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禍積載

作者: 雨宮ヤスミ

前話→https://ncode.syosetu.com/n4532hs/

 

 

 セオドア鳴子(なるこ)のよるナル!


 この番組は、「一瞬一瞬の必死な生を」、平成ライデン出版の提供でお送りいたします。


 はい、始まりました。「セオドア鳴子のよるナル!」、MCのセオドア鳴子です。


 この番組は、平成ライデン出版が誇る作家陣を毎回ゲストに迎え、あんな話やこんな話を聞いて、作家に親しんでもらおうというインターネットラジオ番組でございまーっす。


 いや、はい。


 前回と前々回の放送、聞いていただけましたでしょうか?


 ねー、ホントに。疲れた、疲れましたよ。


 この番組ね、週二じゃないですか。二本録りなんですよ。一週間分録るんです、一気に。


 作家の先生の方がいる回と、いない回で収録一回みたいな感じで。基本は。


 でもね。先週は両方ゲスト回の週で。


 その両先生がね、先週聞いていただいた通りですけども。


 SFの春原エデン先生と、官能小説の蟻田伊太利亜で。


 お二人が親交があるということで。うちのディレクターQが。突発的に。


 ゲスト作家二人プラス僕という、イレギュラーな形にしやがりまして。


 まあまあそういうことで、前回前々回と、非常にハードな収録となりまして。


 ホントね、八時間ぐらい録ってるんですよ、アレ。一時間番組なのに。


 滅茶苦茶カットされてます。滅茶苦茶カットされてるけど、そのカットされてる部分の方がね、仕事量がすごい。


 何とかトークの態にね、持っていくのが大変でした。


 流れた分、あれでもね、頑張った方なんです。マジで。


 いやー、もう、疲れた。疲れました。疲れ切りました。


 ただでさえね、蟻田伊太利亜という、非常に取り留めのない話をしやがる疲れるゲストなのに。


 エデン先生もね、突然変なことぶっ込んできますしね。


 カットされたヤツだと、「セオドアさんはAIに仕事を奪われるじゃないですか」みたいな。


 いや、確定!? って。蟻田も蟻田で「小説家は奪われない」みたいな話を延々し始めるしで。


 あれはもうどうしようもなかったなあ……。なかったですよ、ホントに。


 そんなだからね、帰りの電車。爆睡で。もうそれはそれはしっかり寝てしまって。


 乗り過ごしましたね。2年ぶりに。


 皆さんも、仕事で疲れた帰り道はお気を付けください……。


 という感じで、まあ、どういう感じだって話ですけども、今夜も一時間やって行きましょう!


 はい、今夜のゲストです。


 平成ライデン出版はエビバディジャンプ文庫にて『会計令嬢の王宮事件シリーズ』が大好評の、お仕事小説作家・鬼柳朱鷺子(きりゅう・ときこ)先生です!


「こんばんは、よろしく」


 よろしくお願いします、鬼柳先生。


「お久しぶりね、鳴子さん。半年ぶりかしら?」


 そうですね、それぐらいですかね。前のゲスト予定回が、僕の体調不良で流れてしまって……。


「大変だったわね。牛乳にあたったとか……。消費期限はちゃんと見ておかないとダメよ」


 いや、それなんですけどね。あの時の牛乳かん、ちゃんと僕スーパーで新品買って作ったんですよ。昔失敗した消費期限一か月前の牛乳とかじゃないんですって。


 これはもうあれですよ、呪いですよ、呪い!


「自分のミスを呪いのせいにするのは、プロとしてどうかと思うわよ鳴子さん」


 いやいや、ホントに呪いですよ。そのせいで第266回、欠番になったんですから。


「それも大袈裟な処置だと思うけれど……。まあ、あの子だものね……」


 あの子、ですか?


「ああ、こっちの話……。そうね、少しできたらいいわね。夏だものね。マーケティング的には有効か……」


 何だか気になる感じですが、一旦お知らせの後うかがっていきましょう。




 はい、ということで。


 今夜は『会計令嬢の王宮事件』シリーズでおなじみの、鬼柳朱鷺子先生に来ていただいています。


 普段であれば新作について語っていただくところなんですが……。


「新作が出たのは2か月前、ちょうどこのラジオが休止していた期間にあたるわね」


 すんません、ホント! ゲストにお呼びする時期がズレてしまいまして!


