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宵闇亭にて



 夕暮れ時の賑わいを見せる王都の街路を、二人組の若い男たちが歩く。

 その足取りは軽く、お互いに気軽なやりとりをしていた。



「まぁ、いい運動にはなったかな……」


「やはりこの辺りの魔物では物足りなかったか?」


「いや……最近あまり身体を動かせなかったからな。ちょうど良かったよ」



 クレイとギデオンである。


 彼らは朝にハンターズギルドで依頼を受けて、王都郊外に出没する魔物退治を行っていた。

 辺境の魔物と比べればその強さは比較にならず、ギデオンが言った通りクレイにしてみれば物足りなさを感じるものだった。

 とは言っても、彼が王都に来てからは身体を動かす機会も殆どなかったので、多少は発散できて良かった……とクレイは思っていた。


 そして今はギルドにも報告を済ませて、夕食をとるため店に向かってるところだった。



「昨日のところでいいか?」


「ああ、そうだな。よく行くのか?あの店……『宵闇亭』だっけか」


「いつもは家でお袋が作ってくれるんだが。安くて量が多くてそこそこ美味いんで、外食するときは大体あそこだな」


「いいのか?別に俺に付き合わなくったって良いんだぞ?お袋さん待ってんじゃないか?」


「今日は遅くなるかもって言ってあるから大丈夫だ。まぁ、気にすんな」



 そんな会話をしながら、多くの人が行き交う街路を歩いていた彼らだったが……



「お前たち、ちょっと良いか……?」



 と、突然横合いから声をかけてくる者がいた。



「ん?……俺たちですか?」


 クレイが返事をしながら声のした方を見ると……そこには騎士の略装を纏った男が立っていた。

 どこかで見たことがある……クレイはそう思ったが、おそらく騎士登用試験の時に見かけたのだろう、と当たりをつけた。



「ああ。クレイにギデオン……だな。俺は王国騎士団所属のディセフという。登用試験にも少しだけ顔を出していたんだが、覚えていないか?」


「あ〜、何となく覚えてます」


「俺たちに何か用事ですか?」



 突然街中で声をかけてきた事を怪訝に思いながら、二人は普段よりもやや丁寧な口調で答える。

 もしかしたら、自分の上司となるかもしれない……と思ったからだ。



「ああ、これからお前たちの滞在先に向かうところだったんだ」


 ディセフはクレイの滞在している宿や、ギデオンの実家に向かうところだったのだが、たまたま街路を歩く二人を見つけたので声をかけたのだった。



「俺たちのところに?……試験の関係ですか?」


「そうだ。……ここで立ち話もなんだから、何処か店に入らないか?」


 どうやら込み入った話のようだ。

 そう思ったクレイは、丁度これから夕食のため店に向かっているところだと説明し、ディセフも同席することになった。




 そしてやって来たのは、昨日もクレイとギデオンが食事を取っていた店……『宵闇亭』だ。

 店に入る時、何故かディセフが厳しい表情を見せたのをクレイは不思議に思った。




「それで……俺たちに話というのは?登用試験の結果が出るのはもう少し先でしたよね?」


 三人がそれぞれ注文したあと、クレイは早速切り出した。

 彼が言った通り騎士団登用試験の結果は数日後に発表される予定だ。

 今このタイミングで話があるというのは、それに関連したものだとは思ったが、それが何なのかクレイには想像もつかない。



「確かに発表はまだなんだがな……実はお前たちの合格は既に決まっている」


「ほ、本当ですか!?」


「……良いんですか?正式発表の前にそんな事リークしても」


 あっさりと告げるディセフの言葉にギデオンは驚きとともに喜ぶが、クレイは冷静に聞き返す。



「構わない。こう見えても俺は責任者だ。それに、誰の目から見てもお前たちの合格は明らかだったからな」


 試験は模擬戦だけでは無いのだが、その圧倒的な実力を見れば誰もがそう思うだろう。



「そうですか……でも、何で今それを教えてくれるんです?」


「それはだな……お前たちほどの実力がある者に一日でも早く入団してもらいたい事情があるんだ」


「事情……?」



 ディセフはそこで一度周囲を見回して、少し声を落として言う。


「実は……騎士団では近々、大規模な作戦が行われる事になっている。失敗することが許されない非常に重大な作戦だ」


 そこまで聞けば、ディセフが何を言おうとしているのか二人には分かった。



「俺たちも、その作戦に参加しろ……と?」


「そうだ。折角お前たちほどの実力者が騎士に内定してるんだ。強者は多ければ多いほど良い」



 その言葉を聞いて、クレイは何かが繋がるような感覚を覚えた。


「もしかして……その作戦にはエステルも参加する事になってるのでは?」


 エステルはクレイに対して、『国王から極秘任務を任された』と言っていた。

 それが今回聞かされた『作戦』の事ではないか……と彼は考えたのだった。


 エステルがその時言った『極秘任務』は、また別の話なのだが……彼女は関わっているどころか『作戦』の要なので、クレイの推論は結果として間違ってはいなかった。



「そうだ。エステル嬢には重要な役目があるのだが…………ちょっとここでは説明できないな」



 再び周囲を見回して言いにくそうにするディセフ。

 この店は『宵闇亭』……エステルが捕えた人攫いのリーダーが、連絡場所と言っていた店である。


 周囲は賑やかであるし、聞き耳を立ててる者もいないが……流石にここでこれ以上の話をするには不都合があるだろう。



「明日、王城の騎士団本部まで来てくれないか?詳しい話はそこでする。略式だが騎士の叙任もやってしまおう」


 そう言ってディセフはひとまずこの場での話を締めくくった。


 それを聞いたクレイとギデオンは顔を見合わせて、急な話の展開に戸惑いを見せるのだった。



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