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騎士の矜持、王の道



 二人の人物がものすごいスピードで街道を疾走している。


 昼を少し過ぎたくらいの時間であり、王都エルネの近郊という事もあって、多くの人が行き交っている中……目にも止まらぬスピードで走る二人は、当然ながら物凄く注目されていた。

 しかし、あまりにも一瞬で過ぎ去ってしまったので、どのような人物だったのか……道行く人々は知るすべもなかった。






「……大丈夫か?」


「ええ。こうして全力疾走するのは久しぶりだけど……案外何とかなるものね」


 気遣わしげに尋ねる男の言葉に、並走する女性が事もなげに応える。

 その間も二人は走るスピードを緩めることはない。




「それにしても……」


 複雑そうな表情で女性が呟く。


「どうした?」


「こうしてまた、エルネに戻って来ることになるとは……と思って」


「……そうだな」


 同じように複雑そうな表情になって、男性もその言葉に同意する。


 そして更に女性は続ける。


「まったくあの娘は、王都に行って早々に……クレイ君も付いていたというのに。あのトラブル気質は誰に似たのかしら?」


「…………さてなぁ」


 男は少しもの言いたげであったが、そんなふうに言葉を濁した。



「とにかく。今代の王がどのような人物か……しっかりこの目で見ないと」


「ああ。まぁ、噂では悪い話は聞こえてこないが……」


「噂なんてあてにならないわよ。もし、またあの愚物のような奴だったら、いかに王と言えども……」


 厳しい顔つきになった女性を見て、男は少し顔をひきつらせながらも、諭すように言う。


「あまり、突っ走るなよ?『赤の聖女』」


「……分かってるわ。というか、その名前で呼ぶのはやめて」


 少し間をおいてから応えた女性の様子を見て、彼は……『間違いなくお前の気質を受け継いでいると思うぞ』などと内心で思うのだった。






 そうして二人……ジスタルとエドナは走り続け、もう王都エルネは目前というところまで来ていた。







 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





(……じゃあ、お父さんが事件を解決したってことなんですね?)


(ああ。俺も又聞きだから事の経緯の詳細までは知らないんだが……とにかく、騎士ジスタルが一連の事件に終止符を打ったのは間違いない。そしてバルドは王の座を追われ……俺が即位するまで、王位は暫く空位が続く事になったんだ)


 過去の『事件』に関する一通りの説明を、アルドはそのように締め括った。




 話の概略はこうだ。


 時の王であるバルドに目をつけられた聖女エドナは、無理やり後宮へと連れ去られそうになった。

 しかしそれが、彼女と親交があった騎士ジスタルの知るところとなり、彼はエドナを救うべく動き始める。


 騎士団随一の剣の腕を誇り『剣聖』とまで言われていた騎士ジスタル。

 しかし、彼は将来の幹部候補と目されていたものの未だ年若く、その地位は単なる一部隊長に過ぎなかった。

 そんな彼が、いかにして王を失脚させるに至ったのか……

 その詳細な経緯までは、アルドも分からなかった。


 ただ、バルドは既に人心が離れ、反感を持つものが多かったのに対して……ジスタルは多くの人から慕われる人格者であり、騎士団の同僚のみならず貴族階級の者にも味方がいたという。

 そういった背景が、ジスタルの行動を後押ししたのだろう……とは、アルドの言である。



(う〜ん……)


(……どうした?)


 話を聞き終わったエステルが唸り声を上げ、アルドが怪訝そうに聞く。


(いえ……騎士って王様に仕えてるんですよね。お母さんを助けるためとはいえ、よくそんな無茶したなぁ〜……って)


(そうだな……だが、それだけ君の母が大切だったのだろう)


(ですよね!)


 アルドの言葉に、嬉しそうに同意するエステル。

 父が母のことを最優先に行動したことが、娘としてはとても嬉しく思ったのだろう。



(でも、父さんよく捕まらなったですよね〜)


 流石のエステルでも、一介の騎士が王に逆らう事の不味さは分かる。


(多くの者が味方したと言うのは先も言ったとおりだが……例え王に仕える身であっても、主が誤った道を進むのであれば、それを諌める事も必要だろう。そういう意味では、君の父の行動は正しき騎士としての矜持を示したとも言えるな)


(正義の騎士ですね!さすが父さん!)


(うむ。……もし俺が正しき王の道を反れてしまったら、君にも遠慮なく進言してもらいたい)


 自身は果たして王として正しい道を進んでいるのだろうか……そう自問しながら、アルドはエステルにそんな事を告げた。


 それを聞いた彼女は……


(はい!……でも、アルド陛下なら大丈夫だと思います!)


 自身を持ってそう断言した。



(……君が側にいてくれるなら、きっと俺は道を間違えることはないだろう)



 むしろアルドは、エステルを欲するあまり暴走しかけた実績があるのだが。

 それを言うのは野暮というものだろう……




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