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エドナの娘



「……どう言うことなんです?この神殿にエドナの娘が捕らえられてるなど……いくら陛下と言えど、我が神殿に対して根拠の無い言いがかりは許されませんよ?」


 先程までの柔らかな笑みを浮かべた優しげな様子から一転、見るものを震え上がらせる怜悧な眼差しをアルドに向ける。

 それを見たディセフの背筋を冷たいものが伝い落ちるが、当のアルドは平然とミラの視線を受け止めた。



「もちろん証拠はあります」


 そう言って彼は自分の首にかかったペンダントを外してミラに差し出す。

 それはもちろん『念話』の魔道具である。



「これは……?」


「その青い宝石に魔力を込めて念じてみてください。『念話』が発動して、エドナの娘……エステルと会話ができます」


「……!」


 そこで、ペンダントを受け取ろうとしたミラの手が止まった。

 アルドは差し出した手をそのまはまに、じっと彼女を見つめる。

 モーゼスは気遣わしげな視線を向け、レジーナはそんな彼らの様子に訝しげな表情を浮かべた。



「……そう。エドナの娘は、エステルと言うのね。モーゼスから王都に来ているという話は聞いてたのだけど……」


 そういう彼女の表情は……喜びと悲しみ、愛しさと切なさが混じり合う複雑な感情を表していた。

 しばし差し出されたペンダントを見つめたあと、意を決してそれを受け取り、両手で握り込んで目を閉じる。




(うにゃ?へ〜か?)


(!……あなたがエステル?)


(え?だれ?私はエステルですけど……)



 ミラがペンダントに魔力を込め『念話』を発動させると、エステルが応答する。

 当然彼女はアルドが連絡してきたと思っていたので、知らない声に戸惑いを見せているようだ。



(驚かせてごめんなさいね。私の名前はミラ。アルド陛下からペンダントをお借りして、今あなたに話しかけてるのよ)


(あ、そーなんですね!はじめまして!)


 元気に挨拶してくるエステルの声に、ミラは相好を崩した。



(でも、何でミラさんが私に……?)


(それはね、あなたに確認したい事があって陛下にお願いしたの。エステル、あなたは今、エル・ノイア神殿に囚われていると聞いたのだけど、それは本当かしら?)


(え〜と……私には神殿かどうかは分からないですけど、どこかの地下にいます。他にも沢山の女の人が捕まってます)


 それから、エステルが囮として捕まった経緯を説明すると、ミラの表情は険しいものになっていく。

 そして、感覚を頼りに地上の地図と照らし合わせた結果、辿り着いた先がエル・ノイア神殿らしいと言う話を聞いてミラは驚愕した。



(そう……陛下の話は本当なのね)


(へ〜かは嘘なんかつかないですよ〜)


(……そうね。ありがとうエステル。話は良く分かったわ。また今度、ゆっくり話ができたら嬉しいわ)


(はい!)



 そうしてミラはエステルとの念話を終える。

 少し名残惜しそうに手の中のペンダントを見つめてから、それをアルドに返す。



「どうでしたか?」


 静かに様子を見守っていたアルドは、ミラが落ち着くのを見計らってから声をかけた。



「……陛下。彼女を囮として使うとはどう言うことなんです?」


 エステルと会話している時は柔和だった表情を引き締めて、彼女はアルドに厳しい視線を向けて問いかける。

 そう問われる事は予想していたアルドは、それを真っ直ぐ受け止めて答えた。



「私も気乗りはしなかったんですが……彼女以上の適任者はおりませんので。剣聖の力をも超え、女神の加護を持つ彼女であれば……」


「剣聖……ジスタル殿ね。あの二人の娘なら、確かに能力的には優れてるかもしれないけど…………いえ、私にはとやかく言う資格は無かったわね」


 なおも言い募ろうとしたミラであったが、途中で思い直して呟いた。

 その顔には自嘲めいた笑みが浮かんでいる。



「その……エステルさんの両親がかつての事件に関わってるであろうことは、皆様の話の流れから分かりました。ですが、今回彼女が囚われていることと何の繋がりがあるのでしょうか?」


 それまで黙って話を聞いていたレジーナが切り出す。

 アルドはそれに応じて、今回の事件のあらましを説明する。


 昨今の王都で発生していた少女誘拐事件と人身売買組織の存在。

 根本的な事件の解決のため、その組織を壊滅させるべくエステルに囮捜査を頼んだこと。

 潜入した先、少女たちが囚われていた場所が神殿の何処からしいと判明したこと。

 そして、組織の幹部と思われる人物が、エステルが『聖女』であることに何らかの意味を見出し、エドナの名を口にし……それが、過去の『事件』を想起させたこと。



 それらの話を聞いたミラたちは一様に驚きをあらわにしながら、アルドがここにやって来た理由に納得するのだった。



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