9 林間学校、行ってみる? 4
俺はそんなことを思いながら、目の前でカレーを食べている住吉の顔を眺めていた。
「うまっ! これ作ったやつ天才じゃね?」
住吉の食べ方は豪快そのもので、まるで掃除機のようにカレーを吸い込んでいく。これが運動部の食欲なのだろう。
「住吉くん、私が作ったサラダも食べて欲しい」
ちゃっかり住吉の隣に座った秋月さんが黒い塊の入った小皿を勧めた。
「えっと、秋月さん、ナニコレ(NANIKORE)」
俺は一応、戸惑っている住吉の代わりに聞いてみた。
「サラダ」
「嘘だろ?」
「美味しいよ」
「嘘だろ? だいたい、サラダなのに何で火を通したんだよ。黒焦げじゃないか」
すると秋月さんはふるふる頭を振る。
「ううん、一切火は通してない」
じゃあなおさら何で焦げてんだよ炎の魔法使いかお前は。
すると俺たちの会話を聞いていた住吉が笑い始めた。
「へえ、秋月さんって思ったより面白い人だな」
住吉に笑いかけられた秋月さんは恥ずかしそうに目を伏せる。
「じゃ、サラダ頂こうかな」
「え、止めたほうが……」
住吉が一気に黒い塊を口に放り込んだ。俺が止める間も無いくらい躊躇が一切無かった。
「うん、美味しいよ! 全然野菜の味しないけどな!」
ごリっ、ごりっ、という咀嚼音を響かせながら住吉は笑っている。
「本当? じゃあまた作るね」
「あっはっはっ! それは別にいいかな!」
秋月さんは目を輝かせて住吉を上目遣いに見ている。いや、身長差的にどうしても上目遣いになってしまうわけだが、その顔は恋する乙女の表情そのものだった。
俺の胸の中に言いようのない黒さが溜まっていく気がした。改めて言うが俺は断じて秋月さんのことが好きなわけではない。これは自信を持って言える。その筈なのだが、目の前で楽しそうに談笑する秋月さんの顔を見ていると、悲しいような、腹立たしいような、複合的な感情が激しく俺の中でぶつかり合っている気がする。俺がこんなポエマーみたいな表現を使ってること自体、普段は絶対あり得ないのだ。
やはりこの気持ちはヤキモチではなく、住吉への劣等感だ。得意の料理でもヘマして、見返そうと思っていた住吉に助けられてしまい、飯の席では、仮にも彼女である秋月さんの気持ちを完全に取られてしまっている。
そのように頭の中で考えが整理された瞬間、俺の内から沸々と闘志が湧き上がってきた。
くそっ! くそっ! この林間学校中に絶対に見返してやるぞ住吉! 俺は負けっぱなしじゃ絶対に終わらないからな!
ちなみに英里さんはさっき来た宇宙警察に連行されて行った。




