囚われの少女たち
(神殿?女神様のですか?……でも、確かに距離と方角は合ってるかも)
(君が報告してくれた道筋を地図に照らし合わせるとそうなる。あの神殿も王国成立以前から存在して、増改築を繰り返してきたというから……何かしら秘密の空間があっても不思議ではないのだがな)
(女神様のお膝元で悪さしてるなんて……バチあたりな!!)
(そうだな。もし本当にそこが神殿の施設なら……ただでさえ許されざる所業だが、さらに罪深い。問題は神殿自体の関与があるかどうかだが……今段階では何とも言えんな)
そんなふうに、アルドと念話をしながら連絡員の男に案内されて階段を上っていくエステル。
宵闇亭から降りたときよりもかなり長く、既に二〜三階くらいの高さは上ったと思われた。
(これだけ上っても出口に辿り着かないって事は……やっぱり、神殿の土台になってる築山の中なのかも)
(まず間違いないだろう)
王都の中でそれほどの規模の建造物は、王城の他には神殿くらいだ。
二人は既にそこが神殿の中であることを確信していた。
やがて、長い階段は終わりを告げ……行く手に扉が待ち受ける。
重たそうな鉄製の物だ。
キィ……と軋んだ音を立てて男が扉を開く。
その先は、これまでの通路とは趣が異なっていた。
薄暗かった照明はかなり明るくなり、殺風景な石造りの壁は純白の漆喰で塗り固められていた。
床も光を反射するほど滑らかに磨き込まれた石材となり……なるほど、ここが神殿の内部と言われれば、そう思えるくらいの雰囲気だ。
雰囲気は変わったものの、これまでとさほど変わらない狭さの通路を更に奥へと進んでいく。
すると。
再び扉が現れるが、今度は見張りらしき男が二人、扉の前に立っていた。
そして、連絡員の男が門番たちに声をかける。
「『商品』となる娘を連れてきた。通してくれ」
「……では、証を見せろ」
値踏みするようにエステルをジロジロと眺めた門番の一人言うと、連絡員の男が懐から何かを取り出して見せた。
「……よし。通れ」
「ああ。……行くぞ」
男に促されてエステルは扉を潜るが……門番たちの粘りつくような視線を感じ、彼女は不快に思うのだった。
(……またイヤらしい目で見られてる気がする。捕まってる女の人たち、大丈夫かなぁ……)
自分がそういう対象として見られている事に慣れない彼女は辟易としながらも、自分以外の捕まってる女性たちが酷い目にあっていないか……と心配する。
二つ目の扉を潜った先は通路の幅も広くなり、両側には何らかの部屋と思われる扉が並んでいた。
「……ここに女の人たちが囚われてるの?」
扉の一つに視線を向けながらエステルは男に質問する。
「いや、ここは空き部屋が並んでるだけだ。女達は一箇所に集められてる。これからお前もそこに行くんだ」
男は律儀に問に答えてくれる。
もうここまでくれば逃げ出せない……と高を括ってるのだろう。
そしてやってきたのは、先程と同じように二人の門番が守る扉の前。
先程の扉よりもかなり大きく、女性たちが集められているという事から大きな部屋であることを窺わせる。
「さあ、着いたぞ。お前はここで大人しくしていろ。なに、暫くは退屈するだろうが、直ぐに出られるさ。……売り物としてだがな。くくくっ」
「…………」
男の厭味ったらしい言葉に、エステルは反応を返さない。
「流石にびびったかぁ?まあ、いい。おい、コイツを中に入れてくれ。俺は『仕入れ』の報告をしてくる」
「ああ。しかし、今度の娘はかなり上玉じゃないか」
「だろう?オークションもかなり盛り上がるだろう」
門番は男とそんなやり取りをしながら、扉の鍵穴に鍵を差し込んで解錠する。
そして、扉を開いてエステルに入室を促した。
「よし、入れ」
「…………」
やはりエステルは無言だが、言われるがままに部屋の中に入るのだった。
その部屋はかなりの大きさだった。
エステルが後宮に与えられた部屋の居間よりも広い。
しかし、その中には多くの女性たちが囚われており、むしろ手狭に感じられるほどだった。
およそ二〜三十人ほどはいるだろうか。
何れもエステルとそう変わらない年頃の少女たちばかり。
想像以上の数にエステルは驚きを露わにする。
「こんなにたくさん……許せない……」
実際に人身売買組織の所業を目の当たりにしたエステルは、再び怒りがふつふつと込み上げてくるのだった。




