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10 お見舞い、行ってみる? 4

 

 それ禁句って言ったじゃん! 何でことごとく地雷だけ踏み抜いていくんだこの女!

 いや待て、でも、付き合ってない状態より、付き合っててキスした方が、まだ傷が浅いのではないか……!?

 しかし俺の頭を掴んでいる手に一層の力が籠もる。


「おい星矢ぁ! てめえ慶大に合格するまでは絶対女に手は出さねえって約束したよな!!」

「出してません!」

「キスしたんだろうが!」

「しましたあ!」

 何この堂々巡り。

「お父さん落ち着いて下さい。私達は別に好き同士じゃないんです」

「好き同士でも無いのに不純異性交遊してんのか貴様ぁ!!!」


 おい秋月ぁ!! さっきから的確に父親の怒りのツボを押してくるじゃねえか! もしかしてそういう専門学校行ってたのかな???

 流石にこれ以上踏む地雷は無いだろうと思ったのだが、しかし秋月さんはご存知の通りとどまるところを知らない変態である。



「そもそも星矢くんは住吉くんという男の子が好きなんです」

 おい嘘つくなオラァ! それお前の願望じゃねえか! 

 俺の抗議の視線に気づいたのか、秋月さんは首を傾げた。


「もしバレたら真剣交際していることにするんでしょう?」

 そっちじゃねえよ!!!

「武岡くん、もうここまで来たら全部言っちゃおうよ」

 いやお前の話が歪みすぎて正しい情報が伝わらねえんだよ!


「おい星矢ぁ! どういうことだ! 女子とキスしたり、付き合ったり、その、男の子が好き……? どうなってるんだ!!」

 父さんめっちゃ混乱してる! そりゃそうなるわ!


「おい秋月さん、どういうことなんだ!」

 父さんは俺を掴んでいた手を離し、秋月さんの方を向いた。やめて父さん! そいつの話に、耳を傾けちゃ駄目ぇ!


「そうです。私は武岡くんと付き合っていますが実は武岡くんは住吉くんのことが好きで、私は住吉くんに武岡くんを寝取られたいと思っているのです

「どうなってるんだ本当に!!!」

 そらそうなるわ!

 昭和脳の父親に、秋月さんが新鮮かつこってりディープディープな情報を与えすぎたせいで脳みその処理が間に合っていないのである。

 父さんは暫く眉間をつまんでうずくまっていたが、やがてゆっくり俺の方を向いた。情報の処理が終わったらしい。


「女と付き合ってるんならゲンコツ一発で済ましてやろうと思ったが、二股掛けててしかも男が好きだと、貴様?」


 めっちゃ曲解されとる!!!!!

 さっきも言ったが父さんは頑固おやじを絵に書いたような性格をしている。昨今大事にされるようになってきた多様性とか、同性愛などの文化に対して父の理解はゼロどころか、むしろマイナスに大きく振り切っている。

 そして今この状況でその価値観について悠長に説明している時間などない。してたら先に俺の頭が無くなる。

 ここは絶対に否定しなければ。そもそも男が好きではないのは本当なのだ。

「ち、違います、僕は男が好きじゃありません。だよね、秋月さん?」

 頼むぞ秋月さん! 本当のことを言ってくれ!


 俺の懇願するような目に気付いたのか、秋月さんはハッとした顔で立ち上がった。

「そうです、星矢くんはボーイズラブなんか好きじゃありませんから」

 言いながら秋月さんは、棚の上に置いてあった大量のBL本を急いで紙袋に移そうとしている。


 こらこらこらあああああああああ!!!!!!

 それ今片付けようとしたら俺が好き好んで読んでたのを必死に隠そうとしてるみたじゃねえか!!!

 勿論父さんがそれに気付かないわけもなく、棚の上の一冊をめくって、今まで見たことないくらい驚きに満ちた顔になった。

「な、何だこの本はぁ!」

「私が星矢くんのために持ってきた男の子同士が恋愛する本です」

 もうお前確実に俺の息の根を止めようとしてるだろ!!!!


 秋月さんがススーと俺に寄ってきて耳打ちした。

「武岡くん、お父さんがBL本に夢中になってるうちにバナナ全部食べて」

「食えるかあ!!」

「早くしないとまた誤解される」

「100000000%お前のせいで誤解されてるんだよ!!!」


「おい、何だこれは……」

 父さんはバナナとBL本を交互に見て、目を大きく見開いた。彼の頭の中でBL本と山積みのバナナが、一つに繋がったらしい。なんて汚い線なんだ。

「おい星矢ぁ! 歯を食いしばれえ!」

「うわああ!」


 父が拳を振りかぶった、その時

「お父さん、やめて!」

 秋月さんが体重をかけて父さんの腕にしがみついた、その時、父さんの着ていた黒いスーツがスルルルンと滑り落ち、あっという間にバニーガール姿となった。

 何で下に着てるんだよ。

「は、離しなさい秋月さん!」


 言いながら父親はうさ耳カチューシャを装着する。

 何で完全体になったんだよ!


 その瞬間、部屋中から部屋の外から大漁のナースコールが一斉に押され、まるでサイレンのように響き渡った。

「503号室に不審者を確認。直ちに排除せよ」

 とのアナウンスが繰り返し流れ、とんでもない量の走る足音が廊下の外から近づいてきた。


 父親は一度舌打ちをし、うらめしげに周囲を見回した。

「くっ、こんな時に不審者か!」

 お前や。

 あれ、前も同じようなことあったなそういえば。



 こうして部屋にやってきたゴリラみたいな看護師によって、父は強制的に追い出された。後で聞いたら出禁にされたらしい。当然の報いである。

 しかし父さんはゴリラに追い出される間際、不穏なことを言っていた。

「くっ! おい星矢! 退院したらお前の家に行くからな! その時しっかり話は聞かせてもらうぞ!」


 それを聞いた俺はこう思った。

 いや服を着ろよ。


 ちなみにバナナはゴリラが全部持っていった

 そして父さんも看護師も引き上げた後、秋月さんは優雅にBL本を開きつつこう言った。


「雨降って地固まる、だね」

「降りっぱなしだよ!!!」




 おわり


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