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8 編集さん、来るらしいよ? 2

 

「な、なにこの声!? 林さんも聞こえましたよ、ね……」

 俺が林さんの方を見た瞬間、あまりにも不気味な現象に遭遇した。

 何が、何が起こっている……?

 全身から冷や汗が止まらない。家に帰れるなら帰りたいところだが既にスイートマイホームである。


「武岡くんも見てしまったのね」

 後ろから秋月さんが俺の肩を叩いた。

「あ、秋月さん! 林さんが! 林さんがおかしいよ!」

「大丈夫。問題ない」

「いや、だって!」

 俺の指差す先にいる林さんはの顔は、全体がバッキバキに筋肉が撚り合わせられ、ウッネウネに血管の張り巡らされ、その上顔の口元から白い歯が突き出し、ミシンのようにガタガタと上下に音を立てて動いているのである。


「これもう範馬○牙じゃん!」

「林さんは笑うといつもこうなるの」

「いつもこうなるの!?」

「何か問題? 女性の顔についてデリカシーの無いことを言うなんて私は軽蔑する」

「あ、いや、今のはモノの例えであって……」

「私はベヘリットのほうが似てると思う」

「お前もばっこりノンデリカシーじゃねえか!」

「ふう、失礼」


 いつの間にか林さんの顔は元に戻っていた。いや顔面の形状記憶つよつよ過ぎるだろ。林さんの顔で特許申請できるぞこれ。

「普段はあまり笑わないようにしているんですが、ついツボに入ってしまって」

「どこに凹みがあるか分からないくらいツボ浅かったですけど」

「それはそうと秋月先生、電話でも話したとおり、昨日送ってもらった新作のプロットの件で直接お話したいことがあって今日参りました」

「ええ、分かってるわ。じゃあそこに座って」

 秋月さんは俺のベッドを指さした。

「何で俺の部屋でやろうとしてるんだよ。せめて居間でやれ居間で」

「ではお言葉に甘えて」

 突然、林さんはが家族と今生の別れをする人のような勢いで俺のベッドにすがりつき、布団に顔を埋めて深呼吸を始めた。

「すーはーすーはー! 男子高校生の匂い! 男子高校生の匂い!」

「ねえ秋月さん、この人本当に社会人なの!? ただベランダから侵入してきた異常者じゃないの!?」

「大丈夫。林さんは久しぶりに若い男と接触したことによって大脳辺縁系の働きに障害が起こってるだけ」

「それ大丈夫じゃないよ!!」

 秋月さんは全く動じず林さんに語りかける。

「林さん、ちょっと待っててね、今お茶を持ってくるから。武岡くんが」

「おい!」

 やはり秋月さんの知り合いにはおかしな人しかいのだと確信した。



 居間に移動した秋月さんと編集の林さんは、二人並んでノートPCとにらめっこしていた。その眼差しは真剣そのものだ。変人とはいえ彼女たちはやはりプロの作家と編集なのだ。

「新作の、このウケの子、可愛いと思うんですけど、ちょっと読者から見たら印象が弱いと思うんですよね」

 さっきまで範馬刃牙みたいな顔して笑っていたとは思えないほど、林さんの声は硬い。

「クラスの隅で目立たないでいるウケの子を、サッカー部の超絶イケメンで人気者の主人公が目をつけるのって、読者目線『何で?』ってなるんじゃないかと。サッカー部にもイイ男がいっぱいいるのに」

 この人は普段どんなことを考えながらサッカーを見ているんだろう。

「それなら、林さんはどうすれば良いと思う?」

「そうですね……ウケの子のお尻が暗闇で光る設定にするのはどうですか?」

 ホタルか。何で好きな人に見つけてもらうための手段が虫の生存戦略と一致するんだよ。

 しかし秋月さんは顎に手を当てて考えている。何だその一考に値するみたいな仕草。却下しろ却下。

「ただ光るだけっていうのは弱い気がする。七色に発光するゲーミングア○ルというのはどう?」

 どう? じゃねえだろ! どういう情緒のときにそんな気色悪いケツした奴に寄って行こうと思うんだよ!

「良いですね」

 よくねえだろ!

「では主人公をサッカー部のイケメンからUSB端子に変更しましょう」

 いやどういう舵の切り方だよ! それもうBLじゃなくて一人でピカピカ光るケツにUSB挿す変態の話になってるじゃねえか! シュール過ぎるだろ!

「なるほど、USB端子をお尻に挿すことで一日に必要なビタミン、ミネラル等の微量栄養素を補給できるようになるのね」

 深夜テンションか!! 

「ふむふむ、だいぶ話が煮詰まってきましたね」

 闇鍋みてえな具材しか入ってないけどね。

「じゃあこの敵役の不良はハードオフの店員ということにしましょう」

 どこで戦ったらハードオフの店員が敵になるんだよ!

「店員は主人公であるUSB端子を300円で高価買取しようと迫ってくるっていうのはどうですか? 読者からのヘイトを買ってくれること間違いなし」

「成程、そうやってウケの子の葛藤を生み出すのね。その葛藤が物語を先に進める力になるわ」

 その推進力でどこに行くつもりなんだ!

「で、ここから二人の逃避行が始まるんですけど、主人公であるUSB端子が何故か衰弱してきてしまうんですね」

 ケツにぶっ刺してるからだよ。

「そして二人は逃げるんです。どこまでも、どこまでも、疲れ果てた二人を見て、通行人たちは何故か笑いながら通り過ぎていきます」

 ケツにUSBぶっ刺してるからだよ。

「その時クリスティアーノ・ロ○ウドが二人の前に立ちはだかります」

 クリロナ!? こんなきったねえ小説にサッカー界のレジェンド出てきた!

「クリロナは通行人たちに言うんです『何故笑うんだい?』」

 だからUSBケツにぶっ刺してるからだよ! それ言わせたかっただけだろ絶対!

「そしてUSB端子を失った少年は、USBとの思い出と300円を抱きしめながら家に帰るんです」

 こいつUSBハードオフに売ってんじゃねえか!!

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