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潜入開始


 日が沈んでから暫くの後。


 拘束されて麻袋を被せられたエステルは、人攫い(役)たちが引く荷車に横たえられて運ばれていく。

 荷車には大きな布がかけられているので、傍目には何を運んでいるのかは分からないようになっている。


 車輪が街路の石畳を転がるガラガラという音が裏路地に鳴り響き、細かな振動が荷台に横たわるエステルにも伝わってくるが、流石の彼女もそんな状態ではどこに向かっているのかまでは分からない。



(……ガタガタ揺れて地味に痛いんだけど。退屈だな〜)



 身動きが取れず目隠しもされた状態では何もする事が出来ない。

 ただじっとしてるだけなのは、活動的な彼女にとってはさぞかし苦痛な事だろう。



 しかし、その退屈な時間も終わりを告げる。

 騎士団詰所の近くの空き家から人目につかないように出発した荷車は、目的地である『宵闇亭』の裏口前に到着した。


 人攫い役のゴロツキの一人が表に回って店に入る。

 ここで連絡要員との接触が行なわれるはずだ。

 店の周辺では、騎士たちが潜んでおり、怪しい動きが無いか監視している。


 その中にアルドもいる。

 ディセフは、国王自らが作戦に参加することについて、最初は難色を示していた。

 だが、念話での速やかな連絡のために必要だろう……と押し切られた形だ。

 



 暫くすると裏口の扉が開いて、中から何者かが姿を表す。


「……それが『商品』か?」


 荷車を一瞥してその人物が問う。

 目深に被ったフードで顔が隠されているが、体格や声からして男であるのは間違いないだろう。



「へ、へい、そうです。……へへへ、今回は目ん玉が飛び出るくらいの上玉、それも生娘ですぜ。ダンナもきっと驚くこと間違いなし、でさぁ」


「ほう……それが本当なら、次回のオークションもさぞかし盛り上がる事だろう」


 男たちは小声で会話を交わす。

 ゴロツキの男はエステルの商品価値をアピールし、連絡員の男から機嫌の良さそうな答えが返ってくる。

 そこに何かを疑うような素振りは見られない。



(……へ〜か、『生娘』って何ですか?)


 エステルは念話でアルドに質問する。

 アルドたちに会話は聞こえないが、その言葉から何となくやり取りを察した彼は答える。


(あ〜、何と言うか……キミが魅力的だ、と言ってるのだろう)


(えへへ〜、褒められちゃった)


 何とも緊張感が無い様子だ。

 アルドとしては、彼女が恐怖に怯えていないことに少し安堵することが出来たので良かったのかもしれない。



 そうしているうちに、連絡員の男は辺りに人が居ないことを注意深く確認してから、荷車ごと裏口の中へと招き入れる。



(エステル、『宵闇亭』の中に入るぞ。一応、店の方にクレイたちが客として紛れているいるが……ここから先は、こちらから中の様子は探れない。何かあれば直ぐに連絡してくれ)


(は〜い、分かりました!でも、この状態だと何がなんだか……早く袋から出してくれないかなぁ……)



 エステルがそう思っていると、彼女の上体が起こされて麻袋を縛っている縄が解かれようとする。

 

 と、その時。



「んむっ!?(うきゃあっ!?)」


(どうしたっ!?)


 エステルの悲鳴にアルドが焦りの声を上げる。

 実際に声にも出そうになり、何とか抑える事が出来たが……



(あ、いえ……ちょっと……変なトコに手が当たって……)


 彼女にしては歯切れが悪いが、アルドには何が起きたのか察する事が出来た。

 普段あまり女の子らしいところを見せない彼女でも、年ごろの娘には違いない。

 異性に触れてほしくない場所もあるだろう。










「突入する」


「だぁ〜っ!?何言ってるんですか!!」


「エステルの貞操の危機だ。こうしてはおれん!」


 男どもの手がエステルの身体に触れたのを我慢出来ないアルド。

 声は抑えているが、怒りで冷静さを欠いているようだ。



「抑えてくださいって!たまたま手が当たっただけでしょう!?」


「離せディセフ……!彼女の玉体に触れるなど万死に値する!!」


「玉体って……って、力強っ!?お前たち!ぼ〜っとしてないで陛下を抑えるの手伝ってくれ!!」


「「「は、はいっ!!」」」


 宵闇亭を見張っていた騎士たちの間に緊張が走る。

 ……全く想定していない事態によって。


 にわかに路地裏が騒がしくなるが……裏口の扉は既に閉められていたので、連絡員の男に気付かれる事は無かったのが救いかも知れない。



「は、ははは……人選ミスったかなぁ……」


 ディセフは天を仰ぎ、乾いた笑い笑いとともに嘆きの言葉が漏れ出る。

 それは今更な話だろう……と、周りの部下たちも顔を見合わせて苦笑いを浮かべるしかなかった。



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