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朝のあれこれ



 朝から思いもよらないハプニングがあったが、エステルは特に気にしていない。

 うら若き乙女としてそれはどうなのだろうか……


 だが、アルドとしては嫌われずに済んだので良かったのかもしれない。

 彼自身は男として微妙な気持ちだったかも知れないが。



 そして、アルドが出て行って暫くしてから、エステルの世話をするためクレハがやって来た。

 


「おはようございます、エステル様」


「あ、おはよ〜ございます、クレハさん!」


 朝の挨拶を交わす二人だが……

 クレハがエステルの首筋あたりに視線を向けると、彼女の顔が少しだけ赤くなる。



「どうしたんですか?」


「あ、いえ……何でもございません」


「?」


 クレハの様子を不審に思ったエステルは、首を傾げて疑問を口にしたが、クレハは言葉を濁して誤魔化す。


 彼女は、昨夜アルドがエステルの寝室にやって来たことを知っている。

 朝早くに帰っていったことも。

 そして、エステルの首筋には赤い跡が残っていて……

 それを見たクレハは、昨日ここで何が行われていたのかを想像してしまったのだ。



(……エルネア王国は安泰ですね)


 クレハの誤解はもう解けることはないだろう……











 同じ頃……

 アルドは昨晩の遅れを取り戻すために、早々に執務室で仕事を始めていた。


 そして、いつも通り宰相フレイもやって来る。



「陛下……エステル嬢に手を「出してない」……そうですか」


 フレイがそう言うのを予想していたアルドは、即座に否定する。



「……と言うか。お前に情報が伝わるの早すぎやしないか?」


「何をおっしゃいますか。情報は鮮度が命ですよ?文官の長たる私にとって、情報こそが生命線なのです」


「……俺のプライバシーも考慮してくれ」


 今回も、クレハ→ドリス→フレイのホットラインなのは想像に難くない。



「しかし、一晩を共に過ごして何も無いとは……ヘタレですね(自制心が強いですね)」


「本音と建前が逆になってるぞ!?」


 王の腹心は付き合いも長いので、なかなか遠慮がない。

 王を相手にしても言うべき事は言うフレイを、だからこそアルドは信頼しているとも言えるのだが。



「まあ冗談はさておき」


「冗談で済ますなよ……」


「騎士団から例の作戦の計画書を預かったのでお持しました」


 そう言ってフレイはバサバサと紙の束を執務机に置く。



「何だ、ディセフが持ってくるかと思ったが」


「昨晩は陛下がよろしくやっていて不在だったので、私のところに持ってきたんですよ。彼は今日、各方面との調整で手が離せないので渡しておいてくれ、と」


「言葉に棘があるぞ。不可抗力だったんだから仕方ないだろう。身動きも出来ず、むしろ生殺しだったんだからな」


「……何があったのかは聞かないでおきます」


 どうやらフレイは、アルドが仕事を放り出してエステルの所に行って帰ってこなかった事にご立腹だったようだ。

 だが、アルドの疲れ切った表情を見て少しだけ同情の目を向けた。



「憐れみの目で見るのはやめろ……。それよりも、だ。ディセフは他に何か言ってなかったか?」


「そうでした。本日、二名の騎士を新たに叙任してほしい……との事でした。先日の登用試験で既に内定が決まってる者なのですが、今回の作戦の戦力増強のため前倒しで入団させたい……とか。確か、そのうちの一人はエステル嬢の同郷の者ですね」


「あぁ、クレイか。あいつも相当な手練れだから戦力として大いに期待できる……どころか、主戦力でも良いくらいだ」



 アルドはディセフに誘われて、こっそりと登用試験の模擬戦を見学している。

 数日前にゴロツキどもと戦った姿を見て、クレイが相当な実力の持ち主であることは分かっていたが、模擬戦のギデオンとの戦いでそれは確信に至っている。

 エステルには及ばないものの、突き抜けた力を持った強者である……と。



「とにかく、略式でも叙任ともなれば俺が立ち会わねばならないからな。時間になったら教えてくれ」


「はい、お願いします」



 一通りやりとりを済ますと、フレイは執務室を出て行き、アルドは作戦計画書を確認し始めた。



(……作戦の決行日、つまり、エステルが囮として潜入を開始するのが明日の夜。オークションの開催日と目されている日は三日後……やはり、気が進まんな)



 国王として正しい判断をしたはずだが……

 一晩中その腕の中に抱いた愛しい少女の柔らかな感触と体温、甘やかな匂いを思い出し、アルドの心の中に後悔の念が沸き起こる。

 しかし、それを責めるのは酷というものだろう。


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