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朧火の意志  作者: 布都御魂
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迎撃戦:ブリーフィング


「作戦を説明するよ、よく聞きな。」


ヴァネッサの声と共にテーブル中央のレンズが光を放ち商業区周辺の地形図を形成する。


「今回の作戦は今までの小規模なモンとは比にならないデカいもんだ。それ相応の戦力や犠牲も覚悟しなきゃならない。」


犠牲か……この中の誰一人として欠ける事の無い様にしないとな…。


「メルト!!心配するな!!俺達は実力と経験、そして十分な安全マージンがある!だから安心して挑んでいいぞ!!」


モーリスが威勢よく励ましてくれる。皆もそれに応じて頷いているようだ。


……余計な心配だったか。


「むしろ心配なのはメルト君、君だよ。」


ヘンリクがこちらを真剣に見つめながら言い、モーリスも頷いている。


「俺?」


「そうだ。君の実力はある程度分かったが、それでもまだ君は経験が圧倒的に少ない。そう簡単にはやられないだろうが、多少なりとも心配にはなるのだよ。」


確かに、俺の実戦はまだ2回のみだ。それに、今回のような大規模な作戦は初めてであり、不安に思うのも頷ける。


「ジャックがいるから安心ではあるが、用心はして欲しい。せっかく出来た仲間を失いたくはない。」


『仲間』か…。


この2文字が、こんなにも嬉しいとは思わなかったな。


「ククッ安心しろよ、俺がついてんだからよ。」


ジャックが不敵な笑みを浮かべて宣言する。

──頼もしい限りだ。


「話はついたかい?──続けるよ。アタシ達防衛部隊は東西南北にエリアを区分けして担当する。そこに無人機部隊を投入して戦線を維持するって訳さ。基本的に無人機は自立思考で動くから放っといても大丈夫だが、必要なら各自で指揮を取るんだよ。いいね?」


「軍団指揮はやった事がないが……」


「安心しな、「前進」「後退」「停止」くらいが出来りゃ上出来さね。戦略的なコントロールはトリシャがやってくれるよ。」


「お任せ下さい♪」


トリシャがいい笑顔で微笑む。可愛い顔してすげぇ事するな。


「北をポイントα(アルファ)、東をポイントβ(ベータ)、南をポイントγ(ガンマ)、西をポイント(デルタ)と呼称する。ヴィンセント、アンジェ、アンタ達はポイントαだよ。」


「「了解」」


「ヘンリク、ポイントβを頼めるかい?」


「任された。」


「アタシとモーリスはポイントγを担当するよ。」


「了解した。」


「と言う事は俺達はポイント⊿か。」


侵攻方面とは逆側だな。


「いや、二人には別の場所を担当してもらう。」


「何?」


「別の場所、というと?」


他に場所があっただろうか…?


「アンタ達に担当して貰うのはココだ。」


そう言ってヴァネッサが指指したのは、商業区の南西部にある山岳地帯。切り立った崖や突き出た岩山が多くそびえ立つエリアだ。


ヴァネッサがニヤッと笑みを浮かべながら告げる。



「アンタ達二人には、侵攻して来るレイダー部隊を側面から奇襲してもらう。」



奇襲。



相手が『自分達が侵攻している』という認識の中で横っ腹に噛み付く戦略。



上手く行けば、相手の戦力を大きく削ぐ事が出来るだろうが……


「オイオイ、そいつは中々にハイリスクじゃねぇか?」


流石のジャックもリスクが高いと踏んだらしく、ヴァネッサに問い掛ける。


「なぁに、心配は要らんさね。コッチには秘密兵器がある。」


「「「「「「秘密兵器???」」」」」」


「そう、秘密兵器さ。アタシが密かに創り上げたロマン兵器。まさか此処で役に立つなんてね…世も末さ。」


「ロマン…兵器……まさか!?」


モーリスは知っているのか、額に汗を浮かべてヴァネッサの顔を見つめる。


「そのまさかさ!!アタシが創り上げた傑作ロマン兵器、『ピースフルミサイル』の出番だよ!!」


「………は?」


ピースフル、ミサイル???


