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夏休みの宿題

作者: 空峯 千代

 僕の父親は犯罪者だ。

 五年前に殺人の罪で投獄されて囚人となっている。

 父親が犯罪者なものだから、当然周囲からの風当たりはいつも冷たい。

 幾度も引っ越しを重ねてはいるが、母さんも僕も父が犯罪者であることが何かのきっかけでバレるといつも針の筵に立たされた。


 ようやくこの街に引っ越して一年になる。

 中学二年生の夏休み、僕は父親が本当に殺人を犯したのか調べてみることにした。

 友達が旅行や海に出掛けている間、僕は父の交友関係や事件の記録、当時の父の日記を調べていた。

 本当に父が犯罪者なのか、全く怒らない父が人を殺せるものなのか。ずっと疑問に感じていたのだ。

 蝉の声を聞きながら、明日も明後日も微かな希望を持って調べ続けた。

 けれど、結局証明されたことは父親が犯人であるということだった。


 夏休みも終わり、中学校の登校日。

 始業式を終えて校門を出ると、見覚えのある顔の人が僕を待っていた。

 その人は、父の幼馴染で「生涯親友だ」と父が明言していた人だった。

 父の親友は、僕を見つけるやいなやアスファルトの上で僕に土下座した。

 中学生の僕に大の大人が、何度も「申し訳ありませんでした」と謝罪する。

 通行人がこちらに奇異の視線を投げかける中、僕はこの人の謝罪の意味をじわじわと捉え始めていた。


 帰宅すると、パートに出掛ける前の母が作り置きのおかずをラップしているところだった。

 父の親友が「○○に罪を被せたのは僕です」と改めて告白した時、母は静かに泣いていた。母の背中をさすりながら、その告白に僕は何も思わなかった。

 父の日記を読んだ時、事件当時のページが破り捨てられていたから。その時、父は誰かをかばってるんじゃないかと、なんとなく思っていたのだ。

「自分が妻を殺したところを○○に見られて、咄嗟に罪を被せてしまった」と、父の親友は頭を下げた。謝罪を交えながら、当時のことを全て明かしてくれた。僕も母も、父の親友を責めることはなかった。

「自分はとんでもない不正行為を犯してしまった。本当に申し訳がなかった」

 もはや、父の親友は虚空に向かって謝罪しているように見えた。この人も、結局は赦されたいのだろう。けれど、僕にとっては一層不快だった。

 その後、父の親友に金銭の提案をされたが、「もう結構です」とだけ言って帰ってもらった。


 その夜、父の遺品を整理した。

 母に「父さんに会ってあげれば?」と言われながら、面会には一度も行かなかった。父は夏休みの間に他界した。

 僕は、父の部屋にあった日記やアルバムの写真をシュレッダーにかけていく。特別厚いアルバムを開くと、小さい頃の僕と両親が映っている写真が全ページに収まっていた。

 僕は、それらをシュレッダーにかけるかどうか躊躇してしまう。もう涼しい気温のはずなのに、身体が妙な熱を帯びた。

 結局、一冊のアルバムだけはそのまま残して寝室に戻った。

 僕が何をしても何があっても、眠れば勝手に朝は来る。

 夜が明ければ、夏も終わりを迎えるそうだ。




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