3 メイド服、着てみる? 3
何なりと? 何なりとと申したな? つまりおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとかおっぱい揉ませてとか
いやいや何を言ってるんだ俺は! おっぱいなら自分のを揉めばいいじゃないか! ちょうどマイクロビキニ着てるんだし!
俺は沸騰しそうになる自分の脳を必死に冷却しようと試みた。だがクラス一の美少女がメイド服を着て「何なりとお申し付け下さい」なんて宣った日には建国記念日である。
だが待て! 待つんだ! 俺はここで秋月さんに嫌われるわけにはいかない! 抑えろ! 自分の中の猿を抑えるんだ!
「ねえ」
いつにもまして秋月さんの声が扇情的……に聞こえた。
「何でも言って良いよ。私は武岡くん専属メイドだよ」
「おっぱ」
「え?」
危ねえ!! こうなったら変なこと口走る前に言うしかねえ!
俺は必死に無難なセリフを探した。
「じゃ、じゃあ秋月さん、この部屋を掃除してくれる、かな?」
「気安く命令しないで」
「何で!!?」
いや秋月さんが「お申し付け下さい」とか「私は武岡くん専属のご奉仕ドスケベメイドだよ。エッチな命令でも何でも聞くよ。この戦いが終わったら一緒に潮干狩りしようね」って言ったんじゃないか! 何この地上100階で急にハシゴ外される気分!
「メイドにも仕事を選ぶ権利がある」
秋月さんは機敏にソファへ移動すると、ポテチの袋をスパコン開けてパリパリ食べ始めた。何で休むときだけそんなキビキビ動くんだよ。あと
「そのポテチ俺の部屋にあったやつじゃない?」
「それが何か?」
「お前は何をそんなに落ち着いてるの?」
「さあ、私の出来る範囲で良いから何なりとお申し付け下さい」
「じゃあ先ず食うのを止めろ」
「それは出来かねる」
「何でだよ!」
相変わらずパリパリポテチを食べている秋月さんを見ていると溜息が出そうになる。
「それならさ、料理とかしてくれない?」
急に秋月さんが立ち上がった。胸の揺れで俺の息子も立ち上がりそうになる。
「かしこまりました」
彼女はすたすたキッチンの方に歩いていく。おや? 掃除するのは嫌なのに、料理となるとかなり乗り気だぞ。もしかして料理の腕によっぽど自信があるのか?
「何か食べたいものはある?」
「うーん、カレー、かな。あ、でも今うちの冷蔵庫に醤油とごぼうとオリーブオイルしか無いよ」
「ではそれらの食材でカレーを作っていきます」
「どうやって!?」
もしかして錬金術師の方ですか?
意気揚々と冷蔵庫を開き、なけなしの食材を取り出している秋月さんを見ていると段々不安になってきた。
「あ、秋月さんって、普段料理、するの…?」
「任せて。家庭科の調理実習には毎回参加していた」
「それ年数回のレアイベントじゃねえか」
「そして私は調理実習の度、爆弾魔、死神、切り裂きジャック、撃墜王などと異名を取っていた」
「駄目じゃねえか! 何で全部人殺す系の異名なんだよ!!! どんな狂気を生み出してきたんだお前は!!」
「狂気とは言えないかもしれないけど、私の料理はよく爆発する」
「本当の爆弾魔じゃねえか!」
しかし秋月さんは俺の声など気にもせず、ガチャグチャやかましい音を鳴らしながら準備に取り掛かった。いや実質食材ごぼうだけで何を作る気なんだこの子は。
秋月さんは2つ並んだクッキングヒーターにそれぞれフライパンと鍋を置き、ガリりりリリリとフルスロットルで両方強火までひねり切った。開始数秒で既に爆弾魔の片鱗が見て取れるのは流石である。
「ちょ、秋月さん、止めたほうが」
「武岡くんは手を出さないで。お料理メイドの私が絶対美味しいカレーを作ってあげる」
「先ず君が作ってるのは料理じゃないよ秋月さん」
「では早速ルーを強火でぐちゃぐちゃにしていきます」
「お料理メイドが絶対口にしてはならないこと言い出した!」
「あ、でもルーが無いので醤油で代用していきます」
秋月さんは醤油の容器を真っ逆さまにし、まるで風呂に水を貯める勢いでドヴァドヴァ黒い液体を投入し始めた。
「いや待って秋月さん!! これ絶対ルーの代わりにならないよ! 醤油の焼死体ができるだけだよ秋月さん!!」
「大丈夫、料理は愛で作るものだから」
「愛のある人間はルーの代わりに醤油炒めたりしねえ!」
「さて、このゴボウも醤油の中に投入していきます。理由は細長くて何だか腹が立つからです」
「何が愛だよ! 憎悪の塊じゃねえか!」
「そして隣の鍋にはバランスを取るためオリーブオイルを敷いていきます」
急に俺の方に向き直る秋月さん。
「さ、後は出来上がりを待つだけ」
「いやこのままだと敗北感の具現化みたいなのが出来上がるよ秋月さん!」
「向こうで脱衣麻雀でもしよう」
「俺始まる前に負けてるんだが!!」
その時、ポン! と何かが弾ける音がした。決して向こうで麻雀してたわけではない。
「危ない!」
俺は咄嗟に秋月さんに覆いかぶさった。次の瞬間、予想通り俺の背中に焼け付くような痛みが走る。先程不本意な理由で炒められていたゴボウの反乱である。
「武岡くん……」
その言葉にハッとする。途端に秋月さんの甘い匂いと柔らかさが全身で感じられるようになった。マイクロビキニを着てて良かったなんて思うときが来るなんて……。
いや違う違う! 守るためとは言え、秋月さんに抱きついてしまった! よく考えたらマイクロビキニ姿の男が覆いかぶさる方がよっぽど危ない。怒られる!
しかし、俺に抱きしめられたままの秋月さんは全く抵抗してこない。あれ?
「あ、秋月さん……?」
俺はゆっくり秋月さんから離れる。彼女はじっと俺の方を見ている。え? も、もしかして、嫌じゃなかった? というか俺に抱きしめられるのを、受け入れてくれてる?
「武岡くん」
秋月さんが俺の後ろを指差し、言った。
「火」
「ひ?」
俺が秋月さんが指差す方を、向いた瞬間、
紅蓮の炎が両目に渦巻いた。
どういう原理か分からないが、秋月さんがわけもなく油を敷いた鍋から天を衝く勢いで炎が立ち上っている。爆弾魔というより放火魔である。
「おわああ!!!!」
俺はクッキングヒーターの電源をねじ切る勢いで切り脱衣所に走りタオルを濡らして戻ってきて鍋の中に投入した。