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11 父さん、来るらしいよ? 7

……。

…………。

あれ? 拳が飛んでこない。

俺が恐る恐る目を開けると衝撃的な光景が広がっていた。


黒い毛むくじゃらの何かが、父さんの右腕を掴んでいる。その毛むくじゃらとは、以前俺の尻を舐めていたオオアリクイだったのだ。色々言いたいことあるけど何で二足歩行してるんだお前。


「くっ! 何だ貴様は! 離せ!」

父さんがオオアリクイの腕を振り払おうとしたその時、オオアリクイが父さんの頬を激しくぶった。

剣豪が薙ぎ払うかのような鋭さで父の顔がブルンブルンに揺れ、

「へぱあ!」

と謎の言語と共に吹っ飛んだ。


あまりの衝撃に変な声を出しながら床を滑る父さん。父は床を滑りながら服が脱げ、次々とバニーガール姿になっていく。


オオアリクイは倒れた父さんを見下ろし、低い声で言った。言った?

「これからの時代は多様性が尊重されなければならない。お前の息子が男を好きだからどうした?」

「そんなの、問題だらけに決まってるだろ!」

父さんはうさ耳カチューシャをセットしながら、必死に食ってかかる。誰もオオアリクイが喋っていることにつっこまない。凄い、何て多様性に満ちたな空間なんだ。

「何でもかんでも否定して、自分の都合の良いように息子を動かそうとするお前の考えにこそ問題があるのではないか?」

「何?」

「それにお前は同性愛を否定しているが、そもそもお前のその格好はどうなんだ」

それは本当にそう。


「バニーガール衣装の何が悪い! 俺は子供の頃からずっとこうなんだ!」

そんな歴史のある変態だったのか。

「ああ、問題は無い。だがそれを世間から批判されたらどう思う?」

「そ、それは……!」

父さんアリクイに論破されそうになっとる! バニーガールの姿で! 

バニーガールの姿で!!

「大事なのは互いを認め合うことだ。お前の息子はお前のバニーガールを受け入れている。それなのに、お前は息子を自分の都合の良い姿以外、何か受け入れてやったのか」

「くっ!」


オオアリクイは、ゆっくりと先程父親が座っていた椅子に腰掛ける。

「今日はもう帰りなさい。もし帰らないのなら……」

突然、オオアリクイの舌が矢のように伸び、ストン、と鋭い音が聞こえた。

最初は何が起こったのか分からなかったのだが、何気なく下の方を見ると、机に丸い穴を開いている。

いや怖い怖い怖い!!! 舌で机に穴あけよった!! 何この危険生物!?

「帰らないのなら、お前の尻がこうなる」

どうなるんだ!!?


それを見て、流石に父親も分が悪いと思ったらしい。自分の持ってきたカバンと服をかき集めて立ち上がった。

そして俺に叫ぶ。

「おい星矢ぁ! お前を一人暮らしさせてるのは勉強に集中させるためだった筈だろう!」

「は、はい!」

「じゃあ次の模試で慶大B判定以上を必ず取れ! 取れなかったら一人暮らしは解消させるからな! 覚えておけ!」


父さんは踵を返し、尻に付いた白く丸い尻尾をプリプリ振りながら出て行った。最後まで、バニーガールのままだった。

「これにて一件落着だな」

オオアリクイがコーヒーをペロペロと舐め取りながら言った。



……え、何この終わり方……?





おわり


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