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【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ  作者: O.T.I
剣聖の娘、裏組織と戦う!

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太陽の娘



「ねえねえ、ちょっといいかな?」


「……え?わ、わたし……?」


 クララから話を聞いて、彼女を励ましたあと……エステルは情報収集のため他の少女からも話を聞こうとした。

 クララにはエステルが囮として潜入している事は話したが……一応、秘密の任務なので他の少女達には伏せる事にした。

 ただ、少しは安心させたかったので、騎士団が動き始めているということだけは伝えるつもりのようだ。




 最初に声をかけた少女はずっと呆然と座っていただけだったが、まさか自分が声をかけられるとは思ってもみなかったらしく、戸惑いの表情を見せている。


 泣き腫らしていたのか目は真っ赤に充血し、頬に涙が伝った跡が残っているのが痛々しい。

 エステルは胸が締め付けられたが、ことさら明るい調子で少女に接する。

 彼女もその雰囲気につられたのか、多少は表情も和らぐ。



「ちょっと聞きたいんだけど……あ、言いたくなかったら言わなくてもいいから」


「う、うん……何かしら……?」


 少女の了承を得てから、少し慎重にエステルは問う。



「あなたが攫われたのは……王都のどの辺りだった?」


「え……?ええと、確か……南街区の……」


「ふむふむ……それで、やっぱり『宵闇亭』ってお店から地下に……?」


「い、いえ……目隠しされて場所は分からなかったけど、私を捕まえた人は確か……『新月亭』って言ってたわ」


「ふむ……私とは別の場所なんだね……」



 そうやってエステルは少女から連れ去られた経緯を聞き出した。


 そして、他の少女たちにも同様に聞き込みを行っていく。

 中には憔悴しきって喋ることもままならない少女もいたが、エステルが癒やしの奇跡を使うと喋られるくらいには元気を取り戻した。

 本来、聖女の癒やしの奇跡は精神的な要因を取り除く事は出来ないのだが……もしかしたら、彼女のありあまる元気が癒やしの力を良い方向に作用させたのかもしれない。


 その少女だけでなく、エステルが声をかけた者は程度の差こそあるものの、誰もが少し元気を取り戻したようだ。

 そして、最初は誰もがうつむき会話などする気力も無かった少女達は……いつしか、そこかしこでお喋りを始めていた。

 同じ境遇の者同士……ある意味、仲間意識が芽生えたと言うこともあろうが、彼女たちを結びつけたのはエステルだ。

 いまも、少女たちの中心となって明るい笑顔を振りまいていた。



 その様子を少し離れたところで見ていたクララは、彼女こそ太陽の女神エル・ノイアが遣わしてくれた聖なる乙女だと思った。

 まだ助かる確証など無いはずなのに、彼女の力ある言葉に誰もが勇気づけられ希望を抱いている。



(ティーナお姉ちゃん、エステルさんに助けを求めてくれてありがとう)


 そして、彼女に自分を助けてくれるよう懇願してくれたであろう姉にも、心の中で感謝するのだった。










(……というのが、人攫いたちの連絡拠点となってるお店ですね。『宵闇亭』以外にも結構あちこちにあったんですね〜)


(ああ、そうだな……これまでもいくつか連絡拠点は潰してきたんだが。捕まえられたのは末端の構成員ばかりだった。しかし……流石に今聞いた全ての拠点を一斉に摘発すれば、おそらくボロも出るはず。もう少し幹部の情報も得られれば……今度こそ中枢を叩き潰してやる……!)


 アルドの決意の思いが、念話でもはっきりとエステルに伝わってくる。

 普段は温厚で優しく思慮深い彼(※エステル視点)の、民を思う熱い心を感じたエステルは……


(アルド陛下、カッコいいです!!)


 と、素直に称賛した。


(う、うむ……)


 想い人からそんなことを言われれば、当然彼も悪い気はしない。

 だから、冷静を装って鷹揚に返すものの、顔が緩んでしまうのは仕方のないことだろう。







「……なにニヤニヤしてるんすか?まさか、エステル嬢と念話越しにイチャついてるんじゃないでしょうね?」


「イチャつくと言うか……多分、『陛下、カッコいい!』とか言われたんじゃないですかね?」


「あ〜、言いそうだよなぁ……特に他意もなく」


「そうそう。特に他意もなく」


 アルドがエステルと念話で話している様子を周りで見ていたディセフとクレイが好き勝手に言うが、それは大体合っている。



「お前ら……まあ、いい。エステルが少女たちから聞いた情報だ。『宵闇亭』以外の連絡拠点となってる店のいくつかが判明した」


 二人にジト目を向けたアルドだったが、直ぐに真面目な表情になってエステルから得た情報を部下たちに伝える。



「おお……早速そんな情報が入るとは……!急ぎ監視の手配をします!」


「頼んだ。ここ『宵闇亭』の現場も引き続き交代で監視しろ。それから……」


 テキパキと各方面に指示を飛ばすアルドとディセフ。


 クレイはその様子を眺めながら思った。


(アイツがちゃんと潜入任務をこなしているだと……!?信じられん……!)


 相変わらずエステルに対しては失礼な男である。




「クレイ、ギデオン。俺たちは神殿の方に向かうぞ。そこが『宵闇の翼』の本拠地かどうかはまだ分からんが……重要な施設であるのは間違いない」


「「はッ!」」


 アルドとクレイ、そして店から出てきて合流したギデオン、ほか何人かの騎士たちは、夜の闇に紛れるように静かに移動を開始する。

 目指すはエステルが潜入したと思われる場所……エル・ノイア神殿。



(アイツにばっか活躍されたら……調子に乗るのが目に見えてる。早く俺にも活躍の機会が巡ってくれば良いんだが)


 他の者たちと歩調を合わせながら進むクレイは、内心でそんな事を思うくらいには余裕があるようだった。



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