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2話 訪れる危機

リリアに告白する…とは息巻いたものの、雰囲気とかタイミングってのはあると思う。リリアはあれでロマンチストだ…


それにスノスノと一夜を共にしたのを見られた事実もある。あの時はスノスノの話術でどうにかなったが、今回ばかりは頼るわけにはいかない。



「ラグナ、押し倒せばいいだけだと思うけど。私の時みたいに」


「押し倒したのはそっちだろ…」



記憶を捏造しないでほしい。あの時は弱っていたわけだし、今だってスノスノに対する好意は消えていないからこそ悩みに悩んでた日々もある。


主に周囲からのやっかみに。


そういう事を平然とやってくる連中が多い…そういう意味ではこの街は荒んでいると思う。ましてや、その筆頭が自警団だとか終わっていると思う…


なんでそんなところに入りたかったんだろうな、俺。


そんな事考えるのは止めよう。せっかくの食事が台無しになる。



「…まあ、ラグナの覚悟が出来たってリリアが分かれば、すぐさま押し倒されるわよ。むしろ、今夜にでもするように伝えておくわ」


「やめろや」





そんなバカ話をしつつ朝食を終えた頃、いつものように多くの物を買ってきたリリアが戻ってきた。


ただ、いつもより興奮気味で…



「ラグ、スノちゃん。見世物小屋が来てるんだって。3人で行こうよっ」


「「見世物小屋ぁ?」」



胡散臭い事を言い出すリリアに俺たちは顔を顰めた。


見世物小屋なんてのはロクなもんじゃないって事くらい一度も見た事のない俺でも分かってる。ましてや、こんな田舎にやってくる時点で怪し過ぎる。


チラシを貰ってきたようで、リリアは「優待券付きだよ、お得だよ」とか言ってるが、チラシに付いている時点でお得感あるわけない。むしろ、そんな手に騙されるなよ。


リリアはそんな事に気付かないのか、スノスノにそのチラシを渡す。



「希代のショー…力持ちの小人、喋る羽虫、紅色の宝石と呼ばれる王者などなどねぇ。リリアはそんなに虫が見たいの?」


「む…虫?」



虫が苦手なリリアは、最初の勢いが完全に削ぎ落とされた。蝶すら嫌い、むしろ飛ぶ虫は刃物で真っ二つの上、刃物は鍛冶屋に持ち込んで焼き直してもらう程である。


そんなリリアが虫を見に行くはずがない。例え喋っても虫は虫だ。街から少し離れると虫型の巨大な魔物も居ると聞くし、それもあってかリリアは今まで旅なんてした事も無い…


何より、虫を見て発狂したら手に負えないんだよなぁ…



「……そ、そうだ。ラグとスノちゃんだけで行けばいいよ。帰ったらお話聞かせてね」


「いや、行かんし」


「だな…」



スノスノも興味なさげだし、何が悲しくて見世物小屋デートなんてしなきゃならないんだ。しかも、優待券は1人当たり大銅貨1枚と銅貨5枚のところを3人で大銅貨3枚という制約付きらしい。


地味に高い…具体的には大銅貨1枚もあれば三食しっかり食べられる程だ。3枚もあればミルウェイに泊まれて一食は付く…そういう額だ。



「遠慮しなくていいのに…スノちゃんだって女の子なんだから紅い宝石とか興味あるんじゃない?」


「2人と一緒に芋の皮剥きする方がまだマシよ。だいたい紅い宝石の王者とか意味分からないでしょ…この手の場合、赤色した魔物とかよ。レッドトマホーク(赤い斧)スネーク()とかレッドアーミー(赤い兵隊)マウス(ネズミ)とかキリングレッド(クソでかい)クイーンビートル(カブトムシ)とかね」


「何それ、怖い」



名前からしてロクでもないのが分かる。というか、そんな魔物見世物小屋に居ていいのだろうか。いやよくない。


スノスノが言うには、赤い魔物は一部を除いてだいたいロクでもないという。前述の3種類は仲間を呼ぶ点でだいたいロクでもない。特に後者2種類は街に入れたら壊滅的被害をもたらすとか…