「いいわ、新刊も好調だったから。それよりも、今日はこの時期にふさわしい話をしようと思うのだけれど」


 ということに、CMの間に打ち合わせまして。


「そういう裏事情は軽々しく口にするものではないわよ」


 まあまあ、うちのラジオはそれもご愛嬌という感じでやってますんで。


 それで、この時期にふさわしい話というのが……。


「ええ、少し心霊的な経験をしたのよ、珍しく」


 鬼柳先生ってそういうのあまり信じてらっしゃらない方ですもんね。


「そうね。心霊現象の九割九分九厘九毛までは、錯覚や思い違いだと考えているわ」


 だけど、その一毛に出くわした、と。そういうお話なんですよね。


「そうなの。あれには、流石のわたしも少し肝が冷えたわ」


 では、存分に語っていただきましょう!


「……何この、二昔前でも古臭いと嘲笑われそうなジングル?」


 すんません、ディレクターのセンスが古いんです。


「令和の時代にヒュードロドロもないのよ、まったく。出鼻をくじかれた気分だわ」


 後で言って聞かせておくので、始めちゃってください。


「はあ……。あれはちょうど二週間ばかり前の話よ。わたしは平成ライデンで書いている女性作家の、コミュニティを主宰しているのだけれど」


 コミュニティですか?


「ええ。平成ライデンは女性作家の起用数が少ないと思わない? わたしが書いているエビバディジャンプ文庫なんて、男性8に対して女性2の割合なのよ?」


 エビバディジャンプ文庫はお仕事小説を集めた都合上、脱サラや兼業の男性作家さんが多いですからねえ。


「そこよ! 仕事は男のものというジェンダー意識がはびこっているんだわ!」


 いやでも、橘田(きった)きっか先生が書いてらっしゃるエクストリーム文庫は10割女性作家じゃないですか。ジャンル次第なんじゃ……。


「ボーイズラブは女性のものだから当然よ。何を言っているの?」


 思想が強いんだよなあ……。


 まあそれはともかく、コミュニティを主宰していて、どうかされたんですか?


「コホン、そうね。この話は後半にたっぷりやらせてもらうわ」


 よし、今日の後半は絶対コーナー入れよう。


「そのコミュニティに属している、わたしを含めた三人の作家が、ちょうど脱稿のタイミングが同時に来たから、久しぶりに会合をしようということになったのよ」


 ほう、なるほど。鬼柳先生と他の二人の作家先生で会おう、ということになったんですね。


 ちなみに会合ってどんなことをするんです?


「脱稿を祝した飲酒ありの食事会を催したわ。居酒屋で、三時間の飲み放題デザート付き3600円のコースを予約したの。その後、二次会はカラオケよ」


 ただの飲み会じゃないですか! しかも割とお手頃価格の!


「そうとも言うわね」


 それで、他の二人の作家さんというのが……。


「BL作家の橘田きっかさんと、ホラー作家の香月寝々(かづき・ねね)さんよ」


 うわ出た、寝々先生!


「CM中の打ち合わせと同じ反応ね」


 そういう舞台裏は明かさない方がいいとか言ってませんでしたっけ?


「舞台裏を明かすのもご愛嬌と言ったのはあなたよ、鳴子さん」


 まあそうですけど。それで、その三人で飲み会ですか……。鬼柳先生ってお酒はお強いんでしたっけ?


「たしなむ程度ね。ちなみに、きっかさんはザルで甘いお酒をガバガバ飲んでいたわ。寝々さんは3時間かけてようやくビールジョッキを一つ空にしていたわね」


 うわー……、なんか寝々先生あざといですね。


「そうね。顔を真っ赤にしながら何とか飲み干す姿に、わたしも未知の扉が開きかけたわ」


 それで、飲み会の時に……。


「会合よ」


 ……会合の時に何か起こったんですか?


「いいえ。この時は特段妙な現象は起こらなかったわ。きっかさんが一人で今期のアニメで一番萌えるカップリングについて語り、わたしが現代日本社会におけるジェンダーギャップとその是正についてひとしきり私見を述べるのを、寝々さんがニコニコしながら聞いてくれるという、いつもの感じだったわ」


 地獄じゃないですか。


「有意義な時間よ。ただ、それも3時間で切り上げないといけなかったから、わたし達はカラオケに移動したの。21時ごろだったかしら」


 6時から飲んでたんですね。


「カラオケはどこも混み合っていたわ。当初予定していた居酒屋近くの店はいっぱいだったから、ちょっと足を延ばして幹線道路沿いの店に行ったの。そこも受付には2、3組が待ってたけど、あまり待たずに入れそうだったから、そのまま受付することにしたわ」


 まあ夏休みですもんね。


「寝々さんが少しふらふらしていたしね。……あの子って普段は20時には寝ているんだけど」


 朝4時に起きるおばあちゃんみたいな生活リズムなんでしたっけ。


「そうね、酔いと眠気でつらかったんでしょうね。待合用のソファに座ってもらって、わたしときっかさんで入店の受付を済ませたの。今度はフリータイムよ」


 徹カラじゃないですか。楽しそうですね。


「そうなんだけど……」


 そこで何かあったんですか?


