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人身売買組織壊滅作戦2



 人身売買組織壊滅作戦に参加することとなったエステル。

 彼女は囮役……つまり、人攫いに捕まった哀れな街娘としてオークションにかけられる役目である。




 実は騎士団の中では以前から囮作戦は検討されていた。


 しかし、少数あるいは単独での潜入となるため、当然ながら非常に危険がつきまとう任務となる。

 いざというときに単独でも切り抜けられる程の戦闘能力が求められるのだが……現在の騎士団の中には、それほどの力を有する女性騎士がいなかったのである。

 更に言えば、より中枢に近付くためには、より『商品価値』が高い……つまり、見目の美しい若い娘である必要があった。



 その点で言えば、エステルはまさに理想的な囮役だ。

 騎士たちは未だ半信半疑ではあるが、その戦闘能力は折り紙付き……どころか、国内最強の一人と言われている国王アルドとも互角だという実力者。

 そして、国王の後宮に入るほどの美貌を持つ若い娘である。



「という事でエステル嬢には、捕まった娘のフリをして内部に潜入してもらいたい」


「はいっ!お任せください!必ずや私の手で女性たちを救い出して、悪人たちを残らずボコります!!」


「い、いや……状況を把握して態勢が整いしだい騎士たちが突入するので、エステル嬢は基本的には救援が来るまで大人しくしておいて欲しい」


「……分かりました」


 エステルはちょっと不満げである。

 敵地に行ったら大暴れしたかったようだ。

 だが不満そうにしながらも文句は言わない。

 彼女は良い子だから。



 しかしその様子を見たディセフは、『……もしかして早まったか?』と内心思い、冷や汗が頬を伝う。


 なので、もう少し釘を差すことにした。



「……くれぐれも先走った行動は慎むように。それもまた騎士の務めだ」


 エステルはまだ騎士では無いのだが、彼は敢えてそのような物言いをする。


「騎士の……はい!分かりました!」


 今度は彼女もしっかりと返事をした。

 どうやらディセフは、早くもエステルの扱い方を理解したようだ。

 流石は王の懐刀、優秀である。





「でもディセフさん、『状況の把握』ってどうするんですか?内部に潜入するのは私だけなんですよね?」


 エステルがそのような疑問を口にするが、それは当然だろう。



「それについては……陛下?」


「ああ、俺から説明しよう。エステル、君には王城内で自由に行動するためのアイテムを渡しているだろう?」


「アイテム……?あぁ、これですか?」


 エステルは、自身が身につけているペンダントをつまみ上げて見せる。

 細い金の鎖に繋がれた鮮やかな赤い宝石だ。



「そうだ。実はそれにはいくつか魔法がかけられている」


「魔法……?」


「一つは城内の通行許可証として機能するための魔法。そしてもう一つは……『念話』の魔法だ。俺のこのペンダントと対になっている」


 そう言ってアルドは首にかかった銀の鎖を引っ張って、懐から青い宝石が嵌められたペンダントを取り出して見せる。



「あ!お揃いなんですね〜」


「う、うむ……」


 エステルが指摘した通り、彼の身につけているペンダントは色は異なるが、エステルのものと同じ意匠のものだった。

 無邪気に喜ぶエステルに対して、アルドは気恥かしげに顔を赤くしている。

 何だか騎士幹部たちのアルドを見る目が生暖かくなっているように思えた。



「そ、それでだな……君は『癒やしの奇跡』が使えるのだから魔力の扱いは慣れてるだろう?」


 アルドの言葉にどよめきが起きる。

 エステルが聖女でもあることに驚いているのだろう。

 そんな周りの驚きをよそに、二人は会話を続ける。



「え〜と……魔力操作は出来ますけど、普通の魔法は使えないです」


「君自身が魔法を使う必要はない。その宝石に魔力を流し込めば『念話』が発動して、ある程度離れていても俺と心の中で話が出来るようになる」



 その説明を聞いたエステルは、さっそく意識を集中させて自身の身体に流れる魔力を赤い宝石に流し込もうとする。


「魔力……こうかな?(……アルドさま、聞こえますか?)」


「ふむ……(聞こえるぞ。問題なさそうだな)」


「わぁ……!凄いです!これでいつでも陛下とお話出来ますね〜!」


「あ、ああ……」


 実際に『念話』ができることを確認したエステルが、本当に嬉しそうに言うものだから、アルドは再び赤面してしまう。

 はたから見ると実に仲睦まじい様子に、騎士幹部たちの視線も益々生暖かいものとなる。


 もちろんエステルはアルドに恋愛感情を抱いているわけではなく、『仲の良い人といつでもお喋りできる〜』という程度の認識でしかない。

 彼女は、乙女心だけでなく男心も解さない乙女である。



「と、ともかくだな……これで連絡手段は確保できるから、内部の様子を俺たちに教えてくれると助かる」


「アルド陛下、分かりました!!じゃあさっそくこれから殴り込みを……」



「おいおいおい……さっき俺が言ったこと覚えてるかな〜?」


 エステルの言葉に、ディセフが乾いた笑みを浮かべながらツッコむ。

 彼はクレイに続くツッコミポジションに収まるかもしれない。



「分かってますよ〜。悪者をやっつけるのは、騎士の皆さんがカチ込んで来てからですよね!」


「ま、まあ、そうなんだが……取り敢えず、作戦の決行は今日じゃない」


「え!?」


 今日これから敵地に突貫する気満々だったエステルは、ディセフの言葉に驚きを隠せない。



「な、何でですか!?こうしてる間にもティーナさんの妹さんは……他の女の人だって早く助けないと!!」


 納得がいかないエステルは物凄い剣幕でディセフに詰め寄る。



「お、落ち着けって!……いいか、この作戦は失敗は許されない。ただ一度だけのチャンスを確実にものにして、完膚無きまでに裏組織は潰さなければならないんだ。分かるな?」


「うぅ……でも……」


 ディセフの言う事はエステルにも分かる。

 彼女は面倒くさがりで深く考えるたちではないが、頭は悪くない。



「安心しろ、と保証しきれるものではないが……ある筋の情報では、次の闇オークションが開催されるまでには数日はあるらしい。それまではしっかり準備を整えるんだ」



「むぅ……」



「捕らえられた娘たちが心配なのは俺たちも同じだ。だが、少なくとも彼女たちは奴らにとって大切な『商品』だからな……無闇に傷付けるような真似はしないはずだ」



「……分かりました」



 ディセフの説得に、渋々納得した様子のエステル。


 そんな彼女の様子を見たアルドは、優しい笑みを浮かべて言う。



「君が囚われの女性たちを心配する気持ちは良く分かる。俺たちも同じ気持ちだからだ。どうか、俺たちを信じてくれ」


 彼の真摯な言葉に合わせて、居並ぶ騎士幹部たちも力強くエステルを見つめる。


 彼らはエステルの実力の程はまだ分かっていないが、彼女が我が事のように囚われの女性たちを心配する様子に好感を覚えたのだ。



「それともう一つ」


「?」


「ディセフはああ言ったが、もし君の身に危険が及ぶようなら……貞操の危機を感じたのなら、遠慮なく剣を振るえ。自分自身を守ることを優先するんだ」


「て〜そ〜……えっちな事をされそうになったら、すり潰して良いって事ですね!」


「う、うむ……」



 すり潰すって……何を?

 とは、誰も聞くことは出来なかった。


 ……怖いから。



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