癒やしの聖女
怪しげな仮面の男に連れられてやってきた部屋。
そこでエステルは酷い怪我を負った男性を助けるべく、躊躇いもなく癒やしの奇跡使ってみせた。
その様子を眺めていた男たち。
彼らの表情は仮面に隠されて判然としないが、お互いに顔を見合わせて頷いたところを見ると、満足しているのであろうことが窺えた。
エステルは怒りの表情で彼らをキッ!と睨みつけるが、彼らに跳びかかるのは何とか自制した。
その様子をクレイが見たら、きっと彼は驚いたことだろう。
(ふぅ〜……がまんがまん。今この人たちを片っ端からやっつけるのは難しくないけど……作戦が台無しになっちゃう)
怒りを鎮めるように彼女は内心で呟く。
そして、そのタイミングで……
(エステル、どうした?何かあったのか?)
(あ……へいか?)
アルドの声を聞いただけで、不思議なくらいにエステルは心が落ち着いていくのを感じた。
(いえ、だいじょ〜ぶです。実は……)
画面の男に別室に連れてこられたこと。
そこで傷だらけの男性に癒やしの奇跡の力を使ったこと。
それを見た画面の男たちが満足そうにしていたこと。
それらを、エステルはアルドに説明する。
(癒やしの聖女であることを確認した……のか?まさか……)
(でも、他のみんなからはそんな話は聞いてませんでした)
他の囚われの女性とも同じようなやり取りがあったのなら、エステルが聞き込みした時に話題に上らないはずがない。
そして今も、仮面の男たちは何事かを話し合っている様子。
ひそひそと小声であるが……エステルイヤーは地獄耳である。
彼女が男たちの会話に意識を向ければ、それが聞こえてきた。
「測定値を見たときは目を疑ったが……」
「どうやら間違いないな」
「ああ。あの数値が確かなら……かつての赤の聖女エドナにも匹敵するぞ」
「そう言えば……この娘も赤髪だな。まさか、血縁者か?」
「かもしれぬが……関係ないことだ」
(!!?『赤の聖女エドナ』って……お母さんのこと!?)
(エドナ?……やはり、あの事件が関係しているのか?)
(?……へいか、何か知ってるんですか?あの事件って……お母さんが関係してるんですか?と言うかお母さんのこと知ってるんですか?)
(あ、ああ……)
口ごもるような言葉からは、念話越しでも『しまった……』というようなアルドの感情が察せられたが、エステルは更に詳しい話を聞こうとする。
しかし。
(あ……話が終わったみたいです。どうしますか?なんかこの人たち、そこそこ偉そうな感じですけど。私を連れてきた人以外は大して強そうじゃないから、まとめてやっつけるのは難しくないですよ?)
(……いや。もう少し様子を見たい。それに『エドナ』の名が出てきたのが気になる。こちらで探りを入れるから……詳しい話は後でもいいか?)
(……分かりました。でも、ぜったい聞かせてくださいね!!)
(ああ……約束する)
アルドは躊躇いがちに……だが、しっかりと返事をする。
そしてエステルは、ここに来たときと同じように仮面の男に連れられて、女性たちの監禁場所に再び戻ることになるのだった。
「……陛下、どうされました?」
王の執務室。
エステルと念話をしているのを察して黙って様子をみていた宰相フレイだったが、アルドの雰囲気が変わったのを感じて声をかけた。
「フレイ。至急、神殿の関係者との面会を調整してくれ。『かつての事件について聞きたいことがある』と。俺も動く準備をする」
「!……承知しました」
アルドは多くを語らなかったが、『かつての事件』という言葉におおよその事態を察したフレイは、早速手配に向けて動き出す。
そして、一人執務室に残されたアルドは……
「さて、神殿はどう出る……かな?」
そう呟いて瞑目したあと、彼もまた執務室を出て、騎士団詰所へと向かうのだった。




