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13 告白、してみる? 2

 


 俺は反射的にスマホの通話終了ボタンをタップしていた。

 いや待ってくれ! これは予想外の展開過ぎる! え!? 住吉って本当にそっちだったの!? じゃあ俺たちと同じ委員会にわざわざ入ったのも俺が目的だったてこと!? 林間学校で同じ班になったのも俺と近づこうとしてた!? そして昨日俺の身体にオイル塗ってたときもそういう気持ちで塗ってたし全部俺の身体目当てってこと!? エッチ!

 俺の頭の中で点と点が線で繋がり、住吉がホモであるという確証がどんどんホイサホイサと集まってくる。

 いやこれはまずい! こんな会話を秋月さんに聞かれたら、もう確実に「付き合え」と命令されるに決まってる! そんなの嫌だ! 今は秋月さんに逆らえないし本当に付き合わないといけなくなる! 一緒に帰ったり、ご飯食べたり、他の女子と会話してるのを見て嫉妬したり、尻の形を把握しあったり、互いの尻を互いにスマホの壁紙にしたり、美術の時間に互いのち○こを模写して提出したりしないといけなくなるって!


 これはどうにかして断らなければ、と思って住吉の方を伺うが、彼の顔は真剣そのものである。

 だ、駄目だ! イケメンの眼力が強すぎる! このままじゃ気迫で押し切られて結納まで持ってかれかねない!

「好きなんだ、秋月さんのことが」

 俺が一人でテンパってる中、住吉が振り絞るように言った。

「え?」

「だから、俺、秋月さんのことが好きなんだ!」


 俺は一瞬、何が起こったのか分からず固まっていた。あまりにも焦っていたので、俺は住吉が言っていることを理解するまで10秒程の時間を要してしまっていた。

 え? あ、そういうこと? 住吉が好きな人って俺じゃなくて秋月さん、だったのか。

「そう、だったのか」

 俺はなるべく素っ気なく言ったつもりだったが、脳の中では死刑執行を直前で逃れた男が裸で踊り狂っていた。

 よ、良かったあああああ! 告白の相手が俺じゃなくて本当に良かった!! いや、でも待て。

 住吉って秋月さんのことが好きだったのか……。それなら先程俺に向けて考えていたベクトルを、秋月さんに向け直せば住吉の行動にも納得が行く。この男は秋月さんに好意を寄せていたから同じ委員会に入ったり、林間学校で同じ班になったり、昨日のプール掃除でも秋月さんの喜びそうな行動を取っていたのだ。


 しかし今まで三人で一緒にいたことはあったけど、彼が秋月さんを好きだというシグナルを感じたことは一度も無かったし、秋月さんも感じなかったのではないだろうか。それは住吉が駆け引きの強者だからなのだろう。単純に俺たち二人が鈍感で気付かなかったという線も捨てきれないが。

 ただもう一回言うけど本当に住吉の好きな人が俺じゃなくて良かった!


「でも、何で俺に言うんだ」

 平静を取り戻した俺は、素直に疑問に思ったことを口に出した。

「そりゃお前ら付き合ってるじゃん、俺がいきなり秋月さんに言ったら筋が通ってないだろ?」

 住吉はバツが悪そうに笑っている。心なしか彼の顔は赤く、何だか制服や髪を触ってみたりと仕草が落ち着かない。こんな住吉の姿は何だか非常に新鮮に感じられる。

「俺が言うのも何だけど、秋月さんのどこに惚れたの?」

 確かに秋月さんは可愛いしおっぱいも大きいしおっぱいも大きいしおっぱいも大きいけど、彼女の素性を知れば知るほど変態でドン引きする要素しか無い人物だ。それはこれまで俺たちと一緒に行動することも多かった住吉も分かっているのではないだろうか。


「まあ最初は変わった子だなって印象だったよ。でもあの子、他の女子に流されないし、委員会決めの時、堂々とお前と付き合ってる宣言しただろ? それで芯の強さがあって、面白い子だな、もっと秋月さんのこと色々知りたいって思うようになったんだ」

 そこからふっ、と住吉が笑った。

「でもやっぱり、好きだって自覚したのは林間学校のカレー作りの時だな。あの時秋月さんはいつもの無表情からは考えられないくらい人懐っこくて、可愛かった。そのギャップで一気にやられちまったんだ俺は。一緒にいてすごく楽しかった」


 林間学校のカレー作りの時……あの時、秋月さんは確かに住吉とベタベタしていた。しかしそれは俺を(住吉を取られそうになってる!)とBL的に嫉妬させるためで、単純に住吉と付き合おうとしているからでは無かった。

 まさか秋月さんのあの行動が無自覚に住吉を落としていたとは……恐るべし美少女。

「で、他に秋月さんの好きなところは?」

「他には……」

「胸だな」

「ち、ちがっ!」

 住吉は瞬間的に、激しくかぶりを振って否定した。

「ちが……わなくもない。もちろんそれも秋月さんの魅力だと思うよ」

 住吉ははにかみ、恥ずかしそうに俯く。

 俺は初めてこの完璧イケメン野郎に、人間らしい側面を見たような気がした


「それから、違ったら悪いけど、お前らって本当は好き同士じゃないんだろ」

 反射的に俺の身体がビクッと震え、口に当てた。核心を突かれて心臓がピチピチ跳ねたため、口から出るのを防ぐためである。

「え、ど、ど、どういうこと……?」

 さっきまで住吉を軽くイジる余裕は既に風速80メートルくらいでどっか飛んで行った。恐らくこの時俺の目は太平洋を自由形を横断するくらいの勢いで激しく泳いでいたに違いない。


 住吉は笑顔のまま続ける。

「いや、見てれば分かる……分かったよ。何だか二人の距離が妙に離れてたり、会話が他人行儀でよそよそしい感じがしたりさ。理由はよく分からないけど、お前らって何か共通の目的があって付き合ってるんじゃないのか?」


 はああああああああん! 見抜かれて龍うう!!

