プロローグ
世界はそんなに優しいもんじゃない。
昔…といっても数年前、両手で数えられるほど昔、大きな大きな戦争があった。
きっかけとか理由とか、そんなものは子どもだった俺には分かるもんじゃないし、今でも理解しようとも思わない。したくもない。
ただ、多くの人が死んだ。俺の両親も含めて。
別に、戦争に参加したわけでもない。ただ襲われて犠牲になっただけ…それまでは普通の暮らしをしていたし、その日もその次の日も普通の暮らしが続くと思っていた。
俺の住む街が戦火に飲まれたのは戦争末期と呼ばれる頃、時間でいえば5年と少し前だった。
突然の魔王軍襲来。王都からは離れたアルクトの街は魔王領に近いわけでもなく戦術的にも戦略的にも拠点にする必要性すら無い場所…つまりは本当に田舎であった。
そんな街を魔王軍は侵略…いや、今考えると殲滅しようとした。火を放ち、無差別に襲う…ましてや、騎士団の分隊は戦争で駆り出され少数まで落ち込み、守りの為に残っていた騎士たちは真っ先に逃げ出した。
その災禍に抵抗出来たのは僅かばかりの冒険者と、何の技術もない勇気を持った一部の大人たちだけ。
それでも、被害は最小限に食い止められた。
街の半分を焼き、百数十人の犠牲で済んだと言えるのは、街の規模と被害の大きさ、そして侵攻してきた魔王軍の数量に対して奇跡に近いと称賛された。
だが、その奇跡に俺の両親は含まれなかった。むしろ、両親の犠牲無くして奇跡は起きなかったのだと今では割り切っている。
その奇跡の立役者は、両親の親友で俺からすれば幼馴染の両親…そして命の恩人。
その人たちは、それでも悔いている。俺の両親を守れなかった事を。それに対して俺は何も言えない。いや、言い尽くした上でもう言えない…
ただ、俺の目標にはなった。どうしようもなくガキだった自分を変えたいと願うほどには。
だから、今日も剣を振る。
ただがむしゃらに。
いつか来るかもしれない、大切な人たちを守れるかもしれない、そんな時に使えるちっぽけな力を手に入れる為に。
これは、そんな小さな願いの物語。