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ポンコツ王と秘密の地下通路


 『宵闇亭』の裏口から入った場所。

 そこは一見して単なる倉庫と思われたが、地下へ通じる階段が隠されていた。



「う〜ん……なるほどなぁ……やはり店に秘密が隠されていたのか。おそらく地下通路か何かで別の場所に行けるようになってるんだろう」


 エステルの念話によってもたらされた情報に、ディセフは唸りながらそう言う。

 これまでほとんど手がかりが掴めなかった原因の一つは、この隠し通路の存在だろう。

 そして、そんな大掛かりな施設を準備できるところを見ると、やはり相当大きな組織が背後にいることを示している。



「よし!では総員突にゅ「いやいやいや!?待ってくださいって!!」


 宵闇亭に秘密があったと知るやいなや、アルドは配下の騎士たちに突入を命じようとしたが、慌ててディセフが止めに入る。



「陛下!!なにやってんすか!?まだ潜入したばっかじゃないですか!!」


「敵の地下施設が割れたんだ。もういいだろう?早くエステルを助け出さなければ!!」


「いやいやいや……まだ本拠地に通じてると決まったわけじゃないですし、今から突入してもトカゲの尻尾切りされるのがオチですよ。これまで散々やられてきたでしょ〜に……」


「お前はエステルが心配じゃないのかっ!?」


「……いや、陛下から話を聞く限り、随分と余裕そうでしたけど。とにかく!!落ち着いてください!!エステル嬢が危なそうだったら直ぐに突入させますから!!」


「……ほんとだな?絶対だぞ?」


 何とかアルドの暴走を押し止めたディセフ。

 しかし、アルドは取り敢えずはいったん落ち着いたものの、何度もしつこく念押しする。



(あ〜、もう……エステル嬢が絡むと途端にポンコツになるなぁ……当の娘もあんな調子だし……胃が痛ぇ……はぁ……)


 自分が言い出した作戦とはいえ、ディセフは内心でそんなふうに思いながらため息をつく。


 そこに、店の方で待機していたクレイが様子を見にやって来た。

 ギデオンは店に残してきたようだ。


「店の方は特に変わった動きはありません。……って、何やってんですか?」


「おお、クレイか。……お前も、今から突入しようとか言い出さないよな?」


 エステルの幼馴染である彼ならば、やはり彼女の事が心配だろうし……アルドと同じことを言い出さないかと、ディセフは疑心暗鬼になっている。



「……はぁ??今潜入したばかりで何言ってるんですか?作戦はまだ始まったばかりでしょう?」


「そうだよな。普通はそう思うよな。全くもってお前の言う通りだ」


 常識人クレイの言葉に、ディセフは救われたような気がした。


 しかし。



「クレイよ、お前はエステルが心配じゃないのか!?」


(あぁ……面倒くさ……)


 ディセフは内心で不敬な言葉で毒づいて、遠い目をする。

 その様子を見たクレイは、何となく事情を察してディセフに同情しながら、主君の言葉に答える。



「もちろん心配は心配ですが……アイツなら問題ないでしょう。……いや、どちらかというと作戦がぶち壊しになる心配の方が……」


「く……これが長年連れ添った幼馴染の絆か……!俺も彼女を信じて待つぞ……!」


 ……いや、クレイはエステルの強さに対しては絶大な信頼を置いてるが、作戦遂行能力に関しては微塵たりとも信頼してない。


 しかしアルドは都合よく(?)解釈して、二人の絆の強さの前に対抗心を燃やすのだった。



(……とりあえず収まったから、良いか)


 ディセフはその場が収集されたことに安堵し、密かにクレイに感謝する。

 そして……


(しかし、早く作戦を終わらせてエステル嬢を後宮に戻さないと……陛下が使い物にならないって、フレイに怒られそうだなぁ)


 などと、何度目かのため息をつくのだった……









 地上側でそんなやり取りが行われていたころ。

 連絡員の男に連れられ地下に降りたエステルは、ひたすら狭い通路を歩かされていた。

 階段を降りた先には、先が見通せないほどに細長い通路が続いていたのだ。


 男はエステルが逃げ出さないように、彼女の手を縛っている縄を掴んで後ろを歩く。



(……随分と古そうな通路みたい。ヘンな匂いもしないから下水道とかじゃないみたいだけど……)


「んん〜んん、んんっんんん?(おに〜さん、ここってどこ?)」


「何言ってるか分からん。……まぁ、もう外してもいいか」


 エステルが騒いだとしても、もう聞き咎めるものもいないだろうと判断した男は、彼女の猿轡を外した。



「ぷはっ!……ん〜、ありがと、お兄さん……でいいのかな?」


「……何だ、本当に落ち着いてやがるな。お前、自分がどういう状況なのか分かってるのか?」


「そ、それはホラ!お兄さんみたいな強そうな人(あんまり強そうじゃないけど)から逃げようとしても無駄だろうし……」


「くくく……分かってるじゃないか。まぁ、こちらとしても大人しくしてくれてる方が助かるからな」


「そうそう。それで、ここってどういう所なんですか?」


 出来る聖女騎士エステルは、ただ黙ってついていくだけではなく情報収集も欠かさない。



「ここか?さあ……俺は単なる連絡係だからな。ただ命令に従って、女たちを監禁場所に連れてくだけだ。……『宵闇の翼』の全容を把握してる者なんざ、ごく限られた幹部連中だけだ」


「ふ〜ん……(こいつも下っ端なんだ……)」


「……長生きしたかったら、あまり詮索しないほうがいいぞ。まぁ、お前の場合は長生きしても幸せとは限らんがな」


(む……その笑い方は、何かえっちなこと想像されてる気がする。縄引きちぎって全力のデコピンかましたい)


 ……多分死んでしまうので、やめてあげて下さい。




 男は喋りすぎたと思ったのか、エステルが質問を続けてもそれ以上は何も語ることはなかった。


 しかし、着実に裏組織には迫っているはず……

 エステルはそう思い直して、昏い通路を歩いていくのだった。



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