13 告白、してみる? 3
「おわあ!」
彼女の近づく気配を全く感じられなかった俺は驚いて飛び退く。
「あ、秋月さん、びっくりさせないでよ!」
秋月さんは眼鏡を掛け直し、俺を見つめる。
「それはこっちの台詞。武岡くんが途中で通話を切ったせいで、住吉くんが『好きだ』と言った後どうなったのか全く分からなかった」
「あ、そ、それは……」
「あの後、住吉くんはもちろん武岡くんのことが好きって告白してきたんだよね?」
「あ、あー」
思ったより早く挽回のチャンスが来た。
住吉からされた告白の内容を、ここで言ってしまえば全てが帳消しになる。さっきまでの後悔も、もうする必要が無くなるし、前述した通り俺は勉強に集中出来るようになるはずだ。
言おう。
言おう。
俺は、しっかりと秋月さんの顔を見据えた。
校舎裏で西日に照らされた彼女の顔。その顔は告白された日の思い出の中そのものだ。その思いが湧いた瞬間、彼女との様々な記憶が呼び起こされた。
カレーを作ろうとしてゴボウの焼死体を作った秋月さん、そのせいで火傷し、危うく警察のお世話になりそうだった。
俺が入院した時お見舞いに来てくれた秋月さん、お陰で父さんにとんでもない誤解をされたっけ。
そして父さんが家に来た時、家中を謎の人形で埋め尽くしてくれた秋月さん、お陰で父さんにぶん殴られた上、一人暮らし解消の危機。
あれ、なんだろう、秋月さんが来てからというもの、ろくな思い出がない。
「ああ、住吉は確かに好きって言ったよ。カブトガニ博物館を」
「カブトガニ博物館」
俺はやはり無自覚に嘘を吐いていた。
そしてこの時はっきり自覚した。
俺は秋月さんのことが好きだ。彼女がどれだけ頭おかしかろうが、勉強の邪魔になろうが、鬱陶しかろうが、誰にも渡したくない、たとえ相手が住吉でも。彼女と本気で付き合いたいと思ってしまっているんだと。
「そんなことをわざわざ告白したの?」
秋月さんはじとっとした目で俺の方を見ている。そりゃ流石に分かるよな、嘘だって……。
「え、えっと……」
「バスケ部イケメン×カブトガニ博物館……あり」
「ありなの!?」