意味がわからんと周りを見てみると、やけにテンションの高いヴァネッサとは対象的に、他の皆は深いため息をついていた。


「な、なぁ、ピースフルミサイルってなんだ?」


隣にいたジャックに聞いてみる。


「アレかぁ?……アレかぁ……スゲぇ簡単に言うと、念には念を入れまくったミサイルだな。」


どゆこと????


「説明してあげるよ!ピースフルミサイルってのは着弾地点を更地に変える最高兵器さ!まず炸薬たっぷりのミサイルが着弾、そして中から無数のテルミットグレネードが起爆、そしてナパームグレネードが起爆した後、最後に濃縮爆薬がドカンって代物さ!どうだい、ロマンだろ?♪」


こんなに楽しそうなヴァネッサは初めて見るな…


内容が物騒な事を除けばいい事だ。


「正直、やり過ぎて友軍を巻き込み兼ねない。だから使うのを敬遠していたんだよ。」


すごいげんなりした顔のヘンリクがそう告げる。


怖。


「だからこそ今が絶好の使い所だろうさ!辿り着く前だから友軍はいないし、あのへんは岩山だらけの荒れ地だからねぇ。」


そう考えると理には適っているのか…。


「んで、俺達はどうすればいい?」


「お、やる気だねメルト。簡単な話さ、アンタ達がミサイルの発射器を設置して、あとはスイッチを押すだけさね。照準はトリシャが衛生通信で正確にぶち込んでくれるよ。」


「……あれ、指先一つで更地ができちゃうから怖いんですよ……」


トリシャがちょっと泣きそうな目をしてつぶやく。


「ぶちかました後は、そのままアンタ達二人で奇襲吹っ掛けな。あぁ、無理はするんじゃないよ?途中でコッチに合流するんだ。いいね?」


「「了解」」


「各チームには40機づつ無人機を割り当てるから、上手く使うんだよ!」


「そういえば、無人機は壊れても大丈夫なのか?本部の備品なんだろ?」


損害が出た事による多額の請求、なんて事になったら目も当てられないからな…。


「その辺の心配は要らないよ、メルト。こいつらは頭数を揃える為に派遣された、こう言っちゃなんだが捨て駒みたいな奴等さ。本部の連中も「耐用年数ギリギリだから好きに扱って構わない。むしろ戦場スクラップ化した方が費用も出なくて助かる」とまで言ってる始末だからねぇ。ま、損害が出なければコッチが引き取れるから抑えるに越した事はないね。」


「捨て駒だからこそ、余計な手続きも無しに迅速に送り出せたんだろう。こちらとしては助かるがね。」


ヘンリクもその辺は理解しているようだ。どの世界もコスト削減は必要になってくる…特に大規模進駐を行う組織には必要不可欠だ。


「よしメルト、装備選択も兼ねてガレージの控室でミーティングすんぞ。」


「了解した。」


席を立つジャックを追って、俺も部屋を後にする。


「アタシらも準備しようかねぇ…ほらモーリス、行くよ。」


「へいへい」


それぞれの準備を進めていく内に、拠点内は少しづつ慌ただしい喧騒に包まれていった。


いつもは和やかな雰囲気の拠点内が少しばかり張り詰めた空気へと移り変わって行く。


それもそうだろう。


今回の規模は最早迎撃戦と言うには大規模なものだ。


人類の経験したイデオロギーのぶつかり合いとはまた違う、人類種を守る為の戦争。


後世においては『侵略戦争』として記されるであろう人とレイダーの存続と繁栄を()けた戦争。


俺は今から、そこに行く。


記憶を失い、何も分からないこの俺を暖かく迎えてくれた人達を守る為。



「これ以上、失ってなるものか。」



『大切』を守る為、俺は戦う。





どこがピースフルなんだろう…

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