「ええ。まず、不届き者が現れたのよ。わたしたちが戻ってきたら、ソファに座っている寝々さんに、5人ぐらいの男ばかりの集団が話しかけてたのよ」


 ええー、ナンパですか?


「きっとそうね。『自分たちはYoutuberで~』とか言っていたわ。ロクなものじゃないわね」


 それで、どうされたんですか?


「当然、寝々さんを助けに行ったわ。男の腕をガッと掴んで割って入って『やめろ!』って」


 おおー。鬼柳先生、勇気ありますね。


「……やったのはきっかさんよ。わたしは怖いから遠巻きに見てた」


 ま、まあ、危ないですからね。それもいい判断だと思います。


「それできっかさん、『どうして自分たちのグループの中で恋愛しないんですか!?』って滅茶苦茶大きい声で食って掛かってて」


 男5人に!?


「そうしたらYoutuberの集団も怯んで離れていったわ」


 そりゃ怯みますわね。僕でも逃げますよ。


「怖かったわね、ってわたしが寝々さんを慰めて」


 言っちゃ悪いですけど、鬼柳先生おいしいところだけ持って行ってません?


「わたしもちょっとそれは思ったけど、きっかさんが興奮して『ねえ何で!?』とかまだ言ってるから、わたしがやるしかなかったのよ……」


 それは……、失礼しました。


「分かってくれたようでうれしいわ」


 寝々先生はどんな様子でした?


「何だかふわふわしてたわ。いつもに増して。『違いますよー』とか言って」


 違う、ですか。


「意味が分からなかったし、ふらふらしてたからスルーしたの。酔いと寝ぼけかな、みたいな感じで。その後、30分くらいで部屋に入れたのだけれど」


 なんか楽しい気分が台無しになりますよね、そんなことがあると。


「そうよ! ナンパしてる方はいいんだろうけど、される側はたまったものじゃないわ!

 断るのだって体力がいるし、何よりも見ず知らずの人間に声をかけられるのってすごいストレスなのよ? ホントにバカが多いわ……と憤っていたのだけれど」


 けれど?


「いえ、今はいいわ。とりあえず歌って発散して……」


 みなさん、どんな歌を歌われるんです?


「わたしは色々よ。ただ、学生時代に流行っていた曲が多いわね。きっかさんはアニソンとか、最近はラップみたいなのをよく歌ってるわね」


 寝々先生は?


「聞く専門よ。全然知ってる歌がないらしくて」


 あー、なんかイメージわきますね。


「以前、一回だけ歌ってくれたんだけど」


 え、何を歌ったんです?


「般若心経」


 歌か……?


「議論が分かれるところね。ともかく、そんな感じで二時間ほど過ごしたころに、きっかさんのスマホに着信があって」


 宴もたけなわの時ですね。


「そうなのよ。部屋を出て電話を受けて戻ってきたきっかさんの顔が青ざめてて」


 おーっと……、何があったんです?


「『すいません、別名義でやってる全年齢の方の原稿、今日が締め切りでした! 帰らないと!』って慌てて荷物まとめて……」


 あぁ、そっちか……。


 きっか先生、児童向け小説も別名義で書いてらっしゃるんですよね。


「そうなのよ。BLの方の脱稿の解放感でコロッと忘れてたみたいで……」


 締め切り今日って、間に合ったんですかね……、あ、悲しげに首を横に振りましたね……。


「というわけで、そこから寝々さんと二人きりになったんだけど」


 そうなると、鬼柳先生が一人でひたすら歌うことになりません?


