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王の決断


「陛下、失礼します」


 王の執務室。

 国王アルドは朝から書類仕事に集中していたが、昼近くになってようやく一息つこうとしていた。

 そこへやって来たのは……



「ディセフか。どうした?……エステルに何かあったのか?


 アルドはエステルに対して『自由にして良い』と言ったが……彼女の動向は気になるので、ディセフに『それとなく見守るように』と指示していた。


 ……間接的なストーカーである。

 とは言え、アルドが本気でエステルを将来の伴侶に……と考えているのであれば、その動向を押さえるのは当然の指示とも言えるだろう。


 そして、その指示を出したはずのディセフがこうしてここに来ていると言う事は、何かあったのではないか……と、アルドは思ったのだ。



「ご心配なさらずとも、今はもうエステル嬢は後宮に戻ってますよ。……まぁ、『何か』はあったんですけど」


 苦笑いしながらディセフは言う。


「何があった?話してみろ」


 ディセフの様子から深刻な事ではないと察するが、続きを促すアルドの声は真剣そのものだ。

 エステルの事が気になって仕方がないのだろう。



「実は……」


 そしてディセフは、先ごろあった『事件』を主に説明する。


 エステルの尾行は部下に任せても良かったのだが、何となく予感がしたのか……彼は自ら彼女の後をつけていた。

 気取られないようにエステルからかなりの距離を取っていた彼は、突然彼女が走り出したのを見て慌てて追いかけようとしたが途中で見失ってしまった。

 ……まさか屋根に登って道なき道を進んでいくなど、彼の想像の範囲外の事だっただろう。


 見失いました、では済まされないと思ったディセフは、エステルが向かった方角だけを頼りに裏路地を駆け抜け、何とか再び彼女を発見することが出来たのだ。

 ……なお、見失ってしまった事実はアルドには秘密にしておくようだ。



 そして、その後はご存知の通り。

 攫われそうになっていた少女を助けるため、エステルがゴロツキどもをボコボコにし、彼女は人身売買組織の事を知る。

 ディセフはその様子を隠れて見ていたのだった。



「……お前、エステルが戦っている間、黙って見てたのか?」


「睨まないでくださいよ。秘密裏に……って事だったでしょう?……でも、まぁ、そうも言ってられない展開になりそうだったんで、しょうがないから姿を見せることにしたんですけど」


 放っておけば……夜になったらエステル一人で敵地に突貫してしまいそうだ、と彼は思ったのだ。

 ……まったくもって大正解である。



「なるほどな…………しかし、人身売買組織の事は早急に何とかしなければ。今までが後手に回りすぎだ。これ以上国民を犠牲にするわけにはいかん」


「……耳が痛いですね。俺らも散々煮え湯を飲まされてきましたからね……」


 彼らとてこれまで何もしていない訳では無いが……中々成果が上がらない事も事実。


 だが、ディセフはニヤリと笑って言う。



「そこで、ですよ。今度こそヤツらを壊滅に追い込むために作戦を考えてみたんですけど」


「……言ってみろ」


 アルドは部下の笑みに嫌な予感がしたが、闇の組織を壊滅させるための方法があるのならば……と、彼の考えを聞くことにした。



 そしてディセフは、その作戦を説明する。

 それを聞いたアルドの表情は段々と険しくなっていき……




「駄目だ。その作戦は認められない」


「何故ですか?今の現状を打破するためには、これくらいの事はやらなければ……と思いますが」



 アルドに不機嫌な声で却下されても、ディセフは怯まずに言う。

 その表情は先程までとは異なり真剣そのものだ。



「彼女を危険に晒す真似など、できるはずがないだろう」


「ですが。彼女以上の適任者はおりません」


「作戦を実行するにしても、騎士団から人員を出せば良いだろう」


「上司の私が言うのも恥ずかしい限りですが……ウチの女性騎士では心許ないです」


 アルドとディセフの問答が続く。

 お互いに一歩も譲る気はないようだ。



「……彼女は一般市民だぞ」


「……今更何をおっしゃいますか。それに危険と言いますが……彼女をどうこう出来るものなどいないでしょう。それは陛下の方がご存知のはず」


「…………」


「それに。もし彼女の力でこの件が解決したなら……彼女には揺るぎない名声が約束される。平民と侮るものも減るでしょう。それは、陛下にとっても喜ばしいことでは?」



 平行線を辿ると思われた話は、どうやらディセフの方に傾きつつあるようだ。

 アルドは目を閉じて、押し黙って考える。

 自分自身の感情と、王の責務を天秤にかけているのだろう。


 時として個人の感情は王としての決断を鈍らせる。

 その事は彼自身よく分かっていたはずだが……ことこの件に関しては個人の感情を優先させていた事に気が付いたのだ。



 そして。




「分かった。その作戦……認めよう」


 決断を下す。


 その言葉と表情は、王に相応しい威厳あふれるものであった。



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