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3 メイド服、着てみる? 4

 

 ジュッ! と水が瞬時に蒸発する音と共に勢いよく上がった炎だが、その後直ぐに反乱は弱体化していき、沈静化した。

「あ、危なかった……」

 俺が息をついた、その時。

 ボン! と鼓膜を震わす破裂音。そう、俺は消火に夢中で隣に†漆黒の反乱分子†(ゴボウ)が身を潜めていることをすっかり忘れていたのだ。

 黒い塊の流星群が俺の背中に飛来する。

「あっっっっっっっっっっつうううううううううううううう!!!!!」

 先程秋月さんを庇った時とは比にならない程の熱さが、俺の無防備な肌に張り付く。


 あまりの熱量に俺は足を滑らせ、キッチンの床をのたうちまわった。傍から見たら、マイクロビキニを着た変態が、バッドトリップしたトドの真似をする芸に見えるだろう。

 だが当の俺は涙が出るほど熱くてぴえんぴえんなのであった。

「武岡くん、動かないで」

 いつになく真面目な秋月さんの声。秋月さん、まさか俺を心配してくれてるのか!?


 俺が産卵するウミガメのようなポーズでプルプル震えながら耐えていると、ハシを右手に秋月さんがスーッと俺の横に滑り込み、俺の背中と自分の口の間でハシを往復させ始めた。

 彼女は身体に引っ付いたゴボウをパクパク食べ始めたのだ。


「何食ってんだ秋月いいいいいいいいい!!」

「私達の努力の結晶」

「憎悪の塊だろ!!」

「でもあまり美味しくない。武岡くんの努力が足りないから」

「ふざけんなよ変態!!!」

「そんな好き好んでマイクロビキニ着てる人に変態って言われても」

「くそお!!」


 その時、俺の尻がヌルンとした感覚に撫でられた。濡れた感触。直後に冷感。

 またゴボウか醤油が飛んできた? いやそれにしては温すぎる。それに、何だこの独特の柔らかさ。

 再びヌルン、と一回。いや、ヌルンヌルンと何度も俺の尻を撫で始めた。

 違う。文字通り、舐め回されている。

「あ、秋月さん?」


 返答がない。代わりにぺちゃ、ぺちゃ、と俺の尻を舌の這う音が響いてくる。こ、これが秋月さんの答え? 「私、すごく料理が下手で武岡くんに迷惑掛けちゃったから、お詫びに武岡くんのお尻舐め舐めするね」という彼女からのメッセージ!?

 俺の頭の中で想像力が弾ける。

 前に垂れ下がりそうになる髪を耳にかき上げる秋月さん。そして恥ずかしそうに口を開け、俺の尻に何度も舌を這わせる秋月さん。

「んはああ! 秋月さん!」


 俺は堪らず尻の方を向いた。

 黒い毛むくじゃらの生き物が俺の尻を舐めている。

 中型犬クラスで、体毛は黒く瞳は丸くてつぶら。だったら犬に似ているのかと言われたら全く違う。顔が異様に細長く、その先端から、さらに細長い舌をペロンペロン出し入れして、俺の尻を舐めていたのである。

「何だこれ!!?」


「オオアリクイ」

「オオアリクイ!?」

「私が飼ってるオオアリクイ」

「私が飼ってるオオアリクイ!?」

「男の尻を舐めることが大好きなオオアリクイ」

「男の尻を舐めることが大好きなオオアリクイ!!?」

「八丈島で父さんの尻を舐めていたオオアリクイ」

「八丈島で父さんの尻を舐めていたオオアリクイ!!!?」

「あの夏の夜、八丈島で父さんの尻を舐めていたオオアリクイ」

「あの夏の夜、八丈島で父さんの尻を舐めていたオオアリクイ!!?」

「オオアリクイにお尻を舐められながら父さんは言った。『父さんとお前は本当の親子ではないんだ』」

「どういう状況でカミングアウトしてるんだよ!!」

「私は心底ホッとした」

「だろうね!」


 秋月さんは、スマホのカメラで俺の尻を舐めるアリクイを撮りながら、何の感情も込めず俺の返答に答えるだけだ。何この情報社会に相応しき情報過多な状況。



「ちょっと待て秋月さん! 色々言いたいことありすぎるけど何撮ってんの!?」

「そりゃアリクイが人間の尻舐めてたら撮るよ」

「確かに」

 いや確かにじゃねえ!

「しかもマイクロビキニを着た男が舐められているんだから学術的価値が高いよ」

「確かに」

 いや確かにじゃねえ! 何の学問だよ!

「ってか撮らないでよ! もしその動画が世に出回ったら代わりに俺もう外歩けなくなるよ!!」

「心配しなくてもネットに拡散したりしない。東●大学に動画をデータとして送るだけ」

「確かなエビデンスと共に世界に発表させる気満々じゃねえか!!」


 ちなみに依然として俺の尻はアリクイにベロンベロン舐められ続けている。

「ちょっと秋月さん、飼い主なら止めてよ!」

「無理。こうなったら全ての塩分を舐め尽くすまで止まらない」

「何でお前のアリクイバーサーカーなんだよ! それに俺の尻に塩分なんて」

「さっき私が塩をふっておいた」

「お前のせいじゃねえか!!!」


 その時、玄関のドアが開き、ドタドタと数人が入ってくる音が聞こえた。

「警察です。先程争うような大声が聞こえたとの通報が……」


 3人の警察達が、俺を見て固まった。みんな目も口をあんぐり開いている。

 何をそんなに困惑してるんだ。マイクロビキニを着た男が四つん這いで尻をオオアリクイに舐められてるだけじゃないか。

 しばらくして、そのうちの年長者が俺の前にかがみ込み、優しく言った。

「ちょっと、署で話そうか」

 待ってええええ!!!!

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