「ええ。しかも寝々さんたら眠っているのよ。きっかさんなんてすごく激しいラップを歌っていたのに、その中でもスヤスヤと」


 もうおねむの時間だったんでしょうね。


「ええ。日付も回っていたし、しょうがないかと思って。フリータイムで入っているから、帰るのももったいない感じがするし、わたしも少し眠気が来ていたから、一休みすることにしたの」


 まあソファありますもんね、カラオケ屋って。僕も学生時代に終電逃して帰れなくなって、カラオケ屋やネカフェに泊まるなんてこともやってました。


「わたしもしていたわ、そういうこと。それで、うとうととして……、2時くらいかしらね、ふと話し声で目が覚めたの」


 話し声ですか? 部屋に二人きりなのに?


「そうなの。でも、わたし以外の誰かがしゃべっている気配があったの。一つは寝々さんだとすぐに分かったんだけど、ほかは何だか判然としなくて……」


 きっか先生が帰ってきたとか、でもなくてですか?


「一瞬そうかとも思ったんだけど、違ったの。ズーンと、何だか重たい空気になってて。寝るからって音を消したテレビの灯りも、何だかぼんやりしていて」


 部屋の雰囲気が変わってたんですね。


「うん……。それで、薄っすら目を開けたら、テーブルを挟んだ向かいのソファで、寝々さんが隣にしゃべりかけているんだけど……」


 隣。


「寝々さん、ソファの端に座ってて、その隣はガランと全部空いてるの」


 席が、ってことですか?


「そう。ガランとした虚空に向かってずっとしゃべってるのよ。

 しかも、独り言じゃなくて、会話が成立しているみたいなの。

 何か空気が震えてるみたいな気配の後に、『そうですねー』とか『はいはい』とか、寝々さんが主に相槌を打っているのよ」


 ええー、怖ッッ!? 何なんですか、それ。


「わたしもゾッとして。バッと飛び起きて『寝々さん!』って呼びかけたのよ」


 よく声かけられましたね……。


「何かもうたまらなくって。そしたら、パッと部屋の空気が変わって。澱んで重たい感じだったのが、ふっと軽くなって」


 はあー。で、寝々先生は?


「『何ですかー?』って、もう不気味なくらいにいつもの調子でこっちを向くのよ。

 それでわたしが『何と話してたの』って聞いたら、何の臆面もなくこう言うのよ。

 『死んだ人ですけど』って」


 怖い怖い怖い。何ですか、それ!?


「『幽霊ってことなの?』って聞いたら、『俗に言うそれです』って。

 『ここで死んだ人なの?』『違うみたいでした』『じゃあ何でここにいんの!?』って」


 何でいたんですか?


「『さっき受付にいた男の人たちが連れてきたんです』って言うのよ」


 あのナンパしてきた自称Youtuberですか!?


「そう。そしたら、部屋のドアがキィって開いて。勝手に。誰も触ってないのに」


 いや、カラオケの部屋のドアって、そんな簡単に開かないでしょ!?


「でしょ? なのに勝手に人一人分通れるぐらいに開いて、またしばらくして勝手に閉まったのよ。まるで誰かが外に出て行ったみたいに」


 うわー……。生きた心地しなかったでしょ、そんなの……。


「しなかった。自分でも分かるぐらい震えてて。それなのに、寝々さんはニコニコしてるのよ」


 ニコニコしてるんですか。


「もう『平っ然っ』としてて。それなもんだから、ちょっとこっちも腹が立ってきて」


 わたしがこんなに怖いのに何平気な顔してんだよ、って。


「そうそう。それで『何なのか説明して!』って言ったら」


 言ったら?


「どうもね、あのYoutuberの5人組、別に寝々さんをナンパしようとしてたわけじゃなくて、寝々さんから声をかけたみたいなのよ」


 ええー!? じゃあナンパは冤罪じゃないですか!


「そうだったのよ。寝々さんが言うには、『死んでる女の子がずーっと五人の後ろにいたから、気になって話しかけた』らしいのよ」


 ああー、見える人だから、寝々先生。


「そう言ってるわよね。それで、あのYoutuberはどうも心霊スポットとかに立ち入って撮影するタイプの輩だったらしく」


 いやいや、輩て。


「輩でしょ。許可取ってるか分かったもんじゃないんだから。それで、このカラオケに来る前にも撮影してて、そこでどうも憑いたものらしいのよ」


 はあー、なるほど。で、撮影帰りにカラオケで打ち上げしようとしてた、って感じですかね。


「多分ね。それで、その女の子の幽霊が、自分のことが見えた寝々さんを頼ってさっきやって来て、それでちょっと話してたらしいのよ」


 はいはいはい、なるほど。幽霊に頼られるんですね、あの人。


「あんな頼んない感じなのにね。で、何とかその居場所だった廃墟に帰れないか説得? みたいなことを寝々さんはしていたそうなんだけど」


 けど?


