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9 林間学校、行ってみる? 5

 

 翌日朝食を取った後、俺たちは施設の体育館に集められていた。これから最後のレクリエーションである「山登り」が行われるのだが、そのための注意事項やペア決めをするためである。

 そう、この山登りはこれまでのレクリエーションとは違って二人一組で山頂を目指すことになるのだ。

「お前らぁ! アクビしてんじゃねえぞ! 山登りはなあ、殺し合いなんだよ! 命取られたくなかったら命がけでかかってこい! 俺は山頂で待ってるからなあ!」

 校長先生のやかましい挨拶も、右耳からチクワを通して左耳に受け流していた俺は深い溜息を吐いた。あのカレー作りの後、肝試しやドミノ倒しなど色々なレクリエーションがあったわけだが、やはり秋月さんと住吉の距離が近かったように見えた。

 それを見て俺はやんごとなき嫌な気持ちになっていたわけだが、何故こんな気持になるのか、分からない。

 ただ一つ原因として言えることは、俺がこの山登りで「余り物」になる確率が非常に高いということだ。恐らく秋月さんは住吉と組みたがるだろう。いや、住吉と組めなかったとしても、他に秋月さんと組みたがる男子は砂糖に群がるアリンコくらい多い。くそっ、こんな時こそオオアリクイがいれば……! 俺の尻を舐めて慰めてくれるのに……!


 話を戻すと、住吉も秋月さんも引く手あまただが俺と組もうとする奴は居ない。約束されし残り物なのである。もう一度フルチャージしたため息を吐いていた時、不意に後ろから肩を叩かれた。

 その人物は少し恥ずかしそうに体をもじもじさせながら、俺より背が高いにも関わらず、上目遣いにこちらを見ている。

「あ、アンタ一緒に行く人いる?」

「いや、いない、けど……」

 するとその女子はギョロリと大きな目で俺を見た。

「ふぅん」

 女子は落ち着き無く前髪を気にする仕草を取る。取るたび、ヌッチャヌッチャの粘膜がオッチャオッチャ俺の顔にかかる。そう、英里さんである。

「しょ、しょうがないわね、私が一緒に行ってあげても良いんだからね」

「あ、大丈夫っす」

 すると英里さんは牙をむき出しにして口の中から出てきた小さい口がこう言った。

「何よ! せっかくアンタが余ってるって言うから二人っきりのときに食べようと、いや、孤立したところを狙おうと、あ、ちが、よく見たら美味しそうな顔してるとか、いやちが、とにかく失礼しちゃうわね! 

「純粋な気持ちで俺を食おうとしてるじゃねえか」

「もうあんたとなんか組んであげないんだから!」

 英里さんがぷんぷん怒りながら去っていく。あとで宇宙警察に電話しなきゃと考えていたところ、再び肩を叩かれた。パターン的に今度は先生かな、と思い振り返る。

「あ、先生、もうちょっと執行猶予が欲し……」

 先生に向けられて言おうとした言葉を、俺は途中で飲み込んでしまった。俺の肩を叩いた人物が、先生ではなく秋月さんだったからだ。

「武岡くん、私と行こ」

 秋月さんは透き通るような瞳で俺の目をじっと見つめていた。


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