11 父さん、来るらしいよ? 6
「はい、私たちは確かにお父さんの許可も得ず、勝手に付き合っていました。だから今日を持って私たちは別れます」
「ふん、息子の隣に住んでて隠し扉まで作ってる奴が信用できるか!」
それは本当にそう。
突然、父さんが机をどん、と叩いた。
「証拠はあるのか証拠は!」
そりゃそうだ。当初の計画では単純に清潔で整った部屋を見せれば大丈夫だろうと考えていた。もちろん半裸の人形も半獣もBL本も隠し扉も登場する予定では無かったため、父さんからの信頼は地に落ちている。
だが証拠と言われても、出せるものなんて……。
「証拠になるかは分かりませんが」
秋月さんは自分のスマホを取り出し、そのまま父親に画面を見せた。
俺も覗き込んで確認すると、それは林間学校の時の写真で、俺と住吉がカレーを作っているところだった。おい、まさか……。
「病院でも言った通り、武岡くんはこの男子が好きなんです。だから彼は私と別れた後、この男の子と付き合います。だよね、武岡くん」
俺に同意を求めないで秋月さん!! というか何でその写真壁紙に設定してるの!?
「この写真は二人が学校に内緒でキャンプに行ったところを私が激写したものです」
「それは完全に嘘じゃねえか!」
「おい星矢、『それは』ということは、その男子が好きなのは本当なんだな?!」
「違います!!」
話がどんどんあらぬ方向に進んでるって!
秋月さんは目を伏せ、いかにも悲しそうな、泣き出しそうに声を震わせた。
「ごめんなさい父さん、私、武岡くんがこんなに住吉くんのこと好きだと知らずに付き合っていて……」
おい! 何でこんな時だけ迫真の演技なんだよ!! 欲望に忠実過ぎるだろ!
「男の人形、男同士の本、そしてそのツーショット写真……」
呟く父さんは、斜め下を見つめている。その時バチン、と目を見開いた。
「お前やっぱり男が好きだったんだな星矢ぁ!」
「ええ!?」
父の中で、俺の家の中の出来事が全て一つに繋がり、導き出されたモノ。それは俺が男の身体に興味津々で、これから男と付き合おうとしているという確証であったようだ。以前も言った通り父さんは同性愛とか多様性とかもってのほかと思っているレトロな人間である。
そんな昭和の人に、誤解されるとどうなるか?
突然俺は机越しに胸ぐらを掴まれた。
「星矢あ! お前、武岡家を絶やす気か!!」
父さんの怒りが一気に爆発した。
「ち、違います! 僕は男が好きじゃありません!」
「じゃああの頭おかしい人形は誰のだ!」
「武岡くんのです」
「おい嘘付くな秋月ぃ!!」
「あと星矢ぁ! そういえばお前さっき父さんに反抗したよな!?」
スルーされるかと思ったけどやっぱ根に持ってたよこの人!!
父さんが拳を振りかぶる。
あ、終わった。(n回目)
俺は反射的に目を閉じた。