「『あの男の人たち、女の子の大切なものを持ち帰ったらしいんですよー』って。

 『だから、男の人たちがちゃんとそれを返すまでは、取り憑かれるのはしょうがないかなあって思っちゃって』って、寝々さんそう言うのよ」


 あー、何か持ち出してるんですね、廃墟から、Youtuberの男たちが。それで、幽霊は取り戻したくて憑いてきてると。


「そう。だったら、あの連中を説得して大事なものとやらを戻しに行かせたらいいじゃない。わたしはそう思ったから、寝々さんに『男たちの部屋、探しに行かない?』って提案したの。一緒ぐらいの時間に入ってるわけだし、オールかなと思って」


 おおー、鬼柳先生勇気ありますね。男ども5人の部屋に突入しようとするなんて。


「だって仕方ないでしょ。ここで頑張らないと寝覚めが悪いし」


 それで、行ったんですか?


「探したんだけど、見つからなくて。しょうがなく店員さんに聞いたの。実は知り合いなんだけど、みたいな嘘ついて」


 ほうほう。そしたら、なんて?


「こう言うのよ。『ついさっき、えらく慌てた様子で帰られましたよ』って」


 慌てて帰った?


「うん。多分なんだけど、わたしたちの部屋から出たあの女の幽霊が、Youtuberどもの部屋に出たんじゃないかって思うのよ」


 実力行使に出た、的な?


「そんな感じなのかしら。まあ、その日はそれで終わって、後日きっかさんに『あのナンパ男ども実は……』って話したんだけど」


 はいはい。


「そしたら『え、あれ幽霊だったんですか!?』って言うのよ」


 はい?


「どうもね、最初からきっかさんには、男ばっかり5人組じゃなくて、男女混合グループに見えてたらしいのよ」


 あー、男5女1の6人組に……。


「いいえ。男5女5の10人のグループに見えてたらしいわ」


 はあ!? えっ、あっ、そんなにいたんですか……。


「らしいわ。だから『グループの中で恋愛しないんですか!』ってきっかさん言ったみたいね。だとしてもどうかと思うけど」


 じゃあ、カラオケの部屋に入ってきてたのも……。


「ええ。寝々さん曰く、あの時あの部屋には5人の幽霊がいたそうよ。道理で部屋の雰囲気が重たかったわけだわ」


 何というか……、この蒸し暑い中で心底冷えるお話、ありがとうございました。


「いいえ。わたしも、どうにも消化しきれない体験だったから。話して少し楽になれたわ」


 ちなみにこれ、僕やリスナーさんに変なこと、起きませんよね?


「さあ? そこはわたしが関知できるところではないから……」


 ちょっと、やめてくださいよ? また放送休止になるのは嫌ですからね! ……って、おおっと、もうこんな時間か。


 では、CMの後はお待ちかねのあのコーナー、「ズル休み! 大人の深夜相談室」です。


「ちょっと! 平成ライデン作家陣のジェンダーギャップについて語る時間は……!?」


 まあ、それはおいおい時間があればやっていただいて……、一旦CMです!




(以下略)




軽自動車が路側帯に突っ込む Youtuberと見られる5人死亡


 10日午前2時30分ごろ、○○市の国道で軽自動車一台が路側帯に突っ込んで横転、乗っていた5人は病院に搬送されたが、死亡が確認された。


 軽自動車に乗っていたのは、派遣社員の××××さん(24)とその友人ら4人で、××さんらは廃墟探訪Youtuberとして活動しており、撮影の帰り道と見られる。


 近くを走っていた車のドライブレコーダーの映像によると、事故に遭った車は車線内を蛇行しながら走行した後、横滑りを起こしながら路側帯に突っ込み横転した。


 現場は見通しのよい片側二車線の道路、事故を起こした軽自動車は4人乗りで、人数オーバーによって車体が重くなっていたことから、警察はハンドル操作のミスが原因と見て捜査を進めている。




〈禍積載 了〉

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― 新着の感想 ―
あ~~~…、タイトル「過積載」…。そっかぁ…。 さて。死んだ女の子5人が憑いてくる、廃墟に有った何かって何だろう? うーん、この子達が5人姉妹だとして、火事とか地震で亡くなり…、いや家屋が残らな…
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