「特に厄介なのはカブトムシね。危険を感じたら近縁種のカブトムシを呼び寄せるし…それで滅んだ街もあるとかないとか」


「さすがに大袈裟じゃないのか、それ?」


「街といっても人間のじゃないわ。さすがに人間の街レベルだと優秀な騎士団が街に入れるのを防いでいるわよ」


「いや、それ…」



その優秀な騎士団がいないのがこの街(アルクト)なんだが…とてつもなく嫌な予感してきたぞ。





✳︎


その頃…


アルクトの街の南方に広がる森の中に、とある一団が居た。1人は銀色の鎧を身に纏い、他の3人は赤銅の鎧を纏った集団である。


彼らは、とある目的の為にアルクトの街を目指していた。



「やはり、甲虫型の魔物が多いな…いや、多過ぎるというべきか」


「副長、ではやはり…」


「間違いない。匿名の投書通りならアルクトに災害指定級魔物(ジェノサイド)が迫っている」


「うげぇ…」



副長と呼ばれた銀色の鎧姿の青年の言葉に、赤銅の鎧姿の1人が嫌そうな顔をする。


彼らの目的の一部に、投書の真実の確認というものも含まれていたからである。そして、それが真実である場合…


彼らは命を賭して戦わねばならない。



「…大丈夫。あの街にはサミル様やイリアス様、それにスノスノ様が居る」



紅一点の少女が、リリアの両親やスノスノの名前を上げる。


それは、彼らにとっても唯一の救いであった。



「そうですね。とりあえず今は少しでも後顧の憂いを断ちましょう…隊長は先に街へ。僕たちはここで少しでも甲虫型魔物を減らします」


「マジかよ…焼け石に水だろ、これ」


「…それでもやる。それが(わたくし)たちの使命。そして、託された物(ノブレス・)への報い方(オブリージュ)



赤銅の鎧姿の3人はそれぞれ鎧とは不似合いな輝きを放つ武器を構える。



「…分かった。但し、死ぬような真似だけはするな。この隊の汚名を注ぐのはここじゃない」



副長は3人の意志を汲み取り、街の方へと駆けていく。


その街へと羽ばたいていく、数多の大型の甲虫型魔物を追うように。





✳︎


嫌な予感というものはだいたい現実になるんだなぁと思う。さっきから羽音が物凄く響いてくる…無論、外から。



「なあ、スノスノ…」


「自警団が居るでしょう。赤カブトムシをさっさと倒せば行き場を失った他の魔物は帰っていくわ。それより、さっきから不穏状態なリリアを抱き締めるとかして落ち着かせたら?」



スノスノは優雅に食後の紅茶を楽しんでいる一方でリリアはソワソワして落ち着かない。


いや、分かってる。自警団が出張っているこの街でスノスノが動きにくい事も、動かなくてもスノスノ以上に強い人たちがいる事も。


それでも、何かしなくちゃいけないと思うのは我儘なんだろうか…



「それでも、今誰かが苦しんでいるのを黙って見ているなんて…」


「ラグナ。そこで私とラグナが出ていけば危ないのは誰…リリアでしょう。虫だけじゃなく、こういう時に何かをしでかしてくる連中が居そうなこの街で一番守らなきゃいけないのはリリアでしょう。もう少し待ちなさい。せめて、イリアスが帰ってくるまで」



そう言って、スノスノは飾ってあった斧を手に取り俺に渡してきた。


俺には重過ぎるそれは、サミルさんの愛斧にして伝説の魔斧と呼ばれるディアボロス。使い手を選ぶその武器は、サミルさん以外には到底扱えないものだ。



「サミルが動いている。他にも郊外では誰かが侵攻を食い止めてくれてる。私たちはタイミングよく参戦する…それだけよ。この街の英雄(サミル)のアシスト。それが私たちの役目よ」


「………分かった」



サミルさんに比べたら俺の力なんて何の役にも立たないのは分かってる。自警団の連中と比べてもそうだ。


せめて、ディアボロスを届けるくらいしか出来ない。

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