 こいつ、俺たちなんか見てないようでよく見てる。普段教室では俺たちと会話することなんか殆ど無いのに、そんなところまで気付いてたのか。

「それから、これも違ったらごめんけど」

 一瞬、西日が住吉の目を反射して鋭く光った。

「秋月さんの、本当の好きな人って、俺なんじゃないか?」


 もう身体が吹っ飛ぶかと思うほどの衝撃だった。住吉から出てくる言葉の一つ一つが、あまりにも鋭く、核心をついている。このままだと俺の身体が木っ端微塵の粉末になってしまう。

 この瞬間を堺に、俺はまともに住吉の顔が見れなくなった。何の汗かわからない汗が脇からだくだく吹き出してくる。

 当たってる。秋月さんは俺に告白した時、はっきり言った。「私の本当に好きな人は住吉くんだ」と。

 どれだけ鋭いんだこいつ。

 ここで、俺の脳にある考えが差し込まれた。

 どうして俺はこんなに動揺している?

 考えてみればおかしい。だって、住吉と秋月さんがくっついてくれたら、俺はあの頭のおかしいBLモンスターから開放されるじゃないか。

 どうして、俺は……。


「ただ、ちょっと最近自信が無くなってきたんだ」

 住吉の声は先程よりも少し小さい。

「どうして」

「林間学校で山登りがあっただろ。あの時、俺は秋月さんに声を掛けようとした。だけど、彼女が真っ先に向かったのは、お前のところだった。まあそれは大勢が見てる中で彼氏彼女の体裁を保つためなのかと思ったんだが……、昨日のプール掃除でもそうだった」

「えっと、アクシデントが多すぎてどの事か分からないんだが」

「プール掃除で秋月さんが倒れた時。彼女が頼ったのはやっぱりお前だった。だけどお前と秋月さんの距離感って、前と変わってる感じがしなかったから、余計に秋月さんの本当の好きな人が俺なのか、分からなくなったんだ」


 独白するように喋っていた住吉が急に俺の目をはっきりと見た。

「なあ武岡、お前なら知ってるんじゃないか?」

 知っている。

 お前で合ってるよ。

 良かったな住吉。

 さあ言え。

 言って楽になろう。そして俺は勉強に集中して、東京の大学に行って、妹を助けるんだ。

 俺は、ゆっくりと頷いた。

「教えてくれ、秋月さんの本当に好きな人、俺なのか?」


 住吉は一歩前に来て、瞳孔は大きく見開かれ、まるで俺を圧倒するようだった。

 分かった、言うよ。

 お前のお望み通りの答えを教えてやる。


「違うよ。秋月さんはお前のこと、好きじゃない」

 俺ははっきりと住吉の目を見据え、言い切った。

 声の低さと、堂々とした態度、何より自分の口からで出た言葉に自分でびっくりする。

 あれ、嘘だろ、何で俺は否定した。

 せっかく自由になれるチャンスだったはずじゃないか!

「……そうか、分かった」

 住吉は暫く真顔で俺を見つめていたが、ゆっくりと笑顔になった。


「そっかー、俺じゃなかったかー、恥ずかし〜!」

 住吉は両手で頭を抱える。そんな恥ずかしがり方も絵になる男だ。

 住吉は再び俺の方を見る。

「そういやお前、何か言いたいことがあったんじゃないのか?」

 うん、実はお前のことが、好きだったんだよ! 

 って言えるかあっ! この状況で言えるわけないだろ! 何だその衝撃発言のターン制バトルは! もう99%の精神力使い切っちまったよ!


「いやー、実は何言おうとしたか忘れちゃってさ、また今度言うよ」

 俺はよそよそしく頭を掻きながら言った。

「そっか、じゃあ俺は部活行ってくるわ! また明日な!」

 手を振り去っていく彼は、完全にいつもの住吉に戻っていた。


 そして住吉に手を振り返した俺の胸を、激しく後悔が押し寄せてくる。

 住吉は堂々としていた。

 嘘を吐かず、筋を通して素直な気持ちを俺に伝えてきた。それなのに、俺は嘘を吐いて、あいつの気持ちを正面から受け止めてやれなかった。

 最低だ。俺は。

 あと住吉が突っ込まなかったから言うけど俺は未だに鼻ぴゅるぴゅる付けたままだ。さっきまでのバチクソ真剣な会話は全て鼻ぴゅるぴゅるしながらしてました。何やってるんだ俺は!

「どうして電話切ったの」

 鼻を外していた時、ぬぅっと秋月さんの顔が俺の肩に乗った。


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