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3 メイド服、着てみる? 5

 俺は黒く焦げた鍋とフライパンを洗いながら溜息を付いた。

 あの後、警察官三人は秋月さんと話していたが、10分もしないうちに引き上げていった。彼女にそんな交渉力があったとは意外である。

 ただちょっと引っかかるのは、出て行く警察官が三人とも、俺を見て何だか憐れむような目をしていたことだ。秋月さんは俺について何て言ったんだろうなあ。


 やっと黒焦げを取り終わった鍋達を食器棚に戻していた時、ふと昔の記憶が蘇った。

 そういえば俺が小さい頃は、よく母親がカレーを作ってくれた。俺はそのカレーが大好きで、何杯もお代わりしたことをよく覚えている。

 だがその母親は俺が中1の頃、男を作って出て行ってしまったため、それからは俺が父と妹のために料理を作るようになった。

「(あの極めて冒涜的で退廃的な物体をカレーと定義することが出来るのならば)また、俺にカレーを作ってくれる人が現れるなんて、な」

「どうしたの?」

 気が付くと秋月さんが横にいた。まだドスケベメイドのままであったので、不可抗力で胸に視線が行ってしまう。


「いや、昔母親が作ってくれたカレーが好きだったんだけど、今日のことでそれを思い出してさ」

 すると秋月さんは俺の顔を下からじっと覗き込み、近づいてきた。皆さん思い出して頂きたい、私はマイクロビキニを装着している。故にこんなおっぱい大きい女子が近づいてきたら南半球で火山の隆起が観測される可能性がある。

「ちょ、秋月さん……?」

 俺が離れようとすると、秋月さんは右手のひらを俺に差し出した。

 彼女の手には、カレー(と呼ばれし忌み子)が周囲を歪ませる瘴気を放ちながら圧倒的な存在感を放っていった。

「これ、食べて」

「殺す気か?」

「お母さんのカレーの代わりにはならないかもしれないけれど」

「何でちょっと恩着せがましいんだよ」


 すると秋月さんはカレー(仮)を、まるで祈るシスターのように両手で包み込み、言った。

「美味しくなーれ、萌え萌えキュン」

 冷めていた俺の両目が、その瞬間熱で滾った。

 そ、それは! メイドカフェとかでそれなりの金額を払わないと聞けないという聖なる呪文! それをこんな巨乳でエロい格好した美少女メイドから一対一で聞けるなんて! 

「食べて」

 秋月さんが再び例のブツを差し出してくる。

「萌え萌えパワー美味しくなったよ」

「無理だよ」


 だが、秋月さんが「これ」を俺のために作ってくれたのは事実である。それならば、ここで食べねば男がすたる!

 俺は意を決して「それ」を口に放り込んだ。

 母がよく作ってくれたカレー。

 母以外の人が初めて作ってくれたカレー。

 俺の彼女が作ってくれた、カレー。

「どう? 味は」

「しょっぱ」




おわり

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