弾痕が刻まれ、指揮官個体の体勢が大きく蹌踉(よろ)めく。


すかさず追撃をしようとするも、弾幕を張り続けた事によりAKMは弾切れ。仕方なくAKMを腰のウェポンラックに預け、脚部に格納されているダガーを引き抜く。


ブースターを噴かせつつ地面を蹴り、指揮官個体の眼前へと躍り出る。リロード中に接近された事によって対応に遅れをとった指揮官個体だったが、やはり性能が良いのかすぐさまサブマシンガンを投げ捨てこちらに掴みかかってくる。


小刻みにブースターを噴射して回避しつつ、指揮官個体の背面にある装甲の境目にバックスタブを決める。


何処かの配線がショートしたのか、スパークを走らせながらもこちらへと拳を振り上げてくるが、旋回に時間が掛かっているのもあってその腕を弾き飛ばすのは容易であった。


決死の一撃を弾かれた事で姿勢が不安定なものへと変わり、その結果無防備となった頭部へと俺はダガーを振り下ろした。


液晶面が砕け散り、赤い点滅を発しながら指揮官個体は沈黙した。


勝利の感傷に浸りたいのは山々だが、まだ戦争は続いている。


指揮官個体も1体ではなく、後続のレイダー部隊がどんどんこちらへと迫ってきている様だった。


『ランス2、一度下がって装備を整えろ。殿(しんがり)はオレに任せな。』


「了解、頼んだ。」


ジャックに殿(しんがり)を任せて、俺はレイダーの少ない後方へと下がる。


付近のレイダーを蹴散らしていると、無線で通信が入る。


『アイギスよりランス2、聞こえますか?』


「こちらランス2。」


『まもなくそちらに補給ドローンが到着します。座標を送信しますので、降下地点付近のレイダーを殲滅して下さい。』


「了解した。補給、感謝する。」


指定された座標へと歩みを進め、付近のレイダー達にAKMの斉射をお見舞いする。


付近の掃討が終わった頃、上空から一機のドローンが降下して来た。


長方形の胴体から伸びる6つの分岐部にプロペラが取り付けられた無骨なドローンで、胴体下部には貨物を取り付ける輸送ユニットが接続されている。


輸送能力を高める為か武装は取り付けられておらず、その代わりに先程までドローンがいた所に別の小型ドローンが2機程ホバリングしているのが見える。


その武装ドローンには機体下部に小型の機関銃が搭載されている様で、場合によってはあの機関銃で敵航空戦力を迎撃する手筈のようだ。


「さてと、物資の内容は……」


補給コンテナの中に収まっていたのはAKM用のマガジンと取り付け式の簡易ウェポンハンガー、そして近接戦闘用のブレードメイスであった。


ブレードメイスとは刀剣の形をした鈍器の事であり、『斬る』というよりは『叩き潰す』や『圧し折る』といった使い方をされる物理兵器だ。


通常のメイスやハンマーといった打撃系の近接武器に比べるとリーチや取り回しに優れ、扱い方によっては勢いに任せて刺突攻撃を繰り出す事が出来る他、刀身に切れ味が存在しない事で刃こぼれによる継戦能力の低下を心配する必要がないという優秀な近接武器なのである。


当然の事、閉所での取り回しの悪さや通常の刀剣同様、剣の腹に負荷が加わると折れやすいといった欠点は持ち合わせているものの、それらを含めて考えても優秀な武器であると言えるだろう。


マガジンをラックに放り込み、簡易ウェポンハンガーを輸送ユニットが接続されていた右肩の換装ユニットに取り付ける。接続されたウェポンハンガーにブレードメイスを預け、ドローンにアクセスして補給完了のアイコンをプッシュする。


信号を受けたドローンがプロペラを旋回させ、遥か上空へと上昇して行き、待機していた護衛ドローンと共に基地の方角へと帰投して行った。


「ランス2よりランス1──補給完了、これより其方に合流する。」


『こちらランス1、了解だ。気ぃつけて戻ってこいよ。』


殿を務めてくれているジャックへと連絡を入れつつ、俺は道中のレイダー達を蹴散らしながら合流を目指すのだった。






ブレードメイスってロマンですよねby布都御魂

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