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14 仇討ち、してみる? 4

 帰りの電車の中で、俺は坂根のことを秋月さんに話すかどうか迷っていた。

 坂根から未だに執着されていることを知ったら秋月さんは怯えるだろう。しかし用心してもらうためには、この情報を伝えた方が良いと思える。

「ただいま」

 結局結論の出ないままマンションに帰ってきた俺は、出来るだけ明るい声で言った。

 時刻は18時を回っている。いつもなら秋月さんは居間のテーブルに張り付いてノートPCとにらめっこしているところだ。

 が、返事がない。

「秋月さん?」

 やはり返事はなく、電気を付けてみたが誰の気配もしない。今日は自分の部屋に居るんだろうか。

「大変だ!」

 突然、寝室のドアが開き、一匹の羊がドタドタぶっ飛んできた。

「う、うわああああああ!! ミーンミンミンミンミン!!」

 俺はあまりに驚いて、壁と壁の間に忍者のように張り付いて、そのままセミのように鳴き始めてしまっていた。

「いや驚いている場合じゃないぞ!」

「驚くわ!」

「羊が喋るくらい何だ!」

「そこじゃなくて!!」

 先程俺はこいつのことを便宜上「羊」と形容したが、実際は体は羊、頭は男の人面羊「の置物」のはずである。以前父さんが来た時、秋月さんが部屋中に置いていったものだ。

 俺はこいつを何度も何度も捨てようとしたのだが、捨てても捨てても外から返ってくるといつの間にか俺の部屋に鎮座しているという呪いの人形ムーブをかますので、しょうがないからオブジェクトとして置いておいたものだ。

 なるほど、こいつ実は生きてたから何度も戻ってきてたのか、なんて悠長に納得している場合ではない。


「秋月さんが……秋月さんが攫われた!」

「は?! 誰に!」

「ついさっき、屈強そうな男二人組がニヤニヤしながら入ってきて……」

「入ってきて……?」

 まさか、無理やり秋月さんを?

「その男二人は服を脱ぎながら秋月さんの前で濃厚な絡み合いを始めた」

「……え?」

「やがて二人は全裸になり、激しく絡み合いながら家を出ていった」

「出て行ったのかよ! 何だそのクレイアニメーションみたいな連中は! じゃあ何なんだこの話!!」

「眼の前で繰り広げられたBLに興奮した秋月さんはその男たちに付いていってしまったんだ!」

「めちゃくちゃ自分の意思で欲望の赴くままに付いて行ってるじゃねえか!」

 俺は不安を全部吐き出すかのように、大きなため息を付いた。

「じゃあもう良いよ放っといて。飽きたらそのうちお腹空かせて帰ってくるだろ」

「実はそうもいかない。男たちが一通の手紙を差し出してきた。差し出し人は……坂根里奈」

「坂根?」

 その名前を聞いた瞬間、体内が、一気に嫌な予感で満たされてきた。

「これを、お前に渡せと言われた」

「で、その手紙はどこに」

「俺が食べた」

「食ってんじゃねえよ!!!!! って羊が喋ったああああああああああああああ!!!!!」

「今?」


 不意にスマホが鳴った。着信。相手はーー

 坂根里奈。

「もしもし」

「ふふっ、もう家に帰ってる? どうかしら、家の様子は」

「顔面が人間の羊が喋ったし手紙食ってた」

「どういうこと!? 何があったの!?」

「それはこっちの台詞だあ!!!」

「いや私の台詞でもあるわよ!」

「そんなことはどうでも良い! 秋月さんをどこへやった!」

「ふふっ、物分りが良くて助かるわ。あなたの予想通り秋月八宵は私のところに居る。あなたのために面白い余興を用意したの。今から住所を送るから、是非来てくれないかしら」

「分かった! 行くから秋月さんには何もしないと約束しろ! うちにいる羊一頭をお前にやるから!」

「いらない」


 住所が送られてくるより前に俺は転がるようにマンションを出て、闇の濃くなってきた街を疾走した。

 秋月さん、どうか、どうか無事でいてくれ!!

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